デジタル・マルチメータや周波数カウンター、パワー・エレクトロニクスで使われる電力計は数字で測定結果が表示されます。
このような計測器の確度は±(読取り値のXX%+XXデジット)で表されることが多く、桁数が多ければそれだけ確度の高さが期待できます。
ホームセンターで売られているハンディ型のデジタル・マルチメータでも0.1%程度の確度をうたっています。
一般にハンディ型は桁数が少なく、ベンチトップ型は桁数が多く機能も多い傾向はありますが、動作原理は同じです。
使い方次第で高い確度が得られる場合もありますが、思わぬ大きな誤差が生じることもあります。
以前にも取り上げましたが電圧測定の計測器に必要な入力インピーダンス(抵抗)はできるだけ大きいこと、できれば絶縁(無限大)です。
また電流測定の計測器ではできるだけ小さいことです。
最近は見かけることも少なくなり、昔のビデオや時代設定が過去の映画で見かける針式の計測器ですが、針式メータ(アナログ・テスタ)は今でも販売されています。
針式メータはフレミング左手の法則、磁界中に置かれた導体に電流を流すと力を発生することを利用しています(図2)。
図3のように磁界中に置かれたコイルに電流を流すと回転する力が生じ、内蔵するバネのスプリングの力と電流が回転する力のバランスする位置で針が止まります。
電流に比例した回転をするので電流計として動作します。
さて、この電流計を使ったアナログ・テスタはどのような性能なのでしょうか。
手持ちの三和電気計器のデジタル・マルチメータとアナログ・テスタを比べてみました(図4)。
表の入力抵抗はデジタル・マルチメータによる実測値です。
このアナログ・テスタでは電圧モードの0.25Vと電流モードの50μAはスイッチの位置が同じです。
つまり図4のようにこのメータの内部抵抗は5kΩです。
5kΩに0.25Vを加えると50μA流れます。
電圧計としてレンジを大きくするときには、直列に抵抗を挿入させます。
入力抵抗は図4のように20kΩ/V、1Vレンジ当たり20kΩと記載されていますが、これは2.5Vレンジでは2.5Vで50μA流れるように入力抵抗はR=2.5V/50μA=50kΩになります。つまり20kΩ×2.5=50kΩという意味です。
電圧計としては入力抵抗が低く、電流計としては大きいという、理想からはやや遠い計測器といえるでしょう。
デジタル・マルチメータが登場する前はバッファアンプを介して入力抵抗を改善した製品もありました。
デジタル・マルチメータではハンディ型でもベンチトップ型でも電圧測定での入力抵抗は約10MΩと理想に近い値になっています。
デジタル・マルチメータの心臓部、図5のようにビット数の大きい、電圧分解能の高いA/D変換器です。
直流電圧の測定では、測定する電圧は高い入力抵抗(10MΩの製品が多い)バッファを経由してA/D変換器にて測定されます。
A/D変換器は分解能優先で変換速度は速くありません。そのため、基本的には変化のない、ないしは変化のゆっくりした直流電圧を測定します。
結論としてデジタル・マルチメータ本来の確度を引き出しやすいといえます。
図6のように直流1.5Vを二つの1kΩの抵抗で分割した回路の電圧を測定する場合を考えてみましょう。
デジタル・マルチメータの入力抵抗10MΩは1kΩに対して10,000倍の大きさです。そのため回路の動作に与える影響はわずかです。
計算では0.005%の低下になり、この電圧を規定された確度で測定します。
ハンディ型のデジタル・マルチメータを使った実験結果が写真1です。
測定結果は0.767Vです。
使用した抵抗、電源電圧の実測値を考慮してLTSpiceでシミュレートした結果が図7です。767.8mVになり、実験結果と計算値は一致しました。
次に抵抗を1kΩから1,000倍の1MΩに換えてみます。
デジタル・マルチメータの入力抵抗10MΩの影響が大きいことが予想できます。
1MΩの抵抗とデジタル・マルチメータの入力抵抗10MΩが並列になり合成抵抗は909kΩと大きく低下、このため電圧は0.75V⇒0.714Vに低下する計算です。。
同じく実験した結果が写真2です。
測定結果は0.738Vです。
図9のシミュレート結果とも一致しました。
このようにデジタル・マルチメータの入力抵抗10Mは場合によっては決して十分に大きいわけではありません。
そのため一部の製品では入力抵抗をさらに1,000倍大きな10GΩに切り替え可能です。
回路に与える影響を考えれば、入力抵抗は高ければ高い程有利ですが、実はデジタル・マルチメータの入力から外部に流れ出す電流が存在します。
そのため回路の抵抗が高い程、この電流による電圧が発生し、新たな誤差の原因になるため注意が必要です。
入力抵抗と漏れ電流のどちらの影響が大きいかを考慮することが大切です。
デジタル・マルチメータは基本、直流電圧を測定します。そのため直流電圧の測定確度が一番高くなります。
交流電圧は図10のように直流電圧に変換して測定するため、変換回路の性能が確度に大きく影響、1桁程度の確度低下があります。
デジタル・マルチメータの交流電圧測定では波形のゆがみに関係なく実効値を求めたいと思います。
しかし普及機では簡単な平均値検波を採用しているため、ゆがみのない正弦波以外では誤差が生じます。
交流電圧測定については実効値対応がなされた製品を使うべきでしょう。
なお変換回路には周波数特性があり、測定できる周波数範囲の制限、周波数による確度の低下もあります。
デジタル・マルチメータの電流測定端子は電圧や抵抗用とは別になっています。そして図11のように内部にはシャント抵抗と呼ばれる抵抗が接続されています。
測定する電流は抵抗を流れ、発生する電圧降下を測定し、電流値に変換します。
シャント抵抗値は電流レンジにより変わり、大電流では小さく、小電流では大きくなります。
シャント抵抗値はデータシートに記載されていますが、機種によっては「負担電圧」と表示されています。
この負担電圧を使用している電流レンジで割ればシャント抵抗値を求めることができます。
このシャント抵抗の存在が電流測定においては誤差の原因となるのでデータシートで必ず確認するようにしましょう。
抵抗測定では図12のように内部に設けられている電流源を使います。
測定したい抵抗に一定の電流を流し、抵抗両端に発生する電圧を測定し抵抗値に変換します。
このため誤差の要因は少ないのですが、測定する抵抗値が小さい場合には接触抵抗が影響を与えます。
接触抵抗値は不安定なため、測定結果も安定しないことになります。
これに対応するため上級機ではSENSE入力端子が設けられており、4端子測定が可能です。
4端子測定では図13のように測る抵抗の両端にSENSE端子からのケーブルを接続し、内部の電圧計はSENSEの電圧を測ります。
もちろんこの部分にも接触抵抗はありますが、電圧測定回路の入力抵抗は十分に高いため正確に抵抗両端の電圧を測定できます。
さらに不安定な接触抵抗があっても流れる電流値は低電流源ゆえに一定ですから、安定して抵抗値の測定ができます。
交流電流、特に高周波電流の測定では以前から図14のような高周波電流計が使われています。
電流の実効値は波形がゆがんでいても、また周波数が比較的高くても抵抗で発生する熱量を測ることで得られます。
熱電対式電流計とも呼ばれる方法です。
また電流波形を求める場合はクランプ式電流プローブとオシロスコープの組み合わせが広く使われています。回路に直接接続しないクランプ式でも等価的に回路にはインピーダンスが加わります。
これらはすべて回路に挿入される抵抗、インピーダンスが異なり、結果として測定結果が一致しなくなります。
測定条件を併記しておくことをお勧めします。
デジタル・マルチメータの入力端子に加わっている電圧、流れる電流に対しての確度です。
入力抵抗が回路に与える影響は一切考慮されていません。
影響の程度はユーザーがデータシートと回路を照らし合わせて検討しなければなりません。