最近ではパワー・エレクトロニクスの応用分野が広がり、小電流から大電流まで計測する機会が増えています。
またバッテリーを電源とする携帯機器ではより低消費電力の実現のため微小電流の測定要求が高まっています。
ここでは微小/低電流測定の方法、市販機での限界と解決のためのヒントをお伝えします。
手軽に電流を測定する計測器として思い浮かぶのはデジタル・マルチメータです。
電流を測定したい箇所に直列に挿入することで電流値を測定できます。
小電流測定という点に着目すると、一部感度を高めた製品もありますが、多くの製品では最小電流レンジは100μA程度です。
μAオーダーの電流測定には少し力不足かもしれません。
図1 代表的なデジタル・マルチメータ
デジタル・マルチメータの電流測定では図2のように内部のシャント抵抗に電流を流し、発生する電圧降下から電流値を求めます。
そのため電流感度を上げるためにはシャント抵抗を大きくする必要があり、最高感度では100Ω程度が使用されます。
この抵抗により発生する電圧のことを負担電圧と呼び、回路の内部インピーダンスが大きい場合は、その影響は少ないですが、逆の場合は誤差の原因になります。
図2 シャント抵抗と負担電圧
交流電流の測定では中級機以上では実効値を表示できますが、対応できる周波数上限は10kHz程度です。
また測定間隔の制限から瞬間的な電流変化には対応しにくいという点があります。
デジタル・マルチメータでは対応できない微小電流にはピコアンメータで対応できます。
図3 代表的なピコアンメータ
10nA (10–8A) 未満の電流、1GΩ (109Ω) を超える抵抗測定に対応できます。
この領域の測定では接続ケーブル自体の漏れ電流が誤差の原因になるため、図4のような構造を持つガードケーブル(トライアキシャル・ケーブル)と呼ばれるケーブルを使用します。
図4 ガードケーブルの構造と原理
芯線と内側シールドの間にはゲイン1のバッファを挿入し、電位差をゼロにすることで芯線からの漏れ電流をゼロにします。また全体をシールドする外側シールドに流れる漏れ電流はバッファが供給します。
微小電流波形の観測には、挿入インピーダンスを低く抑え、かつ高周波領域まで回路を切ることなく、クランプにて電流波形を観測する電流プローブとオシロスコープの組み合わせが広く使われてきました。
図5 代表的なクランプ式電流プローブ
オシロスコープ上での電流感度は電流プローブとオシロスコープにより図6のように変わります。
図6 電流プローブとオシロスコープを組み合わせた電流感度
従来はオシロスコープの1垂直目盛り当たり500μAないし1mAが最高感度でしたが、最近になり感度を10倍に上げた高感度タイプが市販され、50μA/divまで計測可能になりました。
なお、オシロスコープ・メーカー独自のプローブ・インターフェースでのみ使用できる製品が多いため、選択にあたっては注意が必要です。
高感度の電流プローブと高感度のオシロスコープを使用する方法は便利ですが、低感度の電流プローブを活用して微小電流を測定する方法もあります。
クランプ式本来の直接回路にクランプできるメリットはなくなりますが、図7のような、コイルのように何回も線を通す方法です。
図7 コイルのように何回も線を通して感度を上げる
電流プローブは電流で発生する磁界を検出するので、磁界を大きくすれば感度が上がります。
微小電流なので細いエナメル線などを使えば100回巻くことで感度を100倍に向上することもできます。
図8はファンクション・ジェネレータの出力を抵抗100kΩに流した場合の電流を確認するという評価回路です。
抵抗には0A/50μAの電流波形が流れます。
図8 微小電流測定用KOAの評価設定
使用した電流プローブの出力電圧レートは1V/A、オシロスコープの電圧感度は2mVに設定、プローブ先端での電流感度は2mA/div、100ターンのコイルの効果で感度は20μA/divになります。
図9は測定結果です。高感度測定が行われていることが確認できます。
図9 100ターンのコイルを併用した場合の測定結果
ただし巻いた線はコイルになり、線間容量により共振を起こします。電流波形の立上り/立下り時間が速い場合は波形に影響が現れます。
図10は電流波形の立ち上りが速く、共振が発生した例です。
図10 急峻に変化する電流により共振を起こす
立ち上がりを遅くすると図11のように問題は起こりません。
図11 電流の立ち上がりを抑えた場合
このように事前に実験セットを評価することで安心して測定を行えます。
回路にシャント抵抗を挿入する手間はありますが、小さなシャント抵抗を使い、スペースの少ない基板から電流を取り出せる高感度の電流プローブが市販されています。
シャント抵抗は一つですが、プローブ内部にて信号を2系統に分け、電流信号全体と一部の拡大を別のチャンネルで表示することも可能というユニークな機能を持っています。
図12 シャント抵抗を使った電流プローブ
シャント抵抗を使い微小電流を検出するためには抵抗値を大きくしなければなりません。
デジタル・マルチメータでは1mAレンジでのシャント抵抗は100Ω前後あるため、フルスケールの1mAを測ると0.1Vの電圧降下、負担電圧が発生しますが、これは小さいに越したことはありません。
オペアンプは
という特長があります。
図13 オペアンプとは
この特長を使ったフィードバック電流計という方法があります。
図14において電流はオペアンプに流れ込むことなく、抵抗Rを流れ、オペアンプの出力端子から内部に流れ込み、電源経由で戻ります。
オペアンプの出力には
-I×R
の電圧が発生、R=1MΩの場合、電流が1μAで出力は-1Vになります。
オペアンプの入力には電位差がゼロ、つまり負担電圧はゼロです。
図14 フィードバック電流計の原理
実際のオペアンプを使いLTSpiceでシミュレーションした結果が図15です。
図15 市販のオペアンプを使用したフィードバック電流計
電流は計測系の影響を受けず、1μAが-1Vに変換されています。
この-1Vを正確に測るのは極めて簡単なことです。
回路を組んで実験してみましたが、周波数帯域50kHzを実現できました。
このためデジタル・マルチメータだけでなくオシロスコープと組み合わせ、電流波形を測定することができました。
このように汎用の機器に少しの工夫を加えることで微小電流を測定することは可能です。
確度の確認をすることで確信をもって測定することができます。