ロボット Insight

中国で存在感が増すKUKAのロボット

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 中国で存在感が増すKUKAのロボット

 製造現場で使用される産業用ロボットは、日本では、ファナック株式会社、株式会社安川電機などが高いシェアを有し、海外勢ではABB(スイス・チューリッヒ)、そしてKUKAが大手企業として知られています。KUKAは、ドイツ・アウクスブルクに本社を置き、創業は1898年、アウグスブルク市オーバーハウゼンで、廉価な家庭・街灯用照明器具、家庭用機器、自動車用ヘッドライト用アセチレンを製造する工場を設立したことが企業としての始まりです。
 ロボット事業のスタートは1973年で、自動車業界からの高性能で信頼性のあるロボットへの要請が高まる中、電動式6軸駆動ロボット第1号「FAMULUS(ファミュラス)」を開発しました。1996年には世界で初めてPCをベースとしたロボット制御を開発するなど、革新的な製品を次々と市場に投入し、現在、世界トップクラスのシェアを有しています。また、2014年後半には物流施設などの自動化システムを展開するSwisslog(スイスログ)社を買収しており、AGV(無人搬送機)製品などを含めた総合的な提案力を備えています。

多様な製品をラインアップ

 KUKAはさまざまな用途・作業に対応できる産業用ロボットをフルラインアップしており、可搬重量は最大1300kg、350種類以上の製品を取り揃えています。精度、安全性、長期信頼性などに加え、技術の革新性でもユーザーから高い評価を得ています。そのためロボットが多く導入されている自動車関連や電子・電機分野以外での採用事例も多く、欧米の医療機器メーカーでは同社のロボットアームを活用した画像診断装置や放射線治療装置が製品化されています。変わった例では、ロボットとAI技術を組み合わせて、毛髪の修復処置を行うシステムを開発するRestoration Robotics(米カリフォルニア州)が、最新機種「ARTAS iX」においてKUKAのロボットを採用しています。
 そういった中、KUKAが近年取り組みを強化している製品の一つが、安全柵なしで使用できる協働型の7軸多関節ロボット「LBR iiwa」です。LBR iiwaは7軸すべてにトルクセンサーを搭載しており、力を制御しながらさまざまな作業が行え、部品が正確に配置されていない場合でも、その位置を特定して自ら調整するといったことができます。また、トルクセンサーはわずかな外力にも反応するため、衝突から人を安全に保護することができ、エッジのない流線型のフォルムを採用することで安全性をより高めています。世界中で一般的に使われているプログラム言語の「JAVA」でもティーチングでき、ロボット特有のプログラミング知識がなくてもティーチング可能な、非常にオープンな環境のロボットとなっています。
 KUKAはLBR iiwaと自律移動型の搬送台車を組み合わせた「KMR iiwa」も展開しています。搬送台車という「足」を持つことで、生産ライン内を移動し複数の役割を1台でこなすことができます。KUKAではロボットだけでなく搬送台車も自社で開発しており、1台のコントローラーで両方を制御することが可能です。台湾の半導体メーカーがFOUP(ウエハー用の収納容器)の搬送などに活用しており、2019年8月にはFOUPなどをパッケージ化した「KUKA Wafer Handling Solution」の販売を開始しました。

システムを含めた総合提案力

 近年はロボット単体ではなく、システムやソリューションとしての提供にも力を入れており、その一環として、用途に応じたソフトウエアなどをあらかじめパッケージ化した「Ready2 use packages」のラインアップを拡充しています。例としては、ロボットにジョイスティックを接続することで通常のロボットをダイレクトティーチ対応機種にできる「Ready2 Pilot」、ドイツの塗装メーカーであるデュール社と協力して開発した塗装ソリューションの「Ready2 Spray」、溶接やねじ締め用のソリューションなどがあり、これまでロボットを使ったことがないユーザーでも導入しやすいような技術開発に力を入れています。
 加えて、新たなクラウドサービス「KUKA Connect」に関する取り組みも強化しています。KUKAコネクトはKUKAのロボットをクラウドにつなぐための新しいIoTソフトウエアプラットフォームで、遠隔地にいてもロボットの稼働状況をモニタリングでき、収集したビックデータを生かした生産改善や故障予知などにつなげることができます。KUKAグループはKUKAコネクトをインダストリー4.0に関連した次世代システムの実現に向けた入り口になる技術と位置づけています。

2016年に美的集団が買収

 こういった実績や技術などを高く評価したのが中国の大手家電メーカーである美的集団(ミデアグループ)で、同社は2016年KUKAに対して買収提案を行い、KUKAはその提案を受け入れました。具体的には2016年5月に美的集団が買収提案を行い、同年8月上旬までにKUKAの株式81.04%を新たに取得すると発表し、2016年12月に買収作業が完了しました。
 取得費用は50億ドル前後とみられ、美的集団は買収提案前から保有していた13.51%と合わせ、KUKAの株式94.55%を手中に収めました。なお、美的集団はKUKAに対してドイツの本社ならびに生産体制などを2023年末までは変更せず、雇用を継続することなどを約束しています。  2018年3月にはKUKAとミデアグループが折半出資の合弁会社を設立し、KUKAは美的集団のネットワークを活用し、中国での販売を拡大しています。また生産面では中国・順徳区において新しい拠点を整備(投資額は100億元)。KUKAのロボット製造工場としては、ドイツ工場と中国・上海工場に続く3カ所目で、2019年末ごろから稼働を開始したとみられています。2024年までに産業用ロボットとAGVを合わせて年産7万5000台の生産能力を確保する予定で、中国全体での生産能力は年産10万台規模まで拡大する見通しです。

(執筆:産業タイムズ社)

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