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米国で高シェアを誇るファナックのロボット

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 米国で高シェアを誇るファナックのロボット

 製造現場で使用される産業用ロボットは、ファナック株式会社、株式会社安川電機、ABB(スイス・チューリッヒ)、KUKA(独アウクスブルク)が4強といわれ、この4社で世界シェアの7割以上を持つともいわれています。その中で産業用ロボットの累計出荷台数が50万台以上という世界最多の実績を誇るのがファナックです。

GMとの合弁を機に米国で拡大

 ファナックは1956年に日本で民間初の工作機械用NC(数値制御)装置とサーボ機構の開発に成功して以来、工場の自動化に関する製品開発に取り組んでいます。その一環として1977年から産業用ロボットも量産しており、現在、ファナックのロボット部門の売上高は2025億円(2019年度実績)に上ります。そしてファナックのロボット部門の特徴としては米州地域の売上比率が高いことが挙げられます。
 現在、産業用ロボットの世界市場は42万2000台(2018年、国際ロボット連盟調べ)で、そのうち中国市場が全体の36%を占めます。一方、ファナックのロボット部門は売上高2025億円のうち約39%の784億円が米州市場での販売であり、中国市場の割合は約18%なのです。そのため、米州、特に米国におけるファナック製ロボットの存在感は非常に強いといわれています。
 ファナックのロボットが米国で高シェアを有する理由の一つが1982年に米ゼネラルモーターズ(GM)との共同出資により設立された「GMファナックロボティックス社」です。ファナックはこのGMとの連携を活かして、自動車製造現場を中心に米国で導入実績を積み上げていき、米国最大のロボット会社としての地位を確立しました。その後、1992年にファナックはGMファナックロボティックスを完全子会社にして、社名をファナックロボティックス社に変更し、現在に至るまで米国のロボット市場で高いシェアを有しています。
 そのためファナックのロボット部門は、米国の設備投資に左右される割合が他のロボットメーカーに比べて大きく、新型コロナウイルスの最大の感染国となっている米国での経済回復が遅れると、ファナックのロボット部門にも影響が出ることが予想されます。一方、米国では、アフターコロナを見据えて、製造現場におけるソーシャルディスタンスの確保や事業継続性などの面から、企業の自動化に対する投資意欲が高まるとの見方も広がっており、ロボット需要の高まりも予想されています。

協働ロボットのラインアップを拡充

 製品面では、可搬重量(搬送できる最大重量)が500gという小型タイプから、可搬重量2.3tという超大型タイプまで多種多様なロボットをラインアップしています。そして近年、開発を強化している製品の一つが、安全柵なしで使用でき、人との作業も可能な協働ロボットです。ファナックの協働ロボットは外装が緑色であることから通称「緑のロボット」とも呼ばれています。ファナックのコーポレートカラーである黄色ではなく緑色を採用することで、一般のロボットと区別して人に安全なイメージを与えることが狙いといわれています。現在、可搬重量別に、4kg、7kg、14kg、15kg、35kgタイプをラインアップしており、天吊りや壁かけ設置に対応できるタイプも取り揃え、電子部品などの小型部品の搬送・組立をはじめとしたさまざまな製造工程に活用されています。
 新たな動きとしては、2019年12月に開催された「2019国際ロボット展」にて、協働ロボットの新バージョン「CRX-10iA」と「CRX-10iA/L」(ロングアームタイプ)を発表しました。新バージョンの外装は緑色ではなく、白を基調としたデザインで、新しいユーザーインターフェースを採用しています。可搬重量は10kgで、アームを軽量化し、ダイレクトティーチへの対応力も高めました。また、協働ロボット関連の動きとしては、株式会社明電舎(東京都品川区)が、ファナック製の協働ロボット(可搬重量14㎏)を搭載したAGV(無人搬送車)「RocoMo-V」(ロコモブイ)の販売を2019年11月から開始しました。これによりロボット自らが移動し、1台で複数の工程に対応できるようになりました。

ロボットの生産能力を拡大

 ファナックでは近年、ロボットの生産体制も拡大しています。2016年度まではロボットの生産を本社工場(山梨県忍野村)のみで行っており、その際の生産能力は月産5000台でした。そこからまず本社工場内での増強を図り、2017年に生産能力を月産6000台へ引き上げました。そして同時に、茨城県筑西市にある「筑波工場」の一部をロボット製造ラインに転換し、筑波工場でロボットを月1000台生産できる体制を整えました。
 さらに2017年7月から茨城県筑西市にある「茨城県つくば明野北部(田宿地区)工業団地」の敷地約28.7万㎡にてロボットの新工場の建設を開始しました。加工、塗装、組立、試験を一気通貫で行うことができ、先端のIoT技術も導入した拠点で、2018年秋から本格稼働しました。
 新工場への投資額は、土地、建屋(工場、厚生施設、その他付帯工事)、生産設備(第1期)を合わせて約630億円という大規模なもので、新工場では最大月産4000台のロボットを生産できるスペースを有します。つまり、ファナックは数年間でロボット生産能力を月産5000台から月産1万1000台まで引き上げたのです。
 また、ファナックのロボット製造ラインはほぼ無人だといわれています。つまり、ファナックのロボットを使ってファナックのロボットを製造しているというわけです。そのため「ファナック内にあるロボット生産棟は普段人がないため電灯が点いていない。ユーザーやサプライヤーなどが工場見学に来たときだけ生産棟内の電灯を点ける」といった都市伝説のような話まで存在します。
 この事例が示すようにファナックではロボットを自社工場でも積極的に活用しており、現在、山梨県にある本社工場だけで3600台以上のロボットが導入されています。つまり、ファナックは世界有数のロボットメーカーであると同時に世界有数のロボットユーザーでもあり、ロボットユーザーとして得た知見をロボットの設計・開発にフィードバックすることで優れたロボットを生み出してきました。ファナックのロボットの強みは色々ありますが、ファナックのロボットの凄さをファナック自身が知っていることが、ファナックの一番の強みなのかもしれません。

(執筆:産業タイムズ社)

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