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FT-IR測定の測定結果から分かること

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight FT-IR測定の測定結果から分かること

FT-IR測定器は、物質の赤外線吸収を測定して解析する機器です。物質が吸収する赤外線には分子構造や結合状態など多くの情報が含まれており、赤外線吸収からさまざまなことを知ることができます。

現在、多種多様な測定器がありますが、FT-IR測定器はその中でも比較的使いやすい上に重要な情報を短時間で手軽に得ることができる測定器であるため、多くの企業や研究機関で使用されています。本記事ではこのFT-IR測定器の機能や使用例について解説します。

FT-IR測定の概要

FT-IR測定器を用いれば物質により吸収された赤外線の波長を知ることができます。物質は特定の赤外線波長に吸収のピークを持っている場合が多く、吸収された波長が分かればどのような分子結合を持っているか推定できるとともに、物質や分子構造を推定することが可能です。このため、FT-IR測定は測定対象を調べる有効な測定法となっています。

FT-IR測定器は1970年代に発展を遂げましたが、それ以前はSleeping Giant、つまり、優れた機能を持つが、実現が難しい測定器と言われていました。それは、データの分析過程でフーリエ変換を行う必要があり、この複雑で膨大な計算を処理するには高性能のコンピューターが必要であったからでした。当時のコンピューターの性能ではこの計算が難しかったのです。しかし、トランジスタの小型化、集積化技術の発展によりコンピューターの性能が飛躍的に上昇し、膨大な計算が瞬時に行えるようになるとこの巨人は目を覚まし、さまざまな分野で目覚ましい成果を上げるようになりました。

測定器 Insight FT-IR測定の測定結果から分かること

当初はフーリエ変換を必要としない分散型IRと呼ばれる測定器が広く使用されていました。しかし、分散型IRは回折格子で赤外線を分光しなければならないために使い勝手が悪く、マイケルソン干渉計を用いて出力されたインターフェログラムをフーリエ変換するFT-IR型の方が便利なために、FT-IR測定器が市場に出回ると分散型IRから一気にFT-IR測定器に置き換わりました。さらに、目覚ましいコンピューターの発展とともにFT-IR測定器も進歩し、小型化、高性能化、高速化が行われて現在に至っています。

FT-IR測定器の機能

FT-IR測定器は分子結合や分子構造などを調べることができますが、これは分子結合が特定のエネルギーで振動しており、同じ振動数の光を吸収してしまうという特徴を利用しています。この分子振動の振動数は赤外線領域の振動数を持っている場合が多いため、吸収された赤外線の振動数が分かればどのような分子結合をしているか推測できます。一方で、異なる分子でも似たような振動数に吸収ピークを持つ場合があるので、特定には慎重を期す必要があります。

赤外線吸収から物質がどのような結合状態を持っているかが分かる上に、赤外線吸収ピークのシフト量から分子結合の持つ角度などや、結合している官能基の分子量なども推定できる場合があるため、FT-IR測定は簡易的な製品の品質管理から厳密性が求められる学術研究まで幅広く使用できます。

また、原料が分からない未知の測定対象の場合には、得られた波形を解析ソフトに付属しているライブラリで検索を行い、最も近い波形を持つ分子を探します。これに加えて、学術論文を検索し、同じ物質を測定した解析結果を調べ比較することで特定の精度は向上します。

構成元素が分からない場合や、構成元素が分かっていても組成が分からない場合には、FT-IR測定器とXPS測定器などX線を用いた元素測定器を併用すると物質の特定や組成比を評価することも可能となるので、これら二つの測定器はよく併用されています。

FT-IR測定の使用例

FT-IR測定器は食品から半導体まで幅広い分野で使用されています。異物が含まれていないか、期待通りの製品ができているかなど、品質管理に使用されるとともに、製品開発やプロセス開発といった開発現場では、FT-IR測定の結果を見ながらより良い製品開発が行われています。

FT-IR測定は基本的に赤外線が透過する物質に使用でき、金属や金属化合物など赤外線が透過しない物質には使用できません。なぜなら金属が赤外線を反射させてしまい、赤外線が検出器に到達しないからです。しかし、全くできない訳ではなく、例えば数十ナノメートル程度の薄膜にすると赤外線の一部は透過するようになるので物質によっては赤外線をよく反射する金属化合物も測定できる場合があります。また、赤外線を透過させずに物質表面で反射させて測定するATR法を用いれば赤外線を反射させてしまう物質の測定も可能になるため、表面のみの測定で十分な場合にはATR法が用いられています。

このようにFT-IR測定は物質内部のみではなく物質表面の赤外吸収まで分かるため、製品の分子構造評価や、表面の油などの汚染物質の特定、また、反応過程をモニタリングする際などにも使用されています。

研究開発の質向上に役立つFT-IR

FT-IR測定器は品質管理や研究開発現場で身近な測定器として親しまれています。使いやすく、得られるデータから物質の特定や物質の変化の観察が可能となるため、使いこなせると研究開発の質の向上に役立ちます。

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