測定器は「入力端子に届いた信号」を正しく表示・出力・記録します。しかしそれが実際の測定対象の信号を正しく表しているとは限りません。 測定点自体にも、さらには測定点から入力端子までの間にもさまざまな信号やノイズ(以下、「目的外信号」と総称)が混入する可能性があります。
正確な測定を妨げる目的外信号の混入源を大まかに整理すると図1のようになります。
(図:目的外信号・ノイズの混入源)
目的外信号として大きいのが、外部環境からのノイズです。 測定系またはその周辺に高周波設備や電力機器などがある場合は特に、それらが発する信号やノイズを拾わない対策が求められます。 環境ノイズの影響は、センサからの微弱な信号をアンプで増幅して測定器に接続するような高感度な測定シーンで特に大きく、 パソコンなどの電子機器(高周波源)や電灯線(商用ACライン)などから混入するノイズに対して、細心の注意を必要とします。
外部環境に由来するノイズはシールドや離隔することである程度低減できますが、測定系自身に内在する目的外信号については別の対策が必要です。
測定点と入力端子の間に不要な信号を取り除くフィルタを設置する場合がありますが、 フィルタへの入力・出力のラインが近接しているなどの原因で、本来取り除かれるべき目的外信号がフィルタをすり抜けて測定器に到達してしまうことがあります。 この種の現象をフィードスルーと言います。
測定系内の同期信号やトリガ信号が測定信号に回り込んでしまうトラブルがあります。
同期信号やトリガ信号は、測定器にタイミング情報を渡すためのものですが、これらが測定信号中に紛れ込むと測定に大きな誤差を生じます。
一般に、同期信号やトリガ信号は測定信号に比べて信号レベルが高く、わずかな回り込みでも影響が大きいからです。
中でも同期信号は測定信号と同じ周波数成分を含むため、一度目的信号と混ざり合うと分離が難しいことも問題です。
測定対象物に複数のセンサを取り付けて同時多チャネル計測を行う場合、隣接する信号線から信号が混入する可能性があり、これをクロストーク(漏話)と言います。 この現象はもともと電話線で会話が混信を起こすことから名づけられたものです。 高周波ほど、また、信号線を長く引き回すほど起こりやすい現象ですが、電話線のような長距離伝送では人間の音声のような低周波信号でも発生します。 隣接し合う信号は互いに類似していることが多く、多チャネル計測でのクロストークは気付きにくいうえ、同期信号と同様に一度混ざり合うと分離が難しくなります。
目的外信号は多くの場合、配線などの実装で生じる浮遊容量や寄生インダクタンスによって目的信号と結合され測定器に侵入します。
(図:目的外信号の侵入ルート)
例えば、長く並行に伸びた信号線は浮遊容量を持ちコンデンサのようにふるまうだけでなく、寄生インダクタンスを持ち結合トランスのようにもふるまいます。
この性質が、フィードスルー、クロストーク、回り込みといった現象を引き起こします。
そのため、浮遊容量や寄生インダクタンスができるだけ小さくなるように機器を配置・配線することがポイントです。
具体的には、配線はできるだけ短くして確実なシールドを施す、異なる信号の配線はできるだけ離す、信号ループをできるだけ小さくする、といったことになります。
これらは、いわゆる「ノイズ対策」とよく似ています。
浮遊容量や寄生インダクタンスとは別に、不完全なグラウンドによって共通インピーダンスが形成されると、回路が他の影響を受けます。(アイソレーションアンプ参照)
(図:共通インピーダンスの影響)
図3では、Rがセンサの出力と他の回路の共通インピーダンスになっており、測定器の入力電圧は [ (io+is)×R ] の電圧降下分が誤差として加わるため、 結果として他の回路電流が変化すると測定器入力が変動します。 共通インピーダンスの影響をなくすには、各回路のグラウンドを一ヵ所で結ぶこと(一点接地)が望まれますが、配線の引き回しが長くなり逆効果となることもあります。 そうした場合は、各接地点で広い直近のグラウンド面に接続するベタアースにするなど、グラウンドを強化して共通インピーダンス(R)を小さくする方策を採ります。
不要な信号はコモンモードで侵入してくることが多いことから、回路的な対策として測定器入力を差動方式に代えることなども有効です。
目的外信号の混入は、誤計測にも繋がってしまう大きな問題です。
正しい測定値を得るためには、それらの影響をできるだけ取り除く配慮と工夫が大切です。