あらゆるモノが電子化するのに伴って、リチウムイオン電池をはじめとするバッテリーの需要がますます高まっています。特にEVやスマートフォンではバッテリーの高性能化によってユーザーの利便性が高まりますが、そもそもバッテリーの性能はどのように評価されているのでしょうか。そこで本記事では、バッテリーの性能を測る指標や具体的な試験方法について解説します。
バッテリーの中でも代表的なリチウムイオン電池の試験内容は、次のような規格で定められています。
●JIS C8711「ポータブル機器用リチウム二次電池」
●JIS C8715-1「産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム –第1部:性能要求事項-」
●JIS C8715-2「産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム –第2部:安全性要求事項-」
●IEC 62660-1「電動車両推進用リチウムイオン二次電池 –性能試験-」
●IEC 62660-2「電動車両推進用リチウムイオン二次電池 -信頼性・乱用試験-」
●IEC 62660-3「電動車両推進用リチウムイオン二次電池 –安全性要求事項-」
●ISO 12405-1「電動車両 –リチウムイオン電池パック・システムの試験仕様書–第1部 高出力用途」
●ISO 12405-2「電動車両 –リチウムイオン電池パック・システムの試験仕様書–第2部 高エネルギー用途」
これらの規格は性能試験と安全性試験に分けることができ、安全性に関する規格の方が多くなっています。リチウムイオン電池はその特性上、発熱・発火の恐れがあり、安全性に十分な配慮が必要なためです。開発段階から製品化に至るまでにさまざまな安全性試験が行われています。
バッテリーの主な性能指標としては、次のような内容が挙げられます。
電圧(V) 電気を流す力
容量(Ah) バッテリーから取り出せる電気量
出力(W) 電池から瞬間的に取り出せるパワー
エネルギー密度(Wh/kg・Wh/L) 単位質量または単位体積当たりに取り出せるエネルギー量
放電レート 電池容量に対する充放電電流値の比で、相対的に示される電流値の大きさ
サイクル寿命 バッテリーがある条件下で何回充放電できるか
保存寿命 バッテリーがある条件下で放置されても使用できる期間
ここでは、リチウムイオン電池の性能や安全性を測るための代表的な試験方法を解説します。
充放電試験は、一定の電流値で充電と放電を繰り返しながらバッテリーを評価する方法です。推奨の充放電レートでバッテリーが劣化するまで充放電を繰り返し、バッテリー容量や最大充放電量、充放電エネルギー効率などの変化を測定してバッテリーの寿命を評価します。
充放電試験に用いられる装置には、開発初期段階で用いられる小型セル用、EVなどの車載用途や家庭用発電設備、産業用途などで用いられる大型セル用、バッテリーとして組み立てられた状態の試験に用いられるモジュール用などの種類があります。
熱衝撃サイクル試験は、短時間に極端な温度変化を繰り返し加えてバッテリーの安全性を評価する方法です。多くの試験規格において高温側は60~85℃、低温側は-40~-20℃に設定されており、各温度帯で1~12時間程度維持することとなっています。急激な温度変化によって各種材料が膨張・収縮して歪むと、クラックが生じるなどして安全性に影響をおよぼす可能性があるため、このような試験が行われているのです。
温度に関する試験としてはほかにも、通常の使用環境とは異なる高温にさらす「加熱試験」、炎を接触させる、あるいは何らかの手段でそれと同等の状態を作る「火炙り・耐類焼試験」などもあります。
釘刺し・圧壊試験は、バッテリーを故意に破損させ、安全性を評価する方法です。釘刺し試験では、直径1〜8mmの釘を貫通させて内部短絡を疑似的に発生させ、電池が発火したり破裂したりしないことを確認します。圧壊試験では、外部からの圧力によってバッテリーが大きく変形した場合に発火したり破裂したりしないことを確認します。
バッテリーに対して外的な力を加える試験としてはほかにも、車両走行時などの揺れで破損しないかを評価する「振動試験」や、落下や衝撃による破損の有無や性能低下をチェックする「衝撃試験」なども実施されています。
昨今では、メーカー各社がより高性能なバッテリーや新たな方式のバッテリーを開発すべく、競争が続いています。バッテリー開発の現場では本記事でご紹介した試験方法が日々活用されており、各種試験機はなくてはならない存在です。バッテリーの開発を支えている性能試験・安全性試験について、興味を持っていただければ幸いです。