何らかの物理量を測定する際には、測定結果に必ず誤差が含まれてしまいます。誤差の要因は系統誤差、偶然誤差、過失誤差の3種類に分類でき、それぞれ誤差の特性が異なるため分けて考えることが大事です。本記事では、サーミスタによる温度測定を例として各誤差の要因と対策について解説します。精度の高い測定を検討する際には参考にしてください。
誤差とは、ある物理量の真の値と測定値との差を意味します。物理量を測定する際には何らかの誤差が生じてしまうため、測定値と真の値が一致することはありません。そのため測定では誤差の影響をどれだけ打ち消せるか検討する必要があり、誤差が最小限となる測定が精度の高い測定であるといえます。
例えば回路基板の温度測定をするとき、温度変化によって電気抵抗値が変化する特性を持つサーミスタがよく用いられます。周囲温度に応じて変化するサーミスタの抵抗値を電圧値として読み取り、読み取った電圧値から元々の温度変化の値を算出します。サーミスタで温度を読み取る過程において、測定したい温度変化と異なる要因でサーミスタの抵抗値が変化したり、電圧値から温度変化へ換算する際にミスがあったりすると測定誤差となります。
誤差の種類は、特定の原因で発生する系統誤差、ランダムに発生する偶然誤差、測定者のミスで発生する過失誤差、の三つに分けられます。それぞれの誤差は発生要因が異なるため、誤差の影響を減らす対策もそれぞれ分けて考える必要があります。
系統誤差とは、ある特定の原因によって測定値が偏る誤差のことです。例として、測定機器が持つ精度である器差によるもの、温度や湿度、気圧などが影響して発生するもの、測定方法の癖で値が偏るものなどが挙げられます。系統誤差は誤差の要因が明らかであり、測定するたびに毎回同じだけの誤差が生じます。そのため誤差の要因が分かれば、測定機器を校正したり、温度や湿度の影響を補正したり、測定方法を見直すことで除去が可能です。
系統誤差の影響を適切にキャンセルするには、誤差が発生するメカニズムを的確に把握しなければなりません。サーミスタの例で考えると、温度測定時に部屋の室温が変化していると誤差となります。本来はサーミスタを搭載した基板や機器の温度変化のみを読み取るはずが、部屋の室温自体が変わればその影響も含まれてしまいます。誤差の影響を減らすには、室温も同時に測定して補正しましょう。測定後にサーミスタの温度から室温を引き算して差分のみ取り出せば、室温の変化をキャンセルでき、本来測定したい温度変化が得られます。
偶然誤差とは、測定時に毎回ランダムに含まれる誤差のことです。同じ測定環境で、同じ手順で測定しても測定値が完全に一致することはなく、わずかなずれが発生します。偶然誤差の大きさをグラフの横軸に、誤差の大きさごとの発生頻度をグラフの縦軸にとってヒストグラムを作成すると、平均値が0の正規分布となることが知られています。これは、測定値の平均から大きくずれるような偶然誤差は発生しにくいことを示しています。
測定結果に統計的な処理を加えることで、偶然誤差の影響を減らせます。サーミスタの例で考えると、各測定結果は偶然誤差を含んでいるためずれが生じているはずですが、複数回測定して平均値をとれば、偶然誤差の影響は0に近づきます。測定回数を増やすほど偶然誤差の影響を減らせますが、測定にかかる手間が増えることも考慮し、妥当な測定回数を検討するとよいでしょう。
過失誤差とは、測定者の経験不足や不注意による誤差のことです。例として測定方法の間違いや測定値の記録ミス、計算間違いなどが挙げられます。間違いの内容によっては、真の値と大きくかけ離れた結果が出てくることもあるため注意してください。真の値がどのくらいになるか、あらかじめ見当を付けておけば過失誤差に気付けるでしょう。
明らかにおかしな結果になっていれば過失誤差に気付けますが、測定者が初心者であったり、初めて行う測定であったりすると難しいかもしれません。正しい測定方法の教育やダブルチェックの実施、経験者によるレビューなどで防げます。サーミスタの例では、サーミスタの選定ミスやサーミスタを用いた回路設計のミス、電圧値の読み取りミスなどがあり得ます。
測定における誤差とは、測定値と真の値との差のことであり、完全に0にすることはできません。誤差は系統誤差、偶然誤差、過失誤差の3種類に分けられます。それぞれの誤差は発生要因が異なり、要因に応じて誤差を減らす方法も分けて考える必要があります。誤差が発生するメカニズムを理解し、的確な測定方法を検討できれば、誤差が少なく精度の高い測定ができるでしょう。