ロボット Insight

中国でトップシェアを誇るABBの産業用ロボット

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 中国でトップシェアを誇るABBの産業用ロボット

 ABBは、スイス・チューリッヒに本社を置き、世界の約100カ国に14万7000人以上の従業員を擁する電力技術とオートメーション技術のリーディングカンパニーです。産業用ロボット分野でも世界でトップクラスのシェアを誇り、累計出荷台数は40万台以上を誇ります。同社の産業用ロボットは、堅牢性が高く、過酷な作業環境下でも高い軌跡精度を実現できることなどで定評があり、自動車、鋳造・鍛造、金属加工、プラスチック、パッケージング&パレタイジングなど幅広い分野で採用されています。製品は小型(3kg可搬)から大型(500kg可搬)までさまざまなタイプを、コントローラーやソフトウエアなどの関連機器も含めて展開しています。

双腕型協働ロボットの用途が拡大

 ABBが注力している製品の一つに、双腕ロボット「YuMi(ユーミィ)」があります。安全柵なしで使用できる協働型ロボットで、重さが38kgと大人2人で運ぶことができる小型の製品です。可搬重量が500gで、繰り返し精度が0.02mmと非常に優れていることから、タブレットPCや携帯電話の組立など、エレクロトニクス分野における小型部品を用いた作業で主に使用されています。
 最近は、エレクトロニクス以外の分野でも採用が増えており、その一つとして米テキサス州ヒューストンで2019年10月に開設された医療研究所にユーミィが導入されました。新しい医療研究所は、毎年1000万人の患者を受け入れる世界最大の医療都市「テキサスメディカルセンター(TMC)」内にあり、顕微鏡へのスライド準備や遠心分離機への装填といった反復作業をユーミィで自動化しています。加えて、臨床検査をサポートする新たなロボットシステムの開発も進めています。
 他にも、スイスのソフトウエア企業であるAbrantix社が、ユーミィを活用し、ATM(現金自動預け払い機)のテストを自動化することに成功しています。ATMは通常6カ月ごとにソフトウエアが更新されます。その際に行う紙幣の投入テストなどは手作業で行われることが多く、人がATMの前で長時間過ごすことが求められるうえ、人為的ミスのリスクも伴います。そこでAbrantix社は、ユーミィを活用し、カードの挿入、暗証番号の入力、入出金などの操作を自動化しました。テストではクリップで束ねられた紙幣を挿入するなど、意図的にミスをするプログラムなども組み込まれており、新しいATM用ソフトウエアがさまざまな問題に対処するテストにユーミィを用いました。

中国で新工場を整備中

 ABBのロボット製品は欧州市場で数多く使用されています。そして、中国市場でも高いシェアを有します。ABBでは1990年代から中国市場への本格的な展開を開始し、ロボット関連では2005年から上海で製造拠点を稼働させるなど、中国のロボット市場に早くから参入し、中国のロボット事業全体では2000人以上のエンジニア、技術専門家、オペレーションリーダーを雇用しています。その結果、現在中国の産業用ロボット市場でトップのシェアを有します。そして、その中国における新たな取り組みとして、2019年9月から中国・上海近郊にて産業用ロボットの新工場の建設を進めています。
 ABBは現在、ロボット製品の生産を、中国・上海、スウェーデン・ヴェステロース、米ミシガン州で行っており、上記の新工場が稼働した際には、上海市にある既存工場の機能を新工場へ移管していく予定です。投資額は1億5000万ドル、稼働開始は2021年初頭を予定しています。
 新工場の建設地は上海近郊の康橋で、延べ床面積は約6万7000㎡。ロボット、機械学習、デジタル技術、協働ソリューションなどを導入し、ロボットでロボットを製造する体制を構築する考えです。部品などを搭載したAGV(無人搬送車)が製造ポイント間を移動するシステムなども採用し、従来のライン生産システムに比べてカスタマイズ性や柔軟性を向上させる方針で、小型部品組立作業のラインにはユーミィを導入し、人とロボットが同じ生産ラインで連携できる体制も整備します。加えて、新工場にはR&Dの機能も付帯させ、自動化ソリューションをユーザーと共同開発するオープンイノベーションハブとしても活用する計画です。ABBでは新工場の整備で中国での地位をさらに強固なものにし、中国以外のアジア地域への供給体制も強化する考えです。

ロボット総合施設を日本でも展開

 ABBには、ユーザーとのコラボレーションや新規ソリューションの開発において重要な役割を担う「アプリケーション・センター」と呼ばれる施設があります。最新ロボットを展示し、デモテスト、トレーニングなどが行えるロボットの総合施設で、日本では2014年6月に「ロボットアプリケーション・ワークショップ」(現ABBロボティクス アプリケーション・センター 東日本)を東京都多摩市に開設しました。ロボットならびにその関連システムを常時配置し、エンドユーザーやシステムインテグレーターと共同で、デモ運転だけでなく、実際のロボットを使用した導入前の検証・改良などを行うことができます。この施設を活用することで実際に導入した際の課題やイメージを明確にすることができ、食品業界など、これまでロボットを導入したことがない企業にもABBのロボットの効果を訴求することにつながっています。
 そして日本で2カ所目のアプリケーション・センターとして2018年6月に、ABBの中部事業所(愛知県豊田市鴻ノ巣町4-86-1)内に「ABBロボティクス アプリケーション・センター中日本」が開設され、主に自動車関連企業が活用しています。
 展示スペースには、可搬重量150kgの大型垂直多関節ロボット、力検知センサー一体型ロボットシステム、人と隣り合って作業が可能な協働型の双腕ロボットなどに加え、工作機械向けのオールインワンロボットソリューション「FlexLoader SC 3000」が常設されています。
  FlexLoaderは、工作機械に併設して使用するロボットソリューションで、ロボットが工作機械へワークを装填し、加工後の取り出しも行うことで、工作機械の稼働率を最大60%向上させることができます。ロボットに加え、ビジョン、取り出し用コンベアーなどがワンパッケージ化されており、ロボットプログラムもあらかじめ組み込まれて納品されるため、現場での設置・立ち上げが簡易で、さらにティーチングも直感的な操作で行うことができます。
 ロボットの導入を計画する企業は、従来、生産の効率化、コスト削減、ROI(投資対効果)などを導入の重要ポイントに設定していましたが、最近は人手不足が深刻化しロボットを労働力と捉えた案件が増加しています。それに伴い、生産ライン全体にロボットを活用したいというユーザーも年々増えており、周辺機器やソフトウエアも含めたトータルでの提案力がロボットメーカーには求められています。それを受けてABBでは、システムや製品別の組織体制から、「自動車・OEM」「自動車部品」「三品・物流」など、用途・アプリケーション別に提案できる組織体制に切り替えています。導入した際の課題やイメージを明確にできるアプリケーション・センターの重要性も高まっているといえるでしょう。

(執筆:産業タイムズ社)

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