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電流測定で見えてくるものがある

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 電流測定で見えてくるものがある

多くの計測器は電圧入力、高周波を扱うスペクトラム・アナライザは電力入力を測定しています。
負荷が純抵抗であれば電圧波形と電流波形は位相ずれもなく相似になりますが、実際はいろいろなインピーダンスの負荷を電流が流れるため電流波形の確認が必要になります。
ここでは電流測定の方法、市販製品での限界と解決のためのヒントを解説します。

電圧では分からない事

図1のように負荷に加わる電圧は同じでも流れる電流は異なります。
電流は個別に測らないと分かりません。

充放電電流の測定実験

図2の実験回路では半波整流回路で直流電圧を発生、負荷抵抗Rには直流電流を、FETには変化する電流を流し平滑コンデンサの充放電電流を観測した様子です。

コンデンサの電圧<(AC入力の瞬時値-ダイオードオン電圧)
の区間でコンデンサは充電され、それ以外の区間では整流ダイオードはオフになり、コンデンサは放電して負荷に電流を流します。

図3はコンデンサの電圧と充電電流を実測した結果です。
コンデンサに流れる電流がダイナミックに変化する様子が観測できます。

デジタル・マルチメータの仕組み

手軽で確度が高い測定ができる計測器というとデジタル・マルチメータでしょう。
多機能で桁数が多いベンチトップ型、どこにでも持ち運べるハンディ型と種類も多く、中にはホームセンターで売られている製品もあります。

デジタル・マルチメータの仕組みは単純です。
キーデバイスは電圧分解能の高いA/D変換器です。

  • 直流電圧はバッファ経由でそのまま
  • 交流電圧は整流され(中級機以上は実効値対応)
  • 抵抗値は内部の電流源を使って直流電圧に変換
  • 電流は内部の抵抗(シャント抵抗と言います)に流し、発生する電圧降下を測る

交流の電圧/電流測定では測定できる周波数レンジに注意します。
この仕組みで電圧・電流・抵抗を測定します。

電流測定には注意

電流はそのままでは測れないので、内部のシャント抵抗による電圧降下を測るのですが、これが誤差を呼ぶことがあります。

図4は代表的なベンチトップ型デジタル・マルチメータのキーサイト・テクノロジー34461Aの例です。
高性能、高機能には定評がある計測器で、電流測定ではレンジで決まる負担電圧、つまりシャント抵抗で発生する電圧降下が規定されています。
シャント抵抗値としては記載されていませんが、前モデルで規定されていたシャント抵抗値と同等と思われます。
シャント抵抗値は他メーカーでも同等です。

図5はハンディ型デジタル・マルチメータを使い1mAの電流を測る例です。
1mAに近い電流レンジは6000μAですが、この時のシャント抵抗は100Ωでした。負荷抵抗は1kΩですが直列にこの100Ωが入るので実際の負荷は1.1kΩに増え、電流は本来の1mAから1割減少してしまいます。

マルチメータはこの減少した電流を規定されている確度で測りますが、負荷抵抗値とシャント抵抗値のバランスによっては本来の確度を活かせないことがあります。
シャント抵抗値にベンチトップ型とハンディ型とで大きな差がないため上位のベンチトップ型でも影響は全く同じです。

シャント抵抗を使って電流波形を測る

図2の実験では、デジタル・マルチメータの電流測定モード同様に回路にシャント抵抗を挿入し、生じる電圧降下から電流波形値を算出しました。
この方法はパワー・エレクトロニクスに使われる電力計にも使われています。

ただし以下の制限があります。

  1. 回路を切って抵抗を挿入する手間
  2. シャント抵抗が回路動作に与える影響
  3. 図6のように計測器が絶縁入力でない場合はグラウンドに流れ込む電流のみ測定可能

グラウンドに関しては図7のように差動プローブを使用して解決できます。

しかし感度が高い高周波用差動プローブは対地最大電圧が低く、また対地最大電圧が大きな高電圧差動プローブは大きな減衰比により感度は低くなる制限があることには留意しましょう。

現時点では唯一、光絶縁プロープ(テクトロニクス製)が解決策になると思われます。

電流波形を測るには電流プローブが一般的

シャント抵抗の影響を考えて回路を切るのは面倒だと感じることは少なくないでしょう。
そんな時、貫通式またはクランプ式の電流トランスや電流プローブが便利です。
これらには図10のようにいくつかの形式があります。

主に商用電源(50/60Hz)の電流測定に使われるデジタル・マルチメータで簡単に電流値を測定できる巻線式、オシロスコープやレコーダーにて電流測定を行うクランプ式の電流プローブ、電力計と組み合わせる貫通式の電流トランスなど多くの形式があります。

測定する電流の周波数、電流値、重畳する直流電流の有無、求める確度などから適切な製品を選ぶことが大切です。

電流プローブを使った波形の測り方

交流電流はトランスの原理を使いますが、そのままでは直流電流は検出できないため、図11のようにトランスとホール素子を組み合わせた方法が使われます。
クランプするためにコアは分割可動式になっています。
簡単にクランプできますが注意すべき点があります。

プローブの選択は最大電流値とサイズのトレードオフ

電流プローブの感度と電流許容値に注意

電流プローブには小電流用から大電流用までありますが、測定できる最大電流とプローブの物理的なサイズはトレードオフになります。
サイズの大きな電流プローブは細かい箇所のプロービングが制限されますが、プロービングしやすい小型のプローブは電流の許容値が小さくなります。

測る周波数で可能な最大電流値に注意

電流プローブの型名に併記される性能には

  • 周波数帯域
  • 最大電流値

の二つがありますが、この二つは両立せず最大電流値は周波数が高くなると大きく低下します。
周波数ディレイティングと呼ばれ、電流プローブに限らず電圧プローブでも「周波数vs最大入力」が決められています。

図12は代表的な電流プローブの使用可能範囲の傾向です。
30A,100MHzのプローブでも数100kHzでは最大電流は半分程度に低下しています。
プローブが壊れるわけではありませんが、コアが飽和することで波形が歪んでしまいます。

プローブの選択にあたってはデータシートを隅々まで確認し、不明な点はメーカーにどんどん質問しましょう。

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