ホーム測定器脱炭素化のキーデバイスを強化する三菱電機の半導体事業

測定器 Insight

脱炭素化のキーデバイスを強化する三菱電機の半導体事業

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 脱炭素化のキーデバイスを強化する三菱電機の半導体事業

 三菱電機は、三菱造船・電機製作所を母体に、三菱の9番目の直轄会社として1921年に誕生しました。近代的工業化のうねりの中で電気機械の需要が増大しつつあるころ、重工業化を狙う事業戦略に電機事業を大きく位置付けました。そして1959年に日本で初めて電力用半導体(パワー半導体)を製品化し、交直流電気機関車や交直流電車に採用されました。これを機に、本格的な電力用半導体時代がスタートし、現在に至るまで電子機器の発展に貢献しています。そして現在、シリコンパワーデバイス(IPM、IGBTモジュール、パワーMOSFETモジュール、HVICなど)や、SiCパワーデバイス(SiC-SBDおよびSiC-MOSFET、フルSiCパワーモジュール、フルSiC-IPM、ハイブリッドSiCパワーモジュールなど)を展開しており、電気自動車、民生機器(エアコンなど)、産業用機器、再生可能エネルギー、電鉄などのパワーエレクトロニクス機器の省エネ化に貢献。パワーモジュールではグローバルシェア2位、電鉄用フルSiCモジュールは第1位となっています。

積極的な設備投資を推進

 三菱電機は近年、半導体投資を加速しており、SiCパワー半導体においては、2021~2025年度において当初は2021~2025年度に約1000億円を投じる計画をしていましたが、その後投資額を1300億円へ、さらに現在では2600億円へと増やしています。2026年度以降はシリコン系に加え、SiCで成長を加速させる計画を進めています。

 シリコン系とSiCを合わせたパワー半導体の売上高は2100億円(2022年度実績)。今後も自動車・民生を中心とした戦略製品を拡大させることで、2025年度に2400億円を目指しています。その後もSiCの成長を加速させ、2030年度にはパワー半導体の売上高の3割以上が、SiCになる見通しです。

 生産能力については、SiCは2026年度に2022年度比約5倍とする計画で、熊本県内(泗水地区、メルコ・ディスプレイ・テクノロジー株式会社=MDTI)に最先端省エネ性能と自動化を実現する8インチ対応の新工場棟を建設しており、2026年度から稼働する予定です。6インチについては、既存ラインの増強を図っています。後工程に関しては、福岡地区に新工場棟を建設し、設計・開発から生産技術検証までを一貫して行う体制を構築。今後も、需要増に対応した適時適切な増強を図るとしています。

SiCウエハーへの投資も敢行

 シャープから2020年に買収した福山工場の第2工場と第3工場のうち、第2工場での生産を順次拡大しています。並行して300mmウエハーを用いる自動化ラインも構築し、2024年度の量産開始を目標としています。独自のCSTBT構造を進化させ、IGBTとダイオードを1チップ化するRC-IGBTをまず量産する予定です。なお、福山工場300mmラインでは裏面工程だけを手がけ、表面工程は外部ファブに委託するとみられています。また同工場では、民生および自動車用のシリコン系パワーデバイスの量産に特化し、SiCパワーデバイスは熊本工場で集中生産する見通しです。福山の第3工場を活用し始める時期は未定ですが、民生用から製造し始め、ゆくゆくは自動車用も生産する考えです。2025年度までの増収分はほぼ福山工場で生産を増やしていく予定で、2025年度までに熊本工場と同規模の生産体制を整えます。それでも、目標の売上高2400億円までに第3工場がすべて埋まってしまうことはないと見ています。

 シリコン系パワーデバイスは、表面工程の半分を外部ファブに委託していますが、2025年度に向けては需要動向に応じて比率を決めていく考えです。SiCに関しては、2025年までに想定される需要に対応できる生産キャパシティを熊本工場に整備済みで、今後の市況に応じて能力増強の必要性を見極めていく方針です。

 調査会社の富士経済によると、2035年におけるパワー半導体の世界市場は2023年比2.4倍の7兆7757億円まで拡大すると予測されています。電動車の普及、民生機器などへの採用増加で大きく伸長すると見込まれ、カーボンニュートラル(脱炭素化)においても重要な役割を担うキーデバイスであり、前述のような動きを見ると、三菱電機の事業成長における重要な役割を担う製品となるでしょう。

測定器 Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next