半導体チップに関するニュースや記事では、プロセスという単語を頻繁に目にします。プロセスは半導体の製造技術や性能を語る上で欠かせない指標の一つであり、今でも研究開発が進んでいます。プロセスについて知ることで、半導体業界への理解が深まるでしょう。
本記事では、半導体チップにおけるプロセスとは何かを解説します。
プロセスは略称であり、「プロセスルール」「プロセスノード」「プロセスサイズ」といったさまざまな呼び方があります。簡単にまとめると、「半導体チップをどれだけ微細に作っているか」を示す言葉です。
プロセスの単位はnm(ナノメートル)で、10nm・7nm・5nmのように表現されます。これらの数値が示しているのは、半導体チップ上に配置されたトランジスタのゲート長です。
トランジスタは電気信号を大きくする増幅機能と、電気を流したり止めたりするスイッチング機能を持つ半導体素子であり、そのトランジスタのON/OFFを切り替えるスイッチのサイズがゲート長です。ゲート長が短ければ短いほど電子が少ない時間で移動できるので、電子回路が高速化します。
単純に言えば、集積されているトランジスタの数が多いほど半導体チップの性能は上がります。しかし、ただ単にトランジスタの数を多くするだけでは、半導体チップのサイズが大きくなるので、電子機器の小型化ができません。そこで、同じ面積で多くのトランジスタを配置できるように、プロセスの微細化が進められてきました。
半導体のプロセスは、ムーアの法則に従って長らく微細化を続けてきました。
ムーアの法則は、インテル創業者の一人であるゴードン・ムーアの「半導体の集積率は18カ月で2倍になる」という予測に由来します。ここでいう半導体の集積率は、トランジスタの数の多さとほとんど同義です。
ゴードン・ムーアは、少なくとも1965年から1975年までの10年間は同じ比率で集積率が増え続けると予測しました。実際に1975年になるとその予測の正しさが実証されることになりますが、その後もおおよそムーアの法則通りに半導体の集積率は増え続けることになります。
2022年5月時点で実用化されている最も微細な半導体チップは、TSMCが製造する5nmプロセスと言われています。そのほかの半導体メーカーも、10nmプロセスや7nmプロセスは実現している状況です。
しかし、昨今ではトランジスタの構造が複雑化した影響もあり、プロセス(トランジスタのゲート長)は半導体チップの性能と必ずしも直結しなくなっています。しかし、半導体チップの性能を示す何らかの指標は必要ということもあって、半導体業界では引き続きプロセスを使い続けているというのが実状です。
このような背景もあり、最近ではTSMCの「N5(5nmプロセス相当)」、Intelの「Intel 7(10nmプロセス相当)」といったように半導体メーカー各社が独自の名称をつける例も増えています。
半導体のプロセスは長らく微細化を続けてきましたが、最近ではそのペースが遅くなっています。半導体業界では、「微細化の限界がきた」という議論がしばしば起こりますが、まだしばらくの間は微細化が進むと考えられます。
例えば、TSMCは3nmプロセス相当の半導体チップである「N3」の量産体制をすでに整えており、2022年後半には量産が始まるのではないかと注目されています。同社はさらに2nmプロセスの量産に向けた研究開発も行っており、業界最大手のメーカーとして引き続きプロセスの微細化を牽引している状況です。サムスン電子も、TSMCと同様に3nmプロセス、2nmプロセスの量産を目指しています。
ただし、プロセスの微細化だけが半導体チップの進化を促すものではありません。縦方向に積み上げる三次元化によって性能を高める、材料技術によって消費電力を低減させる、といったように、さまざまな方向性で研究開発が進められています。
また、半導体チップは必ずしも最新鋭でなくてはならないわけではありません。実際に、2022年から日本でTCMCの新工場が建設される予定ですが、その工場で製造されるのは22~28nmプロセスの半導体チップであり、自動車やセンサーに使用すると見られています。現在のTSMCの主力である5nmプロセスに比べると何世代も古いものですが、用途やコストを考慮すると十分という判断がなされたと考えられます。
半導体のプロセスは現在も微細化が進められており、今後も重要な指標として使われ続けると考えられます。半導体メーカー各社の研究開発に期待したいところです。
一方で、いかなる場合でも最新鋭のプロセスが優れているわけではないことを覚えておきましょう。どのプロセスがどのような用途で使われているかも調べていくと、より半導体に関する知識が深まっていくと考えられます。