ロボット Insight

フードテックを引っ張る調理ロボットの現在地

レンテックインサイト編集部

 フィンテック、アグリテックと今や「X-Tech(クロステック)」が花盛り。中でも昨今世界的に注目されているのが「フードテック」です。フードテックには、フードロスを解決する手法や食糧難を解決する食材の開発や、レストランのあり方を変える調理ロボットなどがあります。ここではさまざまな可能性が広がる調理ロボットについてご紹介します。

調理ロボットのニーズが高まるさまざまな要因

 Meticulous Market Researchの「食品ロボット市場予測2019-2025」によると、2025年までに食品産業用ロボットは年間平均32.7%で成長し、31億ドル(約3300億円)に達するとしています。

2020年には改正食品衛生法と国際的な衛生管理基準HACCPが制度化し、原材料から出荷まで、全工程における衛生管理・データ化の対応が義務付けられることになりました。少子高齢化や働き方の多様化が進むにつれて、調理済み加工食品、外食、中食へのニーズが増加する一方で、食中毒や異物混入といった問題も頻繁に発生し、食の安全・安心への関心が高くなっています。

ロボットの役割の幅が広がっています。従来の一般的な産業ロボットは事故を防ぐための安全柵を設置するなど、人の安全を確保した状態で使用する必要がありました。しかし、労働安全衛生規則の改訂により、人が接触しても危険がないと認められる場合は「協働ロボット」として、人と協働できるようになりました。つまり調理場で人と一緒にロボットと働くことが現実的になってきたのです。

どの業界にも共通している人手不足も深刻です。飲食業界ではこれまで労働ビザの制限から留学生アルバイト以外の雇用が困難でした。入管法改正でこの状況が緩和されるものの、雇用面でトラブルが発生するリスクも高くなります。また、外国人についても将来的には人口減少で経済が停滞する日本を働き先として選ばなくなるといわれています。

食品の厳格な安全性と人手不足、人件費の高まり、生産性向上の目的から、今後調理ロボットの存在感はますます高くなるでしょう。

効率化だけでなく、おいしさ、楽しさを追求するロボット

 特にアメリカではこの分野が注目されており、2019年4月にはフードロボット(調理ロボット)に特化したカンファレンス「ArticulATE」がアメリカ・サンフランシスコで開催されました。調理ロボットがアメリカで注目されるのは、調理スタッフが低賃金に加えて、接客スタッフと違ってチップがなく、モチベーションが低下する環境にあるため、特に担い手が不足する状況にあるためです。

ArticulATEでは、調理ロボットを効率化だけではなく、「生活者の体験向上」という新たな価値として位置付けていました。

生活者の体験向上の一つが「おいしさ」です。一流シェフに匹敵するレシピと調理の技術を安定的に提供することが期待されています。もう一つが「楽しさ」です。例えばロボットが調理をする様子を見せることで楽しさを提供する、ロボットが調理を引き受けることでスタッフが接客に集中する、といった新しい価値の創出の事例も増えてきています。

調理ロボットを中心とした店づくりも始まっています。Creator社はシースルーのハンバーガー調理ロボットを開発しました。調理ロボットは、注文を受けてからバンズをカットしてトーストし、トマト、玉ねぎ、ブロックのチーズ、を都度スライスします。最後に焼いたパテとともにバンズに挟み込んで終了。この一連の動作をロボットだけで行います。

野菜をストックしている筒はシースルーになっており、野菜の鮮やかな色が映えてビジュアルでも楽しめるようなロボットになっています。Creator社はこのロボットを8年かけて開発し、2018年に店舗をオープンしました。価格は1個6ドル。同等のクオリティを提供する他のハンバーガーショップの半額の値段を実現しました。見て楽しく、食べておいしく、うれしい安さという価値を訴求しています。

多能工ロボットが調理の可能性を広げる

 日本で開催された「2019国際食品工業展(FOOMA JAPAN 2019)」においても、「エンジニアリング・ロボット・IoT」が新設され、61社が出展しました。

FOOMAでは、人と一緒に働く「多能工」ロボットが目を引きました。狭いことの多い調理場でロボットを活用するためには、1台でいかに多くの作業工程を担当できるかが鍵となり、今後も追及されていく機能といえるでしょう。

オムロン社の協働ロボット「TMシリーズ」は、移動台車と組み合わせて、位置を変更しながら複数の作業をこなすことを実現しています。

通常、ロボットは位置を固定して設置し、その位置からの距離によって他のものを識別します。そのためロボットの位置を変更するには、複雑な設定変更作業をしなければなりません。それに対してTMシリーズでは、「ランドマークナビゲーション」によって、誰でも簡単にロボットの位置調整、作業内容の変更を行うことができます。

FOOMAのデモンストレーションでは、番重から弁当を取り出す作業と、検査の後に弁当を番重(食品業界で使用されている浅いトレー)へ積み込む作業を、場所を切り替えて実施していました。

コネクテッドロボティクス社は、コンビニエンスストア向けの「ホットスナックロボット」を披露しました。来店客がタブレットで「アメリカンドッグ2本、唐揚げ串3本」と入力すると、必要な本数を商品棚から取り出し、パックにのせて来店客に提供します。また、商品棚に商品がない場合は、冷凍庫から商品をピックアップしてフライヤーへ投入し、調理が終われば商品棚に並べます。冷凍庫の開け閉めもロボットが行います。

FOOMAの展示では、ホットスナックロボットの一連の流れをデモンストレーションし、最後に見学者に調理したものを提供して注目を集めていました。現時点では串の商品のみの提供ですが、今後はハンド部分を工夫して、フライドポテトやコロッケも扱えるようにする予定となっています。

また、同社では朝食調理ロボット「Loraine(ロレイン)」について、ホテルで実証実験を行いました。ロレインは、利用客がタブレットで入力すると、ベーコン、温野菜、卵を熱したフライパンに運び、調理して利用客に提供するという一連の作業を担当します。これは同社でインターンシップを行っている学生が中心となって開発しました。

調理ロボットの多能工化・低価格化がカギ

 飲食業界は営業時間が長く、仕込みや後片付けにとられる時間も多いのが特徴です。そのため、長時間労働にならざるをえず、人手不足が働く人にさらに重い負荷をかけています。

調理ロボットが飲食業界の労働力を補うには、より多くの工程を実施する能力を備える必要があります。また、飲食業界は比較的小規模事業者が多いのが特徴です。小規模事業者でも現実的な価格帯で導入でき、費用対効果が得られなければなりません。

今後はRaaS(Robot as a Service)やレンタルを活用して、繁忙期だけ調理ロボットを活用するという形態が出てくる可能性もあります。そのお店ならではのおいしさを安全に提供し、利用者は安心して楽しく利用できる、まさに生活者によりよい価値を提供するためにロボットが活躍する時代がすぐそこまで来ています。

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