産業用ロボットは、人間が直接操作することを前提とした機械ではないため、活用には、ロボットに仕事を教え込むための「ティーチング」が必要です。 しかし、ロボットが人工知能(AI)によって自ら仕事を覚えることが可能になれば、今よりもっと産業用ロボット活用の幅が広がることでしょう。
産業用ロボットのティーチングは、現場の作業者であれば誰でもが簡単に行えるというものではなく、そのことが産業用ロボット活用の課題になっています。 導入のコストパフォーマンスを上げるためには、一つの製造ラインだけではなく、さまざまな製造ラインで活用することが重要ですが、 新たな製造ラインでの活用には、一旦ティーチングした内容を変更して、一から新しい作業のためのティ―チングを行う必要があり、 そのためには誰もが簡単にティーチングできる仕組みが必要となります。
ティーチングには、さまざまな方法があります。大きく分けると、ロボットを動かさずに行う「オフライン・ティーチング」と、ロボットを実際に動かしながら行う「オンライン・ティーチング」の二つです。
オフライン・ティーチングでは、産業用ロボットに実行させる動作をコンピュータ上でプログラミングし、そのプログラムをロボットに転送して作業を行わせます。
この方法の大きなメリットは、ティーチングの課程で産業用ロボットを動かしたり、生産ラインを停止させたりする必要がないことです。
一方、デメリットとしては、プログラム上では完璧な作業ができていても、実際に生産ラインに組み入れた際に、いろいろと微調整が必要になるケースがあることです。
オフライン・ティーチングは、プログラミングの方法によって、さらに「テキスト型」「シミュレータ型」「エミュレータ型」「自動ティーチングシステム」など、四つに分類されます。
テキストエディタを使って、ロボットの動作プログラムを直接入力するティーチング方法です。 6軸多関節ロボットなど、複雑な動きをするロボットのティーチングで使用されることは少なく、搬送ロボットなど簡単な動きをするロボットのティーチングでよく使用されます。
3次元CADから発達したティーチング方法で、ロボット言語のアップロードやダウンロード、座標の逆変換、3D表示、3D作成などの機能がそろっています。 作成されたプログラムをコンパイルする(※プログラムを各ロボットが理解可能な形式に変換する)ことで、複数社の産業用ロボットに対してティーチングが可能です。
ほとんどの産業用ロボットメーカーが採用しているティーチング方法です。コンパイラを使わずに、ロボット言語を直接実行し、ロボットの制御装置そのものをエミュレート(疑似環境で動作検証)します。 これにより、細かい作業にも対応が可能になるなど、プログラムの精度が高くなるメリットがありますが、作成されたプログラムはそのメーカーの産業用ロボット専用となります。
CADデータから、加工プログラムを自動的に作成するシステムです。NC工作機械ではよく活用されている手法ですが、産業用ロボットへの応用は技術的に非常に難しく、現時点ではほとんど採用されていません。
オンライン・ティーチングでは、労働安全衛生法によって特別な教育を受けることが義務付けられている「ティーチングマン」と呼ばれる作業者が、ロボットを実際に動かしながらティーチングを行います。
一般的なティーチング操作では、「ティーチングペンダント」と呼ばれるリモコンを使って動作を指示し、各接合部の稼働具合を記録します。
オンライン・ティーチングでは、生産ラインにおけるロボットの動作を直接指示するため、細かい作業まで指示することが可能です。
一方、ティーチング作業中は生産ラインを止めなければならないため、ティーチングに時間を費やすほどロスが大きくなってしまいます。
オフライン・ティーチング、オンライン・ティーチングどちらを採用するにしても、プログラマやティーチングマンの人件費が発生します。 またコスト面の問題以前に、現在日本ではティーチングマンが非常に不足しており、自社で新たに育成する場合も、1~2年は必要といわれています。 産業用ロボットを導入する企業の目的が、人件費の削減や作業効率の向上であるにもかかわらず、プログラマに依頼をしたり、ティーチングマンを育てたりするための時間やコストが発生してしまっては、 そもそもの導入目的が達成できません。
そこで新たに注目されているのが、AIを搭載し、人間のように自ら作業を覚え、短期間で作業が習熟できる進化型の産業用ロボットです。 現場の作業者が行った動作をAIがそのまま真似する(コピーする)ことで、新しい作業のティーチングを自動で行うことを想定しています。
現時点では細かい作業への対応は難しいようですが、将来的に産業用ロボットが、自ら精度の高い作業を高速で覚えるようになれば、 ティーチングにかかる時間やコストが削減でき、産業用ロボット活用の幅はますます広がることになるでしょう。