オシロスコープにはチャンネル数分のプローブが付属します。このプローブは減衰比10:1のパッシブ・プローブという受動部品で構成されています。
その一方でオプションとして別売の高価なアクティブ・プローブ、トランジスタなどの能動部品を使ったプローブもあります。
まずは付属のプローブを100%使いこなし、いざという時はアクティブ・プローブを効果的に使うことで信頼性の高い試験ができます。
今回はパッシブ・プローブの仕組みと性能、その限界と使いこなすノウハウを解説します。
数は少ないですが減衰比が1:1のプローブが販売されています。
その中身は図1のように形状を接続しやすくした同軸ケーブルです。
図1 1:1のパッシブ・プローブの中身
オシロスコープの入力部のインピーダンスは抵抗分が1MΩ、容量はメーカー、機種で多少違いますが10~20pFです。同じ型名の機種でも製造ロットで変わることもあるようですし、チャンネルによってわずかですが異なるのが普通です。
1:1プローブはオシロスコープの電圧感度をそのまま活かせるのですが、問題は同軸ケーブルの芯線とシールド間の浮遊容量です。
通常の50Ω同軸ケーブルでは約100pF/mあります。
プローブ用の同軸ケーブルでは半分程度に抑えてありますが、信号ピックアップ用には容量が過大です。
ケーブル長が2m程度の1:1プローブの入力容量は100pF前後になります。
写真1上はプローブに使用されている同軸ケーブル、下は伝送インピーダンス50Ωの同軸ケーブルです。
プローブ用の同軸ケーブルは特徴があり、写真を見ても芯線が非常に細いことが解りますが、実は芯線は抵抗線です。
パッシブ・プローブは整合を取った回路では無いので反射が起きます。その反射波を減衰させるための抵抗成分です。
写真1 プローブ用同軸ケーブルと一般の同軸ケーブル
プローブは回路のあるポイントの信号を観測しようと測定ポイントに接続するわけですが、図2のようにできるだけ影響を与えずに「コソコソ」と覗かなければなりません。
しかしプローブが電気要素である限りインピーダンスは無限大ではありません。
どうしても信号に対して負荷になる、それを「プローブの負荷効果」と呼びます。
効果と言ってもマイナスの効果ですから少ないに越したことはありません。
図2 プローブは回路にとって余計な侵入者
プローブの負荷効果を低減するためには
する必要があります。
そのため感度は1/10と犠牲になるものの、入力抵抗を上げ、入力容量は下げる目的で図3の10:1のプローブが使われます。
オシロスコープの入力容量は製品によって異なるため、周波数特性を平坦にするために調整用の半固定コンデンサが設けられています。
図3 10:1プローブの原理
10:1プローブの原理はどこのメーカーでも同様で、入力抵抗は10MΩ、入力容量は10pF程度になります。
実際のプローブでは高周波領域における波形形状の補正回路も含まれています。
オシロスコープには必ずプローブ補正のための信号(1kHzの方形波)がフロントパネルに設けられています。
プローブを接続し、フラットな波形になるように調整ドライバーでBNCコネクタ側、またプローブ本体側のトリマ・コンデンサを回して合わせます。
中にはプローブ付属の専用ドライバを使わないと回せないプローブもありますので、説明書を読みましょう。
写真2 プローブの補正方法
メーカーはどのプローブがどのチャンネルに使われるか分かりません。チャンネルの入力容量にはわずかですがバラツキがあるため、それらも考慮し補正をしなければならないため、メーカー側での補正が難しいのです。
プローブの故障で一番多いのがグラウンド線の断線です。
断線に気が付かなくても、それなりの波形が見えてしまい、後になって「何かおかしい?」となってから断線が原因と分かることが少なくありません。
オシロスコープを使う前の始業点検として以下の内容を必ず行うことをお勧めします。
ステップ1 本体の断線チェック
プローブの先端に指を触れます。そしてオートセットを行うと商用電源からの誘導ノイズ(50/60Hz)が表示されるはずです。グラウンド線程は断線しませんが、やはり細い芯線なので外部からのストレスで断線します。
ステップ2 グラウンド線の断線チェック
グラウンド線のクリップを取り付けたままプローブの先端に指で触れます。
ノイズが出なければ断線はありません。
写真3 プローブの始業点検
オシロスコープの入力容量はチャンネルごとに若干バラツキがあります。同じ型名のオシロスコープでも若干のバラツキがあるのは否めません。
そのためあるチャンネルで補正を行ったプローブが他のチャンネルでも最適補正になるとは限りません。
チャンネルとプローブの組み合わせを決めておくことをお勧めします。
付属品にカラーリングがあるので、これを使ってIDとすると便利です。
当然ですが、プローブの調子が悪いからと言って、他所から持ってきたプローブをそのまま使うことは厳禁です。
YesともNoともいえる微妙な問題です。
● 全然ダメなケース
× コネクタ形状により物理的に接続できない場合は当然使用できません。
× プローブの容量補正範囲内にオシロスコープの入力容量が入っていない場合は、補正作業ができないので使用できません。
● 低周波なら使えるケース
△ 厳密には付属のプローブはそのオシロスコープに合わせて高周波領域で効く補正回路が入っている場合が多くなります。そのためパルスの立ち上り部分で波形が乱れることがあります。
オシロスコープの入力のグラウンドは共通です。
そのためプローブ・グラウンドは1箇所だけ取れば良いのではという考えの方もおられます。
プローブも有限のインピーダンスを持つ電気回路ですから電流を吸い込みます。
吸い込まれた電流は図4のようにグラウンド線経由でシグナル・グラウンドに戻らなければなりません。
もしもグラウンド線が接続されていなければどこかの経路で戻るはずです。
図4 不完全なグラウンドの取り方
図5はCH2(青)のグラウンド線接続が無い場合です。グラウンド線を外した時は大きな歪があることが分かります。
図5 CH2(青)プローブのグラウンド線を外す
1本グラウンドは周波数が低い場合、歪は目立ちませんがMHzオーダーでは使えません。
プローブはグラウンドを取らなければなりませんが、信号に高周波成分が含まれる、パルス波で言えば立ち上りが急峻な場合はさらに注意が必要です。
プローブに付属するアクセサリには通常のグラウンド線、長いグラウンド線、最近はコイルバネ状の短いグラウンド線が同梱されています。
図6 プローブの使い方が波形再現性に与える影響を調べる
図7は、図6の設定にてグラウンド線を変えながら影響を評価した結果です。信号の立上り時間は2.8nsです。
CH1(黄)・・・プローブが信号に与える影響
CH2(青)・・・プローブの再現性
が評価できます。
図7 評価結果
グラウンド線の寄生インダクタンスと入力容量により共振が発生し、波形に振動(リンギング)が発生します。
もちろん、立ち上りがゆっくりした波形では共振は起こりませんが、ノイズを拾うことがあるためできるだけ短い方が有利です
写真4はテクトロニクスの汎用オシロスコープの標準アクセサリとして付属するTPP1000(500MHzではTPP0500)です。
写真4 テクトロニクス TPP1000
このプローブは10:1のパッシブ・プローブですが入力抵抗/容量は10MΩ/3.9-5.1pF(2種のプローブチップによる)と従来の半分の容量になっています。
10:1パッシブ・プローブの原理からすると実現不可能な値ですが、興味深い手法を使っていると思われます。パッシブ・プローブの性能を大きく進めた製品であることは確かでしょう。
このプローブはオシロスコープとの間で通信し、プローブの製造番号を確認、補正作業はトリマではなく電子的に行います。
そのため一度すべてのプローブ/チャンネルを組み合わせて補正作業を行えば、どのプローブをどのチャンネルと組み合わせても使用できます。