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量産拠点整備が本格化するOLEDoS

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 量産拠点整備が本格化するOLEDoS

 近年、さまざまな機器においてディスプレイの重要性が高まっています。IT機器などでは映像の鮮明さが製品の大きなアピールポイントとなり、今後拡大が見込まれるVR(仮想現実)やAR(各超現実)といったXR市場ではディスプレイの質が没入感を高める重要な要素となります。そんなディスプレイにおいてOLEDoS(シリコンベースの有機EL)の注目度が高まっています。

 ディスプレイは現在、TFT(薄膜トランジスタ)ベースのLTPS LCD(低温ポリシリコン液晶ディスプレイ)や、AMOLED(アクティブマトリクス有機ELディスプレイ)がスマートフォンなどに採用されています。そして、そうしたディスプレイがXR機器にも活用されています。

 LTPS LCDとAMOLEDを比較したとき、AMOLEDは、高速応答性と広い色域の点でLTPS LCDよりも優れています。そのため、AMOLEDを搭載したXR機器が増えつつあります。しかし、主流にはなっていません。その背景としては、AMOLEDは画素配列と密度に制約があり、ppi(1インチあたりの画素数)を一定水準以上に向上させることが難しいとされ、色ムラの発生を抑制することも課題として挙げられます。加えて、LTPS LCDに比べて価格が高く、XR機器を一般消費者が手の届くような価格帯にしていく際にネックとなります。一方、LTPS LCDはAMOLEDに比べてppiが優れており、価格も抑制できることからXR機器の主流となっています。

 しかし近年、XR市場が拡大する中、高い解像度、広い色域、速い応答速度を求めるユーザーも増えています。そこで注目を集めているのがOLEDoSです。OLEDoSはガラス基板やポリイミド基板の代わりに、シリコンウエハーの上にOLED素子の回路を蒸着する技術で、画素サイズの小型化と機器の薄型化を実現できます。また、AMOLEDやLTPS LCDディスプレイよりも優れた視覚性能を発揮できます。

中国で拠点整備が加速

 そして、ここにきてOLEDoSの大型生産拠点の整備が本格化しています。例えば、軍事向けディスプレイなどを手がける米コーピンの製造パートナーである中国Lakesideは、中国江蘇省に工場を整備しており、2024年10~12月期から量産を開始する予定です。2016年に設立された中国SIDTEKは、安徽省に8インチラインの工場を持ち、総額60億元を投じて12インチラインの新工場の建設を進め、2024年5月から量産を開始したもようです。新工場は延べ床面積約19万m²の規模で、月産の生産能力は6000枚とみられます。同社は中国のスマートグラス向けで多数の実績を持ち、高品位な4K-OLEDoSを実現できることから業界上位に位置すると言われています。茶谷産業株式会社が日本市場での販売を担っており、スマートグラス向けやEVF向けで提案を進めています。

 2020年9月に中国・深圳市で設立されたBCDTEKが、総額65億元を投じて安徽省にOLEDoSの新工場「K2」を整備する計画を進めています。淮南市に建設したK1工場は2023年3月に稼働を開始し、フレキシブルOLEDモジュールを生産しています。安徽省で建設中のK2工場は、2025年上期に完工して稼働開始する計画です。12インチウエハー4000枚/月のOLEDoS生産拠点であり、投資額は15億元。量産稼働により、年間35億元の売り上げを生み出せるとしています。K2の整備は2期に分けて行われ、生産工場、研究開発棟、総合棟、発電所などの主要建物を含む建築面積は9万4000m²、敷地面積は約80万m²を有し、主にAR/VR/MR分野で使用されるOLEDoSを生産していく方針です。

 このほか、2016年に上海市でチップ設計会社として設立されたルミコアが、シリーズA投資ラウンドで1億ドルの資金調達を完了。米国の主要ヘッドセットブランドから受注を得ています。ルミコアは2019年にエンジェル投資家を確保してから2年ほどで8インチのOLEDoS生産ラインを構築し、現在は0.2~1.32インチを展開しています。同社によれば、現在4K-OLEDoSディスプレイを開発中で、「当社の技術によりコストを業界平均の半分に抑えることができる」としています。

サムスンが新技術を発表

 米国で有機EL照明パネルを手がけるOLEDWorks(ニューヨーク州ロチェスター)は、米国政府と最大860万ドルの取引協定を2024年前半に締結しました。陸軍向けにAR/VR用のOLEDoSを設計・開発するもので、直射日光下でシースルーの高輝度フルカラー表示を実現することを目指しています。独アーヘン工場で自動車用照明パネルの量産に適用しているマルチスタック(発光層のタンデム構造)プロセスを組み込む計画で、デビッド・デホイCEOは「当社のロードマップに三つ目の事業としてOLEDoSを追加し、AR/VR用に高輝度ディスプレイソリューションを提供できることを嬉しく思う」とコメントしています。なお、同社は2020年7月に開催されたディスプレイ関連の学会「SID2020」でマルチスタック技術を発表していましたが、製品化に向けたアナウンスはしていませんでした。マルチスタック技術について当時、sRGB比110%以上の色再現性が得られ、フルカラーで1万cd/㎡以上、緑色の単色であれば10万cd/㎡以上の明るさを実現でき、コントラスト10万対1以上が達成可能であり、5層程度まで複層化できると説明していました。

 半導体の受託製造を行うタワーセミコンダクターは、中国のバックプレーン設計会社である天宜微電子(Tianyi Micro)とAR/VR向けOLEDoSに関する戦略的提携を結んでいます。計画によると、タワーが180nmおよび65nmの専用プロセスを開発し、高解像度、高輝度、超低リークといった要求に対応するプロセスフローを用意。このフローには、プロセス/デバイスの提供、正確なモデリングによるPDKの提供などが含まれるといいます。天宜微電子は2020年に北京市で設立され、杭州と深圳にチームを持ち、OLEDoSおよびマイクロLEDのドライバーIC設計に特化しています。現在、空間コンピューティング機器用の1.3インチOLEDoS向けバックプレーン「TY130」を展開しています。

 また、OLEDoSでは性能を向上させるための新技術の動きも出てきています。2024年1月に米ラスベガスで開催されたCES 2024でサムスンディスプレイ(SDC)は、RGB(赤緑青)塗り分け方式で製造したOLEDoSを発表。現状、OLEDoSはWOLED方式という白色発光の有機ELにカラーフィルター(CF)でRGBの3色を表現する方式でしか作られていませんが、塗り分け方式が実現すれば、CFが不要になることや発光材料を多層化するタンデム構造も可能になるため、輝度の向上を図ることができます。

 なお、CES2024で披露した開発品は、SDCが2023年に買収した米イメージンの技術を用いたとみられています。具体的にはイメージンのdpd(ダイレクトパターニング)技術を応用しているとみられます。このdpd技術の詳細は明らかになっていませんが、かつて同社では、有機EL発光材料を直接パターニングし、発光の約80%を吸収してしまうCFを不要にできる技術と説明していました。これにより2021年に1万ニットの輝度を達成しており、2023年半ばにはフルカラーで2万8000ニットを達成するというロードマップを描いていた技術です。

日本でも取り組みが加速

 日本では、塗り分け方式の製造で用いられるファインメタルマスク(FMM)を手がけるアテネ株式会社が、OLEDoS用FMMを開発してサンプル展開中です。また、株式会社アルバックはOLEDoSの製造に不可欠な真空蒸着装置を提供しています。アルバックは、有機蒸着用装置として、200㎜ウエハー対応の「SATELLA」(サテラ)をリリースしたことが始まりで、これをベースにガラス基板に対応したディスプレイ用の「ZELDA」(ゼルダ)を1999年にリリースし、シリーズ展開を進めてきました。そしてこれらで培ってきた技術と、同社の半導体用装置である「ENTRON」(エントロン)の装置技術を融合した300㎜対応の「SELION」(セリオン)を2016年から販売しています。

 SELIONは、プラットフォームが半導体製造装置であるため、ディスプレイ用よりもパーティクル対策への対応力が格段に高いことが特徴です。具体的には、プロセス室の背面側に搬送室とメタルマスクのストック室を配置し、それぞれに専用の搬送ロボットを搭載することで、クロスコンタミネーションを最大限抑制しています。搬送ロボット自体の仕様も半導体プロセスに適したものを採用。OLEDoSメーカーの膜構成によってスループットやタクトが異なってくるため、SELIONはユーザーごとにカスタマイズしたかたちで提供しています。

 CES2024では、アップルのヘッドセット「Apple Vision Pro」にOLEDoSを供給しているソニーが、4KのOLEDoSを採用し、ビデオシースルー機能を搭載したXRヘッドマウントディスプレイを発表しました。コンシューマー向けではなく、映画製作現場などで使われるプロ仕様となるようで、3Dオブジェクトの精密な操作に最適化したコントローラーを備え、高度な空間コンテンツ制作に対応する「没入型空間コンテンツ制作システム」としており、2024年内の発売を予定しています。

 XRデバイスの中でも、主にARグラスに搭載されるマイクロディスプレイとしてOLEDoSが台頭してきていますが、現在液晶ディスプレイが主流のVRデバイスでもOLEDoSが活用できることから、その伸びしろはさらに大きいものと期待されています。ARグラスはまだ発展途上であり、普及期に入るには少し時間がかかりそうですが、高額な高精細ディスプレイが安価になれば、さまざまなグレードのARデバイスが市場展開され、多くの人が手にすることができるようになるでしょう。

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