拡大する半導体市場において、日本には世界でも高いシェアを誇る半導体装置関連企業が複数あります。その中の1社が株式会社KOKUSAI ELECTRICです。同社の前身は、日立製作所の子会社として事業運営していた日立国際電気(旧国際電気)における成膜プロセスソリューション事業(半導体製造装置事業)です。そして、KOKUSAI ELECTRICは、現在も半導体製造プロセスの前工程における成膜と膜質改善(トリートメント)の工程を軸に事業を展開しています。これらのプロセスには枚葉式とバッチ式があり、枚葉式がウエハーを1枚ずつ成膜するのに対して、バッチ式は数十枚以上のウエハーを一度に成膜することができることが特徴です。KOKUSAI ELECTRICは、主力製品としてバッチ成膜装置や枚葉トリートメント装置を展開しており、世界トップクラスのシェアを有しています。
KOKUSAI ELECTRICは、日立国際電気の半導体製造装置部門として2018年にグループから独立。投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)の支援のもと、活動を行ってきました。 KKRは当初から他社への売却・経営統合を模索し、一時は国内半導体製造装置メーカーが買収するかたちで契約寸前まで進みましたが破談となりました。その後、2019年7月に米国の半導体製造装置大手であるアプライドマテリアルズ(AMAT)が約22億ドルでKOKUSAI ELECTRICを買収すると発表しました。
AMATは世界最大の半導体製造装置メーカーとして、成膜装置をはじめ、エッチング装置など幅広い製品ポートフォリオを保有。しかし、成膜装置は枚葉式では高いシェアを築く一方、KOKUSAI ELECTRICが得意とするバッチ式での実績は少なく、成膜装置分野での補完関係は高いとみられていました。ですが、その後、買収期限(2020年6月末)になっても買収作業は完了せず、1度目は2020年9月まで延期。そして2度目の変更として2020年末まで期限を延期しました。さらに、2020年3月まで延期した3度目の期限変更では買収価格の引き上げも発表。当初の22億ドルから6割増となる35億ドルまで引き上げましたが、中国当局の承認を得られず、AMATがKKRに契約解除料1億5400万ドルを支払うかたちで買収計画は破談となりました。
その後、KOKUSAI ELECTRICはIPO(新規株式公開)する方針に切り替え、2023年10月25日に東証プライム市場へ上場しました。そして同社は2024年6月に開催したIRデーにおいて、今後3~4年以内をめどに売上高3300億円以上(2023年度実績は1810億円)、調整後営業利益率30%以上を目指す財務モデルを発表しました。こうした中期目標達成に向けた取り組みの一つとして生産体制を強化しており、2024年9月には富山県砺波市において約240億円を投じて整備した新工場「砺波事業所」が竣工しました。富山県内では富山事業所に続く2カ所目の生産拠点で、2024年10月から生産活動を開始しました。
新工場は砺波市が新たに整備を進めた砺波スマートインター柳瀬工業団地(砺波市下中条)内に建設され、敷地面積は約4万㎡、3階建て(一部4階)で、延べ床面積は約3万8000㎡の規模を有します。KOKUSAI ELECTRICは、これまで富山事業所(富山市)と、韓国・天安市の工場で装置を生産してきましたが、今後の半導体製造装置市場のさらなる拡大を見越して、2023年4月から工事を行っていました。同じ富山県内に工場を構えることで、既存のサプライチェーンや物流網が有効活用できるとしており、新工場の稼働により、生産能力は2020年度(2021年3月期)と比較して2025年度に約2倍になると見込んでいます。そして、新工場によって「2030年までの需要増に対応できる」(金井史幸社長)とみており、砺波新工場は量産品の生産に特化。既存の富山事業所は新製品の立ち上げとR&Dに集中する体制に切り替える方針で、富山事業所で生産していた量産品は砺波事業所へ順次移管しています。富山事業所の生産フロアの一部を開発フロアとして活用することで、富山事業所の開発能力は従来の1.5倍に高まるとみています。
砺波事業所は効率向上を目指したスマートトランスフォーメーション活動により、単位面積あたりの生産量アップも目指しています。同社ではこれを「SFX200」と呼んでおり、生産プロセス、マテハン、設備管理などの刷新でこれを実現していく考えです。具体的にはモジュール化などの新生産方式を今後採用するほか、生産プロセスおよびマテハン関係のスマート化を図ることで、生産リードタイムの短縮も図っていきます。
生産活動と同様に、半導体製造装置メーカーにとって重要な調達に関しても、WFE(Wafer Fab Equipment)市場の動向に柔軟に対応した体制づくりを進めています。WFE市場の短中長期の変化を想定した調達品目別、ビジネス別の立体的戦略を推進。技術的難易度や調達難度に応じてポートフォリオ管理を行い、それぞれに適したサプライヤーとのパートナーリング施策を講じ、調達規模・安定調達・コスト競争力の拡大と強固なサプライチェーン体制の構築を進めています。
今後の事業拡大に向けては、得意とするメモリー分野に加えて、先端・成熟ともにロジック分野での事業拡大がカギを握るとみており、富山事業所ではこうした新製品開発に向けた開発活動が活発化するとみられ、その生産の受け皿として重要な役割を担うのが砺波事業所となります。「ようやく建屋ができた。これからここに命を吹き込んでいく」(金井社長)と言うように、砺波事業所の歩みはまだ始まったばかり。単純なフロア拡張だけでなく、高いレベルでの生産効率向上を掲げる新工場の取り組みは今後のさらなる飛躍に向けた試金石となりそうです。