ロボット Insight

レジリエントな社会をつくる災害対応ロボットの現在地

レンテックインサイト編集部

 「災害は忘れたころにやってくる」。これは物理学者である寺田寅彦氏の言葉ですが、日本では忘れるのが許されないほど大きな災害が次々と発生しています。 近い将来大きな災害が予測されている中、被害を最小限に抑え復興を早めるために活躍が期待されるのが災害対応ロボットです。 困難な状況から力強く回復する「レジリエントな社会」を作るために災害対応ロボットは今後どのような役割を担っていくのか、現在進行している取り組みをご紹介します。

過去災害の反省から本格化した災害対応ロボットの開発

 1995年の阪神・淡路大震災では、死者のうち約8割の方が倒壊した家屋の下敷きになって亡くなりました。 この災害による反省から、家屋の耐震性の強化や家具の転倒防止の対策が進みました。

しかしそれ以外にも死者を減らす方法がありました。 国土交通省近畿地方整備局のホームページ「阪神・淡路大震災の経験に学ぶ」によると、被災当日に救出された4人に3人は生存したのに対し、 被災翌日に救出された生存者は4人に1人しか助からなかったそうです。 その原因は、救出時の圧倒的な人手不足です。 多数の救出依頼に対して、地域内の消防・警察の人員は少なく、地域外からの応援要員は交通渋滞により容易に被災地まで到達できない状況でした。

日本は当時すでに世界有数のロボット大国でありながら、災害に対応できるロボットがなく、 この災害に際して、日本のロボットやロボット技術を役立てることができなかったことから、災害対応ロボット開発の機運が高まりました。

日本では、九州から関東にかけて強い揺れと津波が発生する「南海トラフ地震」や、首都圏中枢機能を直撃する「首都直下地震」が、今後30年以内に70%の確率で発生するとされています。 近い将来大災害が発生した時のために、被害を最小限に抑え、早期の復興を図る上で災害対応ロボットは重要な役割を担っています。

開発されている災害対応ロボット

 日本ではさまざまな災害対応ロボットの開発が行われています。活躍が期待される主な災害対応ロボットをご紹介します。

Quince(クインス)

 レスキュー隊や消防隊員が行う危険地域での調査を代行することを想定したロボットです。 2009年に東北大学、千葉工業大学が中心となり、さまざまな研究者・研究機関の協力のもとで開発されました。
起伏の激しい場所でも走行可能な「クローラベルト」や、進出方向を指示するだけでロボットが障害物を識別して進むことができる「半自律操縦支援システム」を備え、 レーザースキャナを使いリアルタイムで3次元計測を行います。
Quince は2011年の東日本大震災で発生した福島原発事故においても投入され、福島第一原子力発電所内部の探査にあたりました。

クローラー型レスキューロボット

 名古屋工業大学が開発し、2020年度に実用化を目指すロボットです。 クローラーで走破性を確保し、2本指で作業性を高めています。 大きな特徴は、2本指でロボットが触れた際の感触を遠隔操作している人のウェアラブル装置に伝えることができる点です。 人間とロボットの感覚を双方向でやりとりすることで災害現場での救助活動や情報収集活動以外での活用範囲を広げることが期待されています。

FUHGA(フーガ)

 京都大学の大学院生グループが開発するロボットです。 危険で人が入れない災害現場で、人命救助の支援に当たることが想定されています。 最長120cmまで伸び、回転するアームとその先についたグリッパで物をつまんで運んだり、バルブを回したりすることができます。 最新バージョンの「FUHGA2」はロボットの国際大会「World Robot Summit 2018」の災害対応の標準的な性能を競う部門で優勝しました。 初代FUHGAは災害対応も経験しており、過酷な状況に耐えるための改良が続けられています。

災害対応ロボットの開発を福島の復興につなげる

 ご紹介した災害対応ロボットからも分かる通り、すべての状況に一つのロボットで対応することは不可能です。

紹介したロボット以外にも、空を自在に飛び回る飛行ロボット(ドローン)やがれきの隙間を縫って進む蛇型ロボットなどそれぞれが連携して災害救助に当たることが想定されています。

さまざまなロボットを連携させて救助できるシステムを構築するためには、災害現場を想定した実証実験が不可欠です。 東日本大震災で大きな被害を受けた福島南相馬市の「福島ロボットテストフィールド」では、さまざまな災害現場を模した評価フィールドを2018年以降順次開所しています。

各評価フィールドは実際の災害現場を想定した施設となっており、ロボットが過酷な条件下での救出作業ができるかを実証できる環境があります。 例えばインフラ点検・災害対応エリアには5つのフィールドがあり、その中の一つ「市街地フィールド(2019年度第四四半期開所予定)」では住宅・ビル・交差点を配置して市街地を再現し、 建物の内外にがれきや車両などを配置して人員の捜索・救助などの訓練が可能となっています。

さらに新エネルギー・産業技術総合研究開発機構(NEDO)とも提携し、ロボット人材の育成にも取り組んでいます。

南相馬市では、この施設を通じて新規事業や雇用を創出し、地域経済振興につなげたいと考えています。 東日本大震災の爪痕深く、人口減少の課題を抱える南相馬市において、災害対応の拠点となることで、自らの復興への道を歩もうとしています。

レジリエントな社会をつくるために、災害対応ロボットに求められること

 レジリエンスとは「回復力」「復元力」を意味し、困難な状況から力強く回復する能力を指します。

日本は何度も災害で甚大な被害を受けており、世界の中でも特異な経験を持つ国といえます。 この教訓を生かし、大災害に遭ってもすみやかに回復するレジリエントな社会を作っていくための取り組みが求められています。

その取り組みの一つがロボットの活用となるのですが、現状ではロボット開発の環境が整備される一方で、ロボットのオペレーションの課題が浮き彫りになっています。 操作をするのはロボットの専門家ではなく、地域で救助にあたる人々です。 そうした人が極限の状況でも正しく迅速にオペレーションできるようなインターフェースを用意しておかなくてはいけません。

インターフェースを進化させていくためには、さまざまな人が使う必要がありますが、 災害対応ロボットは、頻繁に使われるものではないという特殊性があり、開発したロボットが実用性を持つまでに進化できないということが問題視されています。

この問題を解決するためには、福島ロボットテストフィールドなどの施設活用だけでなく、日常的な場面でロボットを使用することが必要です。 インフラ点検や危険地域での無人工事など、多くの経験を積むことで、災害対応ロボットが進化し、災害が発生した際に能力を最大限発揮することを願わずにはいられません。

ロボット Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next