ロボット Insight

総合力を強化する安川電機のロボット事業

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 総合力を強化する安川電機のロボット事業

 株式会社安川電機は、1977年に日本で初めての全電気式産業用ロボット「モートマンL10」を発売して以来、産業用ロボット市場で常にトップクラスのシェアを有する企業です。安川電機のロボット部門の特徴の一つが、ロボット製品群の幅広さです。国内トップシェアを有するアーク溶接を中心に、スポット溶接、ハンドリング、組立、塗装、液晶パネル搬送、半導体ウエハー搬送などに対応するロボットをラインアップしており、さまざまな製造現場の自動化ニーズに対応できる製品技術力を有しています。
 変わったところでは、ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社(RBI)という企業も安川電機のグループ会社です。RBIは、産業技術総合研究所の創薬分子プロファイリング研究センターと安川電機の連携から生まれた企業で、バイオ創薬の実験作業向けのロボット「LabDroid まほろ」を展開しています。熟練技術者のバイオ実験作業を代替できるシステムで、研究機関や創薬メーカーなどで活用されています。

国内外で連携を拡大

 安川電機はロボット分野において幅広い企業との連携も進めています。例えば、中国の大手家電メーカーである美的集団とは、2015年に産業用ロボット事業を展開する合弁会社「広東安川美的工業機器人有限公司」を設立。合弁会社で開発したロボットシステムが美的集団の工場内で活用されており、システムやデータソリューションなどを含めたスマートファクトリー化を目指した協業も進めています。美的集団とは2016年に介護リハビリ向けのサービスロボット事業を展開する合弁会社「広東美的安川服務機器人有限公司」も設立しており、2017年5月に第1弾の製品を発売しています。中国ではEMS(電子機器製造受託サービス)企業の「深圳市長盈精密技術股份有限公司」(チャンイン)とも合弁会社を2017年に設立。安川電機とチャンインのノウハウを融合して、スマートフォンの製造現場で使用する産業用ロボットを展開しており、開発品はチャンインの工場内を中心に活用されています。
 2020年2月にはRapyuta Robotics株式会社(ラピュタ・ロボティクス、東京都中央区)と資本業務提携を締結しています。ラピュタ社は2014年に設立されたチューリッヒ工科大学の認定ベンチャーで、クラウドロボティクス・プラットフォーム「ラピュタアイオー(rapyuta.io)」などを展開しています。ロボットの開発・運用を簡易にできるクラウドシステムで、専用のミドルウエアを整備しなくても、ロボットのハードとソフトをスムーズに連携させることができ、社内にロボット技術の専門家がいなくても包括的なロボティクスソリューションを構築できることが特徴です。安川電機では、ラピュタ社との技術融合で、アーム型ロボットとAMR(人協調型自律移動ロボット)といった形態の違う複数のロボットが連携して動く、製造・物流現場を目指していく考えです。

三つの「i」で製造現場を高度化

 安川電機が近年注力している取り組みの一つに、「アイキューブメカトロニクス(i3-Mechatronics)」というものがあります。これは、安川電機が有する自動化技術に、デジタルデータのマネジメントを融合した三つの「i」で構成されるソリューションコンセプトです。同社はこれまでにロボット、サーボ、インバーターといったメカトロニクス製品によってさまざまな現場の自動化ソリューションを提供してきましたが、アイキューブメカトロニクスではこれらを「integrated(統合)」し、独自のエッジソフトウエアで設備や装置のリアルタイムデータを収集します。そしてAIをはじめとした「intelligent(知能化)」なソフトウエア技術によって、ライン全体の状況確認、オーダーの実行状況や工程別の進捗状況、工程内の作業別進捗状況などを実現。その結果、顧客の生産プロセスに新たな「innovative(革新)」を生み出すというものです。
 ソリューションの一例としては、AIを活用した機械設備の故障予知や寿命の最適予測、AR(拡張現実)を活用したメンテナンス、VR(仮想現実)によるロボットへのティーチングなどがあり、さらにビッグデータの活用によるタクトタイムの短縮、品質データの分析と解析による検査の均一化なども提供しています。

AI/IoT分野でも連携を拡大

 こういったソリューションの構築に向けての企業間連携も進めており、その一つとして2018年にAIソリューション開発などを手がける株式会社エイアイキューブを立ち上げ、同社を通じてAIベンチャーの株式会社クロスコンパス(東京都千代田区)との連携を強化しています。ロボットが対象物の掴み方を自ら学習するAIピッキング機能などを開発しており、部品配膳システムや仕分けシステムへ適用することなどを見込んでいます。
 また、ソフトウエア開発などを手がける株式会社YE DIGITAL(北九州市小倉北区)と、製造業における工場や物流などの自動化に関するIoTソリューション事業を展開する新会社「株式会社アイキューブデジタル」を2020年7月1日に設立しました。
 YE DIGITALは、安川電機のIT会社「安川情報システム」として1978年に創業し、2019年3月に現社名へ変更。社会インフラや文教市場など、非製造業向けのIoT技術で競争力を持ち、製造業向けにおいてもネットワークからクラウドまで幅広いサービスを展開しています。新会社のアイキューブデジタルは、YE DIGITALが保有するIoTソリューション事業のうち、工場自動化に関する事業を継承して、安川電機のメカトロニクス技術との融合を図り、アイキューブメカトロニクスを軸とした製造業向けのIoTソリューションの取り組みを強化しています。
 冒頭にも述べたように安川電機は、さまざまな製造現場の自動化ニーズに対応できる製品技術力を有していますが、幅広い企業との連携やアイキューブメカトロニクス関連の取り組みを通じ、その力をさらに高めています。

(執筆:産業タイムズ社)

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