測定では機器Aから機器Bへ信号を伝える、また2台以上の機器に信号を分けることがあります。
低周波の場合はそれほど気にする必要がありませんが、信号が速い場合はそうはいきません。
今回は信号の反射というものを理解し、いくつかのケースでの接続方法を解説します。
パルス・ジェネレータの信号は立上り時間が速く、出力デバイスから電流を引っ張る必要があり、図1のように50Ωで終端(エンド・ターミネーション)します。
図1 パルス・ジェネレータの接続方法
信号を受け取る機器の入力インピーダンスが高い場合は50Ωの終端抵抗(ターミネーション)を併用します。
パルス・ジェネレータの出力に75Ωの同軸ケーブルを使用。
同軸ケーブルには50Ωと75Ωの2種類があります。
映像機器ではアナログビデオの時代から伝統的に75Ωが使われています。もちろん信号出力側、受信側のインピーダンスも75Ωです。
両者の形状は酷似していますがケーブル外被にはインピーダンスが記載されています。
75Ωの同軸テーブルを使うと両端で反射が起こり、パルス波形に歪みが発生します。
図2 パルス・ジェネレータの間違った接続の例
映像関係の計測器を同時に使う場合はケーブルの管理に注意が必要です。
サイン波やパルス波、三角波などのいろいろな波形を出力できるファンクション・ジェネレータですが、最高周波数ではサイン波になり、信号の変化速度としてはあまり速くはありません。
例えばサイン波で200MHz出力可能な製品でも、パルス波の立上り時間は50Ω終端でも最高4.4ns程度です。
このため反射の問題は顕著には現れず、図3のように負荷インピーダンスが高いままのバック・ターミネーションと、50Ω終端のエンド・ターミネーションのどちらでも使えます。
図3 ファンクション・ジェネレータの接続方法
専用のアンプを使う電流プローブの間違った使用例です。
この製品には50Ωの同軸ケーブルと終端抵抗が付属しています。
アンプ⇒同軸ケーブル⇒終端抵抗⇒オシロスコープ
が正しい接続です。オシロスコープの入力インピーダンスが50Ωに変更できれば終端抵抗が不要になるのは言うまでもありません。
この例では図4のようにアンプ出力端子に終端抵抗が挿入されていました。
電流プローブの帯域を考えると悪影響は少ないかもしれませんが間違った接続方法です。
図4 電流プローブアンプの間違った接続の例
複数のファンクション・ジェネレータを同期運転する例です。
チャンネルが足りない場合に使いますが、それぞれのジェネレータは微妙に異なる内蔵クロックで動いているので発振周波数がずれます。
そのため外部リファレンス入力(10MHz)を使って同期を取ります。
1台目のジェネレータが指揮者のようにクロックを出力、それを他の機器が共有します。
図5のようにクロック出力をBNC-Tコネクタで分配、時間ずれを考慮して2本の同軸ケーブルの長さを揃え2台の機器に分配。
図5 不適切な信号分岐 その1
等長ケーブルにした点は良いにしても図6のように受信端で発生した反射波がまたTコネクタで反射して大きな波形歪みが起きています。
受け側のスレッショルド電圧によりますが動作が不安定になる可能性があります。
図6 LTSpiceでのシミュレート結果
反射を抑えるために図7のように片方の機器で終端。
図7 不適切な信号分岐の例 その2
解析してみると図8のように反射波はさらに複雑怪奇になり、これでは誤動作する可能性が高まります。
図8 さらに複雑怪奇な反射
簡単に波形歪みを抑える接続は図9のように機器のクロック出力とクロック入力を直列に接続します。
この方法で波形歪みは無くなりますが、同軸ケーブルの遅延に加えて機器内部の遅延が発生することは考慮してください。
図9 直列接続
また図10のように直列接続し、最後に終端する方法もあります。
図10 最後に終端する直列接続
図11はファンクション・ジェネレータを想定して4台の接続を行ったシミュレート結果です。
わずかながら波形歪みが発生しています。実際にはコネクタ部分でももう少し歪みが起きるかもしれませんが、10MHzクロックでしたら問題はありません。
図11 最後に終端する方法
高周波では反射を考慮した接続を行います。
パワー・デバイダとパワー・スプリッタの二つがあります。この二つはよく似ているのですが使い方は異なります。
高周波信号の整合を取って二つに分けるにはパワー・デバイダを用います。
図12 パワー・デバイダによる分配
パワー・デバイダの内部は図13のように16.7Ωの抵抗が入っており、50Ωで終端すればどの方向を見ても50Ωなので全く反射は起こりません。
勿論、信号振幅は低下します。
図13 パワー・デバイダの構造
100MHzのクロックと50cmの同軸ケーブル、パワー・デバイダを使ったシミュレート結果が図14です。
図14 パワー・デバイダでは完全に整合が取れる
パワー・スプリッタは図15のような構造です。
50Ωの抵抗が入り、負荷が50Ωであれば問題なく整合します。
図15 パワー・スプリッタの構造
パワー・スプリッタは信号分配と言うよりも測定に使うツールです。
図16のように出力インピーダンスが50Ωの信号を50Ωで終端すれば信号振幅は1/2 V_0になります。
インピーダンスが不明(R)の負荷で終端すると信号振幅はR_x/(50+R_x ) V_0になります。
図16 負荷インピーダンスで変わる出力電圧
さて、ここで図17のようにパワー・スプリッタを使いインピーダンスが不明のRと50Ωの計測器を並列に接続、スペクトラム・アナライザやパワーメータなどの計測器でモニターすることを考えます。
図17 パワー・スプリッタによる出力調整
負荷Rによりパワー・スプリッタの入力は変化しVxになります。
それにより計測器の指示値は1/2 V_xになります。
ここでジェネレータの出力を調整して1/2 V_0になるようにすればRに加わる電圧はR_x/(50+R_x ) V_0、
つまり図16の右側、単独で接続した場合と同じことになります。
勿論Rが50Ω以外では反射が起っていますが、測定は問題なく行えます。
一見似ているパワー・デバイダとパワー・スプリッタですが全く使用目的が違うことが分かります。
このように複数の機器を接続する場合は振幅の変化、インピーダンス不整合による波形歪み、そして時間遅延を考慮しなければなりません。