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双方向大容量直流電源“PXBシリーズ”が作り出す電動化の未来

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 双方向大容量直流電源“PXBシリーズ”が作り出す電動化の未来

家電から産業用設備まで、現代における機械の動力源として「電気」は最重要なエネルギーの一つです。近年は“脱炭素”に向けEV/PHVへの転換が推進されるなど、ますます「電気」の重要性が高まり、高効率かつ安定した電力システムの開発研究が求められる中、電源試験環境をいかに整えるかという課題の重要性も高まっています。

1951年の創業以来、コンパクト・高性能・多機能な直流電源や交流電源、電子負荷装置を多様なラインアップで提供し、世界中の開発現場で電源環境試験を支えつづけてきた菊水電子工業株式会社。同社が2023年4月7日に発売開始した新製品が、双方向大容量直流電源『PXBシリーズ』です。

双方向大容量直流電源の開発をスタートした背景にある狙いとは?これまでの電源開発で培われた技術はどう生かされ、電源開発の市場にどんなメリットをもたらすのか?

さらに、同製品開発の経緯やアドバンテージ、活用事例などについて、菊水電子工業株式会社、営業本部 市場企画部 部長 茂戸藤(もとふじ) 寛 氏、ハードウェア開発部 開発二課 チーフエキスパート 安達 雅和 氏、ソリューション推進部 SE課 主任 チーフエキスパート 松林 成学 氏、市場企画部 市場企画課 課長 澤田 尚之 氏に伺いました。

10年以上前からEV/PHV市場に着目。多様なラインアップで研究開発や生産の現場を支える菊水電子工業株式会社

菊水ホールディングスの販売・開発事業を担う菊水電子工業株式会社。その社名は南北朝時代の武将、楠木 正成(くすのき・まさしげ)の家紋に由来しているとのこと。

1951年、ラジオ用ダイヤルを主要製品として事業をスタートさせた同社。創業から70年以上の歴史を刻んだ現在では、直流電源、交流電源、電子負荷装置といった電源装置、また電力測定器や電気安全試験機器、EMC関連試験機器、無線機テスタなどの製品を提供し、信頼性試験、機能性評価、実験など最先端の研究開発や生産の現場を支えています。また、F1車両の開発用途として同社のワイドレンジ直流電源PWRシリーズが、意外なところでは、クリアな音を生み出すミュージシャンのPA機材用途としてコンパクト交流電源PCR-MAシリーズが用いられているのだとか。

自動車業界が100年に1度の変革期にあると言われる現代、エンジンから電気へと動力源の比重が移行する風潮が高まっています。菊水電子工業では、10年以上前から電動化の市場に着目し、大容量スマート交流・直流安定化電源などの安定化電源や、PLZ-5W/5WH2シリーズといった電子負荷装置などを提供しており、EV/PHV開発・評価の現場ですでに広く活用されています。

現在は自動車だけでなくバスやトラック、建設機械のEV化が進展の途上にあり、航空機電動化の実証実験も行われ始めているとのこと。また、日本政府は「2030年、温室効果ガス46%削減(2013年度比)」「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量のプラスマイナスゼロ化)」を目標として掲げており、これによりますます電動化が進むことが予想されています。

そんな中、菊水電子工業は製品を提供するのみならず、ソリューションとして電動化市場や製品開発の現場を支えていくことを目指していると茂戸藤氏は語ります。

測定器 Insight 10年以上前からEV/PHV市場に着目。多様なラインアップで研究開発や生産の現場を支える菊水電子工業株式会社

双方向大容量直流電源“PXBシリーズ”とは?①~業界最高峰の省スペース・大容量を実現~

本記事のメインパート、双方向大容量直流電源『PXBシリーズ』に話題を進めましょう。

同製品の開発がスタートしたのは、約4年前。菊水電子工業の双方向直流電源を求めるユーザーの声からプロジェクトは始まったと、PXBシリーズ開発責任者の安達氏は語ります。

当時の双方向直流電源でスタンダードな容量はおよそ15kW。後発であるPXBシリーズは16kWを目標に開発をスタートし、市場の声のヒアリングを通して、最終的に3Uサイズ・20kWの省スペース・大容量を実現しました。

測定器 Insight 双方向大容量直流電源“PXBシリーズ”とは?①~業界最高峰の省スペース・大容量を実現~

「開発初期から4年経った現在でも、200Vac入力で20kW/3Uを実現できているのは当社だけです」(安達氏)。

PXBシリーズのラインアップとしては、最大電圧と電流が異なる機種が用意されており、そのうち「PXB20K-500」「PXB20K-1000」「PXB20K-1500」の3モデルをこの4月に発売開始した。自動車、自動二輪、バス・トラックなど各製品の電圧帯に対し余力を持って応えられるよう設計されています。

  • ラインアップ

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双方向大容量直流電源“PXBシリーズ”とは?②~波形で分かる、電流の安定性~

『PXBシリーズ』は「Progressive(先進的)」「X(さまざまな負荷)」「Bi-directional DC supply(双方向直流電源)」の頭文字をとって名付けられました。

大容量の電源装置で懸念されるのが出力の安定性。PXBの「X」は、菊水電子工業が過去のスイッチング電源で培ったフィードバック制御技術をさらに発展させることで、大容量にもかかわらずどんな負荷に対しても安定した動作を実現可能だということを表しています。それは、力行(充電)、回生(放電)のいずれの場合も変わりません。
下図では、「充電⇔放電」のシームレスな切り替えが波形として表されています。

測定器 Insight 双方向大容量直流電源“PXBシリーズ”とは?②~波形で分かる、電流の安定性~

出力が発振し、負荷の故障など予期せぬ事態につながることもあります。双方向直流電源でも出力の安定性を重視し設計されているのが菊水製品クオリティです。モビリティの電動化において必要となる車載機器の電源変動の国際規格であるISO21498-2/LV123で要求される高速な電圧変動にも対応済みとのこと。

さらに、波形で分かるのが立ち上がり時の安定性。最大10台の並列運転が可能なPXBシリーズですが、出力遷移時も各PXBの出力電流バランスは全く崩れません。

【参考】CV設定時の立ち上がり波形

ロボット Insight 双方向大容量直流電源“PXBシリーズ”とは?②~波形で分かる、電流の安定性~

※1500V機 、2台並列運転
※1台は3相200V、1台は3相400V

「200V、400V入力モデルの出力容量は、いずれも20kW出力が可能です」と松林氏。
三相400V入力に対して三相200V入力では出力容量が低下する電源製品が多い中、PXBシリーズは、そういった心配は無く、どちらのモデルでも最大出力が可能です。

「ぜひ現場で使ってみて、実際に波形を見ていただきたい。」と安達氏

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双方向大容量直流電源“PXBシリーズ”とは?➂~低リップルノイズと高い操作性~

「低ノイズ」という特性も、PXBシリーズの波形で分かるメリットの一つです。PXBシリーズは、出力の波形にとても拘りました。直流電源で要求される高い安定度と、昨今、要求の多い高速電源変動への相反する特性の両立を追求しています。DC/DCコンバータやインバータは、搭載されるコンデンサなどの容量性が大きくなってきております。この容量性に対して、電源のレスポンスを上げ過ぎると発振の要因となります。PXBシリーズでは容量性負荷を繋いでも安定した直流を供給することを追求しました。

図は、PXB20-1500(1500V出力モデル)に1500μFのコンデンサを繋いだ時の波形になります。左側の図は緑色が電流波形、青色が電圧波形となります。非常に安定した出力電圧となっております。

またリップル電圧は、出力電圧1000Vにおいて、電圧の揺れはピークトゥピークで1.04V、実効値で125mVとなります。また、右側は20kW最大負荷時の電圧波形となります。この時はピークトゥピークで1.42Vとなります。仕様ではリップル電圧は、ピークトゥピーク2.5V、実効値750mVとしていますが、実測値は、かなり良いことが解ります。

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EMCをはじめ、ノイズの計測実験において、電源自体のノイズは大敵です。ノイズの低減のために、社外秘の技術や、低コストと安定性を両立させるための部品選定へのこだわりがあると安達氏は話します。「そこまでこだわった製品であれば安心して使える」と、すでに訪問先の現場からは好反応が得られているということです。

また、操作性の高さや設定の柔軟性もPXBシリーズのポイントです。操作パネルとしては使いやすさを追求したタッチパネルLCDが用意されており、デジタル入出力端子は、12機能から役割をフレキシブルに設定できる入力5/出力6ポート。ピンの配置を自由にコントロールできるため、既存製品からのリプレースの際も再設定の手間を最小限に抑えられます。並列運転時のマスター・スレーブやアドレスの設定もケーブルをつなげば自動認識で行われるとのこと。加えて、AC電源ラインの入力電力がパネルに表示され、エコ性能が見える化される点、動作保証周囲温度が50℃と余裕を持って設定されている点も実際に試験に用いるにあたって、重宝するポイントとなるでしょう。

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双方向大容量直流電源“PXBシリーズ”とは?④~カーボンニュートラルとの親和性~

EVへのニーズの背景にあるカーボンニュートラルとの親和性は、「双方向直流電源」が今必要とされる理由の一つです。
PXBシリーズのアプリケーション事例として、菊水電子工業が掲げるのが以下の5つ。

  1. OBC(INV+DCDC)、インバータ・モータ評価
  2. バッテリ充放電
  3. バッテリシミュレーター
  4. EMC用電源変動
  5. EV充電用電源

車載用充電器として用いられるOBC(オンボードチャージャー)は、直流を交流に変換するインバータと、直流を直流に変換するDC/DCコンバータで構成されます。これまでの直流電源装置では、OBC、インバータ・モータ評価において、戻ってきたエネルギーはすべて熱として放出されてしまっていました。そこで、双方向直流電源により直流電源と電子負荷、両方の役割を担うことで、これまで失われていたエネルギーを回生させることが可能になるのです。実際に削減できる電力消費は各機器の損失と回生効率によるものの、約1/4に抑えられた場合もあるとのこと。

特に長時間運転が必要なエージング試験では、電子負荷としてPXBシリーズを用いることで大幅な電力消費の低減が期待できます。DC/DCコンバータ評価に2台のPXBを利用したケースでは、10kWの実験においてこれまで熱エネルギーとして失われていた12.4kWのうち9kWを回生させることができ、結果として大元の系統からは3.4kWの供給のみで試験が行えるという例が紹介されました。

測定器 Insight 双方向大容量直流電源“PXBシリーズ”とは?④~カーボンニュートラルとの親和性~

また、双方向電源のため、PXBシリーズをバッテリのサイクル試験や各セル電圧・温度計測、リップル重畳に用いることもできます。ほかに、ユースケースとして挙げられるのが以下のような使用用途です。

  • OBC評価における、急速充電用の高電圧電源やHVバッテリ模擬電源などの代わりに
  • PCS(蓄電パワーコンディショナー)評価における、蓄電池模擬の高電圧電源として

PCS評価における系統模擬電源としては、同社のスマート交流・直流安定化電源PCR-WEA/WEA2シリーズとの組み合わせもよく用いられるということです。

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発展途上の電動化業界。PXBシリーズはこれからも進化する

「今、電動化業界はまだ発展途上にある」と安達氏。自動車から、バス・トラック、建機、航空機と電動化が実装されるにつれ、規格も新たになり、さらなるニーズが生じることが予想されるといいます。

現在の仕様において、10台並列運転により200kWが得られるPXBシリーズですが、安達氏の掲げる目標は先ずは400kW(キロワット)、将来的にはそれ以上。また、高帯域化など技術的なスケールの可能性はまだまだ残されています。

PXBシリーズはユーザーとのやり取りで育てていくもの、と茂戸藤氏。今後もヒアリングを繰り返し、「足りていない要求に対しては追っかけでも対応していきたい」と話します。

大容量で汎用性も高く、カタログスペックでもさまざまな要求に応えられるPXBシリーズ。「もし『やりたいことに対して不足がある』という場合でも、いろいろと組み合わせてソリューションを提案させていただくため、ぜひお問い合わせください」と、PXBシリーズに対する熱意と、柔軟な姿勢が最後に示されました。

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