韓国には数多くの財閥企業があります。その中でサムスングループに次ぐ規模を誇るのがSKグループです。SKグループの起源は、織物を内地から輸入し満州へ輸出していた「鮮満綢緞」と日本の「京都織物」が、朝鮮総督府時代の1939年に韓国・水原市において合弁で作った「鮮京織物」です。日本の敗戦によって日本人経営者が離れ、現地の資産を放棄。そして朝鮮戦争を経た1953年に、鮮京織物の製造部長だった崔鍾建(チェ・ゾンコン)氏が工場設備を韓国政府から譲受し、1956年に法人化しました。そして現在、4代目の会長である崔泰源(チェ・テウォン)氏による大胆なM&Aと大規模投資などにより、SKグループは韓国財閥ランキングで2位に位置するまでに成長しました。
崔会長が実行したM&Aのうち、2012年に行ったハイニックス(現SKハイニックス)の買収は、「希代の神技」と言われています。当時のハイニックスはメモリー業界における熾烈な価格競争によって業績が急降下していた時期で、日本ではエルピーダメモリ(2012年に経営破綻)もその影響を受けました。そうした状況下において、崔会長はハイニックスの買収を決定しました。「ハイニックスが中国企業に買収されないように、韓国政府がSKグループに託した」(ソウル証券街筋)との見方もありますが、結果的には、3.4兆ウォンのCD(譲渡性預金)で買収したハイニックスが現在、32兆7657億ウォン(2023年実績)まで事業規模が拡大しており、崔会長が実行したM&Aにおける最大の成功例となりました。崔会長は、ハイニックスの買収の前段階として、半導体分野の調査を2010年ごろから本格的に開始したとされ、半導体の専門家を多数招聘し、半導体産業の特徴、技術、市場動向などを徹底的に調査。その一環として、日本のベテラン半導体専門アナリストや最古参半導体専門記者からもヒアリングを行い、ハイニックスの買収を決断し、2012年2月にグループ会社のSKテレコムを通じて、ハイニックスの買収を電撃的に発表しました。ハイニックスの買収によって、SKグループのビジネスは、エネルギー・化学と通信を軸とした体系から、半導体も加えた三本柱の体系へと変貌。つまり、SKグループの安定性をさらに強固にするグループの成長ドライバーとして半導体を選んだというわけです。
SKグループは現在、SKハイニックス、SKテレコム、SK証券など、先端産業分野をはじめ、化学、金融、建設など幅広い分野で事業を展開しており、その系列会社の数は198社(2022年末時点)にのぼります。そして、資産総額は約327兆ウォン(同)、総売上高が約224兆ウォン(約26兆3755億円)、純利益が11兆1000億ウォンを誇ります。
そんなSKグループの経営戦略、言い換えれば崔会長の経営理念の一つに、世界最高の戦略書とも評される『孫子の兵法』に記された「以迂為直、以患為利」をベースにしたものがあります。この漢文を訳すと「迂を以て直と為し、患を以て利と為す」ということになります。遠回りがかえって近道になり、マイナスが逆にプラスになるといった意味で、「急がば回れ」「ピンチはチャンス」といった要素が含まれています。つまり世界的に経済が停滞し、地政学リスクも高まっている現状をチャンスと捉えるべきとしたもので、実際SKグループは、こうした経済環境下でも、グリーンエネルギー、半導体・材料、デジタル、バイオ分野を新たな成長領域と定め、多くのリソースを割いています。半導体、電池、バイオなどの分野においては、2022~2026年に総額247兆ウォン(約29兆円)を投じ、韓国国内だけで5万人の新規採用を計画しています。
半導体分野のSKハイニックスでは、2022年12月に業界最速のサーバー向けDRAM「DDR5 MCR DIMM」を開発しました。MCR DIMMは、最小8Gbpsのデータレートで動作することが確認されており、既存のDDR5製品に比べて少なくとも80%高速。同社は今後、顧客の需要が本格化するタイミングを見極めて量産を開始する計画です。SKハイニックスは、HBM(High Bandwidth Memory)の需要増により、DRAMの市場シェアを拡大しており、大口取引先であるエヌビディアの業績拡大により、SKハイニックス製品の需要も拡大しています。
SKグループで電池事業を担うSKオンは、米国での事業展開を加速しています。その一つとして、自動車大手フォードと連携し、車載用リチウムイオン電池(LiB)合弁会社「ブルーオーバルSK」を2022年7月に設立。ブルーオーバルSKは電池工場を建設するために10兆2000億ウォン(約1.2兆円)の投資を計画しています。具体的には、米テネシー州の1カ所、米ケンタッキー州で2カ所の拠点整備を計画しており、完成時における同社の年産能力は129GWhに達する見通しです。これはフォードのピックアップEV(1台あたり105kWhのLiBを搭載)換算で約120万台分に相当します。なお、SKオンは現代自動車グループとも米ジョージア州で合弁工場の整備を計画しています。ブルーオーバルSKならびに現代自動車との合弁工場は、ともに韓国装置メーカーの採用割合が非常に高く、LiBコア材料についても韓国メーカー製品を採用しており、韓国の装置・材料メーカーへの貢献度も非常に高いです。
バイオ事業を担うSKバイオファームも躍進しており、2022年12月には同社の抗てんかん薬「セノバメート」(Cenobamate)がフランスにおける販売許可を取得。フランスを含めて欧州では、ドイツ、英国、イタリア、スペインなど15カ国で展開されており、今後の拡大も期待されています。SKバイオファームは2021年7月~2022年6月において米国と欧州向けに1億ドル分のセノバメートを出荷。韓国の製薬会社が独自開発した製品で1億ドルの輸出実績を達成したのはSKバイオファームが初となりました。また、バイオ医薬品会社であるSKバイオサイエンスは、CGT(細胞・遺伝子治療剤)分野の取り組みを強化しており、CGTプラットフォームを保有するグローバルのCDMO(医薬品受託製造)関連会社とのM&Aおよび合弁会社の設立を視野に入れています。
日本企業との合弁会社から始まったSKグループの事業は、4代目会長である崔泰源会長が実行したハイニックスの買収による半導体ビジネスの成功により、韓国財閥ランキング2位にまで飛躍。2022年末時点で韓国財閥グループでは最多となる198社の系列会社を抱え、半導体をはじめとする先端産業のほか、バイオサイエンス、通信、化学、重工業、金融など多岐にわたって韓国の経済・産業界を牽引しています。新たな施策も着々と進めており、半導体関連ではSKイノベーションの化学子会社であるSKジオセントリックが、総合化学メーカーの株式会社トクヤマと提携し、半導体洗浄材料市場へと参入するなど、ハイニックス買収に続く成功例の創出に取り組んでおり、AI、ビッグデータ、IoTなどに代表される第4次産業革命に向けた準備を着実に進めています。