工場をはじめ、ビルや店舗、インフラ点検など、さまざまなシーンでロボット活用が期待されています。ロボット市場は現在進行系で成長しているとはいえ、これが一時的なものなのか、数年先まで成長が続くのか気になるところです。そこでロボット市場の現在と直近の予測を見てみましょう。
ロボット活用が最も早く進んだのが製造業の工場です。その理由としては、工場内は人やモノが決まったルールの中で動く空間であり不確定要素が少ないため、ロボットに作業をまかせやすく、費用対効果も算出しやすいことがありました。塗装や溶接、取り出し、重量物の搬送など、人が敬遠しがちないわゆる3K作業にはじまり、ピッキングや組み立て作業など、その領域は今も広がっています。
産業別では自動車産業と電子機器、半導体産業が先行しています。これらは日本の基幹産業であり、事業規模が大きなメーカーが多く設備投資が盛んだったことに加え、取り扱うワークが硬く、形が決まっていてロボットが保持しやすいこと、また現場改善を通じて作業が標準化されておりロボット導入の下地が整っていたことも大きな要因でしょう。
そんな製造業向けロボットの最新の世界市場規模について、富士経済研究所の調査(※1)によると、2019年には1兆174億円に達しています。内訳は溶接・塗装系が3408億円、アクチュエーター系が514億円、組立・搬送系が5463億円、クリーン搬送系が789億円となっています。2015年の同じ調査では7110億円でしたので、約4年間で1.43倍まで拡大したことになります。世界的な自動化需要の高まりと、インダストリー4.0を起点とした第4次産業革命、デジタルトランスフォーメーション(DX)が追い風となって加速度的に広がっています。
この勢いはこの先当分続くと予想されており、同調査では2025年には2019年の2.2倍となる2兆2727億円になると見通しています。生産性向上を目的としたスマートファクトリー化の進展、5G普及によるスマートフォンや半導体需要の高まりとそこへの設備投資強化、EVや自動運転車の普及による自動車産業における生産ラインの刷新などネタは豊富で、ロボットに対するニーズはまだまだ続くと見られます。
年々注目が集まり、人手不足解消の切り札とも期待される協働ロボットはこれから。いまは大手製造業や物流倉庫の現場で実験的な運用を行っていたり、スタートアップや飲食・サービス業界で用途開発を行っている段階です。同調査によると2019年の市場規模は590億円。2025年には約4.5倍の2653億円になると見られています。
また、国際的なロボット業界団体である国際ロボット連盟(IFR)の調査では、2018年の世界の協働ロボットの設置台数は1万4000台。占める割合としては産業用ロボット43万2000台の3%ほどですが、その伸び率は2017年に比べて23%増と勢いが増しています。
この市場は主要メーカーの製品が出揃い、企業の関心も高くなっています。あと数年後には実際の現場でバリバリ動いている状態を見ることができそうです。
物流倉庫や店舗、ホテル、病院、介護施設など工場以外の業務エリアや人の生活空間の中で働くサービスロボット。定量的に導入効果が表せる産業用ロボットに比べて普及スピードの遅さが懸念されていましたが、近年は、物流倉庫向け搬送ロボットや手術支援ロボット、お掃除ロボットやスマートスピーカーといった業務特化型のロボットが世界的に導入されています。
富士経済研究所の調査(※2)によると、2019年の業務・サービスロボットの世界市場規模は1兆9819億円。2015年には4939億円でしたので、こちらも4年間で約4倍の規模に急成長しています。2025年には2019年の2.3倍となる4兆6569億円まで拡大すると目されています。
最も規模が大きいのが、お掃除ロボットやスマートスピーカー、パーソナルモビリティといった家庭用ロボットの1兆1075億円。特にお掃除ロボットやスマートスピーカーは多くのメーカーが取り組み、価格もこなれてきたことから普及が進んでいます。2025年には現在の2.1倍の2兆2901億円まで達すると予測されています。
物流・搬送用ロボットにおいては、Eコマースの広がりによる荷量の爆発的な増加によって世界的に人手不足が深刻化していることから、そこに特化したAGVやモバイルロボットの導入が進んでいます。その市場規模は2019年には1647億円でしたが、2025年には約5.1倍となる8339億円に達する見込みです。
この他、現在は手術支援ロボットが中心になっている医療・介護向けのロボット活用は、入浴や排泄支援ロボット、パワーアシストスーツなど介護向けの広がりが期待されています。
また以前からロボットの主要アプリケーションと目されていたインフラ点検ロボットはこれから。世界市場規模は数十億円にとどまっていますが、国内では公共インフラや大規模プラントの老朽化対策が急務となっており、そこへの活用が期待されています。実際に経済産業省と総務省、消防庁ではドローンを使ったプラント保安・点検のガイドラインづくりが進んでいます。
オフィス・店舗用ロボットについては、数年前に受付案内用の人型ロボットで一時的にブームが起こり、全国チェーンの飲食店などで見かける機会がありましたが、なかなか定着しませんでした。その一方でオリンピックに備えて羽田空港と成田空港でセキュリティロボットや清掃ロボットが実験的に導入されており、オリンピック後に期待が寄せられています。
はじめにロボットが普及したのは製造業の工場でした。温湿度や明るさなどが一定の安定した環境で、人とも作業領域が完全に分かれ、業務も定型化されている中で使われてきました。今はその閉鎖空間の外、不確定要素に囲まれた中への第一歩を踏み出したところです。
また近年、社会をより便利にするためにDXやデジタル化が盛んに叫ばれています。DXの実現にはITシステムやソフトウエアだけでなく、それをリアルの世界で実行するハードウエアが必要とされ、その中心的な役割を担うのがロボットとなります。その意味では、ロボットの本格普及は始まったばかりであり、これからが本番と言っても過言ではないでしょう。
日本は、世界的な大手ロボットメーカーがひしめき、自動車業界と電気業界で世界のロボット導入をリードする、名実ともにロボット大国です。しかし、これからの主戦場と見られている製造業以外のロボット市場は、中国など海外勢の動きが目立ちます。日本がロボット大国の位置をキープし、強固にしていくためにも、もっとロボットの社会実装が求められます。
※1 富士経済研究所、「2020 ワールドワイドロボット関連市場の現状と将来展望 No.1 FA ロボット市場編」
※2 富士経済研究所、「2020 ワールドワイドロボット関連市場の現状と将来展望 No.2 業務・サービスロボット市場編」