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実用化が迫るペロブスカイト太陽電池

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 実用化が迫るペロブスカイト太陽電池

 ペロブスカイト太陽電池(PSC)の実用化が近付いています。すでに、中国ではGW規模の量産工場の建設が始まっており、英独の研究チームは、実用サイズのPSCタンデムモジュールで25%の変換効率を実現しています。国内でも、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトでPSCの技術開発が進んでおり、多くの企業が商業化に向けた実証試験に乗り出しています。

 PSCは2008年に光電変換能力が発見されて以来、次世代の太陽電池(PV)技術として世界中で研究開発が進んでいます。当初の変換効率は4%以下と低かったですが、2010年代後半から急速に変換効率が向上しており、2019年には小面積セルで25%を超えました。

 その後も効率の改善が進み、現在の最高効率は26.1%を実現しています。しかし、性能アップのスピードは鈍化しており、変換効率の上限が近付きつつあります。一方で、PSCとほかのPV技術を組み合わせたタンデム型の開発が活発化しています。

 PSCは可視光の変換効率が高く、バンドギャップの調整が可能で製造コストも安価なことから、タンデム型のトップセルとして有望です。中でも、トップセルにPSC、ボトムセルに結晶シリコン(Si)を用いたタンデム型は低コストかつ高効率が期待できます。

○欧州での研究も加速

 2022年には、スイスのEPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)とCSEM(スイス電子工学・マイクロナノテクノロジー・センター)の研究グループが世界で初めてPSC/Siタンデムで30%の壁を突破しましたが、2023年にはLONGi(中国)が33.9%の世界最高効率を達成しました。そして、Jinko Solar(中国)はPSC/Siタンデムで34%の変換効率を実現しています。

 PSC/Siタンデムでは、単接合型PVの理論限界効率を大幅に上回る変換効率が可能ですが、3接合型にすれば、さらなる効率の向上が期待できます。Fraunhofer ISE(ドイツ)は結晶Si(ヘテロ接合型)の上に2層のPSCセルを積層した2端子構造の3接合セルを試作しました。変換効率は20.0%にとどまりますが、Voc(解放電圧)はこれまでに報告された3接合型では最も高い2.86Vを達成しました。

 2010年に設立されたOxford PV(英国)は、ドイツにある量産工場でM6(166㎜角)サイズのウエハーを用いたPSC/Siタンデムセル(変換効率26.8%)を少量生産しており、2024年から本格的な量産を開始する予定です。さらに、同社はFraunhofer ISEと共同で、実用サイズ(1.68㎡)の両面発電型PSC/Siタンデムモジュールで変換効率25%を達成しました。出力は421Wで、工業レベルのPSC/Siタンデムモジュールでは世界最高効率になるといいます。また導電性接着剤を使用したセルの相互接続や低温の封止プロセスなど量産に適用可能な技術を開発しました。

 シンガポール国立大学の研究グループは、透過型PSCとバンドギャップ1.0eVのCIS(CuInSe2)を積層した4端子構造のタンデム型で変換効率29.9%を達成。PSC内の光路を最適化することで、変換効率と透過率の改善が両立できたといいます。

 台湾のTPSC(台湾ペロブスカイトソーラー株式会社)は、2022年にA4サイズのPSCモジュール(モジュール変換効率18%、出力6W)の開発に成功しました。現在、試作ラインで少量生産しており、2025年に量産を開始する予定です。

中国は商業化でも先行

 中国はPSCの研究開発に加えて、商業化でも先行しています。DaZheng Micro Nano Technology、Microquanta Semiconductor、UtmoLight、Renshine Solar、GCL Perovskiteなどが商業化に取り組んでおり、事業化を目指す企業は30社以上あるとみられます。

 Microquanta Semiconductorは2022年に浙江省衢州市内に100MWの量産工場を建設し、2022年7月からPSCモジュールの出荷を開始しており、UtmoLightも150MWの試作ラインを整備済みです。

 2021年設立のRenshine Solarは南京大学発のスタートアップ企業で、2022年末に2層のPSCを積層したオールPSCタンデムセル(面積0.0489㎠)で変換効率29.1%を達成。常熟市で建設していた150MWの量産工場も2023年末に完成し、2024年1月から稼働を開始しました。新工場では1.2×0.6mサイズのPSCモジュールを生産しており、将来的には生産能力をGW規模まで引き上げる計画を持っています。

 GCL Perovskiteは、2021年に100MWの量産ラインを建設してPSCモジュール(2×1m)を生産しており、今後、生産能力を2GWに引き上げる方針です。2023年末には蘇州市の崑山ハイテク工業団地で第1期の起工式を行い、2025年には第2期の建設を予定しています。なお、2021年に10.0%だったPSCモジュールの変換効率は、2023年には18.0%まで改善しています。

 また、GCL PerovskiteはPSC/Siタンデムの開発も進めており、これまでに、40×60cmのタンデムモジュールで26.3%の変換効率を実現しており、今後、2.4×1.2mサイズのタンデムモジュールで27%の変換効率を目指しています。さらに、宇宙利用を想定した実証実験も進めています。2023年末に打ち上げた人工衛星にPSCモジュールを貼り付けており、発電性能や耐久性を評価する予定で、将来は宇宙空間での大規模発電設備を展開する構想も有しています。

日本でも参入企業が増加

 日本では、NEDOのプロジェクトでPSCの技術開発が進んでいます。基盤技術開発には東京大学、立命館大学、京都大学、実用化事業には積水化学工業、東芝、カネカ、エネコートテクノロジーズ、アイシンがそれぞれ参画しており、積水化学工業および東芝は東京大学と立命館大学、エネコートテクノロジーズは京都大学、アイシンは東京大学とそれぞれ連携しています。

 積水化学工業は30cm幅のフィルム型PSCで15%の変換効率を実現しており、2025年の実用化に向けて1m幅の製造プロセスの確立に取り組んでいます。カネカは両面発電型PSCモジュール(面積64㎠)で変換効率20.8%を達成しており、この技術を用いた両面発電型シースルーPSCを開発しています。

 東芝は、メニスカス塗布法を用いたフィルム型PSCを開発しており、2022年に同プロセスを用いて作製したフィルム型PSCモジュール(703㎠)で変換効率16.6%を達成。商業化に向けて、サブモジュールの接続方法や、ロール・ツー・ロールによる連続成膜プロセスを検討しており、2025年のサンプル出荷、2028年の本格量産を目指しています。

 アイシンは東京大学と連携して薄型ガラス基板を用いたPSCモジュールを開発しており、2025年に自社工場で発電実証試験を開始する予定です。

 エネコートテクノロジーズは京都大学発のスタートアップ企業で、2019年からIoTセンサーに搭載するPSCモジュールのサンプルを出荷しています。ミニモジュール(7.5cm角)では20%超の変換効率を実現しており、G2サイズ(360×465㎜)でも18%前後の効率が出ています。すでにパイロットラインを整備済みで、2024年内に量産プロセスを確立する予定です。

 シャープもPSCの開発を進めており、高効率技術では、2026年までにPSC/Siタンデムで30%超の変換効率を目指します。一方、大面積技術では、フィルム基板を用いたフレキシブルモジュールを検討しており、G4サイズ(880×660㎜)のシースルー型PSCモジュール(出力20W)を試作しています。

 さまざまな実証試験も進んでおり、積水化学工業は東京都やNTTデータと共同で実証試験を実施しているほか、自社の本社ビル壁面にも建材一体型のPSCパネルを設置しています。また、JR西日本が2025年に開業する「うめきた(大阪)駅」でも発電量などの実証試験を行っており、都内で建設予定の再開発ビル壁面に1MWのPSCを設置する計画です。海外では、スロバキアと共同で法規制を含む社会実装への課題などを調査しています。

 パナソニックは神奈川県藤沢市のモデルハウスでガラス建材一体型PSCモジュールの実証試験を開始しており、東芝エネルギーシステムズも福島県大熊町でフィルム型PSCの実証試験を計画しています。ノウタスは桐蔭横浜大学と共同で、農業分野におけるPSCの実証試験を2024年春から開始しました。

 エネコートテクノロジーズは2022年にマクニカと共同でPSC搭載のCO2センサー端末を開発。両社は2023年に東京都と実証事業に関する協定を締結し、第2本庁舎でPSC搭載のIoTセンサーの実証試験を実施しています。マクニカは桐蔭横浜大学などと共同で、横浜の港湾部でもPSCの実証試験を計画しています。

 さらに、エネコートテクノロジーズはトヨタと共同で車載用PVを開発しており、三井不動産レジデンシャルとマンションでの実証試験を予定しています。また、2024年春から、日揮と共同で北海道の物流施設でもPSCの実証試験を開始しました。

 リコーもPSCの実証試験を行っています。東京都内の小学校と厚木市役所にPSCとセンサーを搭載した小型の街灯(庭園灯)を設置し、温度、湿度、照度などさまざまな環境におけるPSCの発電量や耐久性などを評価するといいます。

 PXP(相模原市)もPSC/CIGSタンデムを開発しています。CIGSはバンドギャップを約1.0eVに調整することで長波長の光の吸収効率を高め、PSCはPEN基板を用いて、オールドライの真空プロセスで成膜。試作した小面積セルの変換効率は23.6%で、フレキシブル基板を用いたタンデム型では世界最高レベルです。

 PSCは、ノーベル化学賞・物理学賞両賞の有力候補と言われている桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発明したものです。つまり日本発の技術であり、海外での勢いが目立ちますが、日本での展開にも期待が高まっているといえるでしょう。

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