もともとPCと周辺機器を接続するために生まれたUSB規格は、現在では携帯電話やタブレットにも広く普及し、デジタル機器用インターフェースインターフェースのデファクト・スタンダードとなっています。 USBが支持されたのは統一的なインターフェースによって高速通信が可能になり、配線の簡素化やデバイスの小型化・低価格化にも有利だったことが理由です。 そしてこれらの利点は計測器にとっても有益だったため、近年はこれまで主流であったGPIBに加えてUSBインターフェースを搭載する計測器が増えているだけでなく、USBインターフェースしか持たない「USB計測器」というカテゴリの製品も拡大しています。 しかし、計測器分野でのUSB応用にはメリットだけでなく、レイテンシ(遅延)の増加や互換性への懸念という注意事項があることも知っておきましょう。
USBの正式名称は Universal Serial Bus (ユニバーサル・シリアル・バス)といいますが、実はこの名前自体にUSBが普及した理由を知る手がかりがあります。PCと周辺機器との接続がUSB以前と以後でどのように変わったかのイメージ(図1)と合わせて見ていきましょう。
(図1 USB 以前/以後)
USB登場以前は、モデムにはRS232C、スキャナやHDDにはSCSI、キーボード(KB)やマウスにはPS/2のように「機器の種類ごとに異なるコネクタ、ケーブル」が必要で、 しかもそれらは現在のUSBコネクタよりもずっと大きなものでした。当然、PC側にはそれぞれ異なるポートを搭載しなければならず、コストダウンと小型化を妨げる要因になっていました。
それらを一つにまとめられる「統一的」インターフェースであるというのがUniversalの意味です。 これによってPC側は小さなUSBポートを最低一つだけ搭載すれば済むようになりました。
2番目のSerial(シリアル)というのは「直列」を意味する単語で、「並列」を意味するパラレルの対義語です。 例えば8ビットのデータを送る際に1本の信号線を使って1ビットずつ送るしくみをシリアル通信、8本の信号線を使って8ビットを同時に送るしくみをパラレル通信と言います。 USBがシリアルであることで得られるメリットとしては、「高速化」と「ケーブル簡素化」の2点があります。
一見、複数のデータを一度に送るパラレル通信の方が速そうですが、なぜシリアル通信で高速化になるのでしょうか? 実はおおむね1990年代前半までのコンピュータの動作クロックが低い時代には、高速性が必要な用途にはパラレル通信が使われていました。 しかしパラレル通信は原理的にクロック数を上げにくく通信速度向上が頭打ちになったのに対して、シリアル通信は高クロック化に追随しやすい性質があり、2000年前後にパラレルを上回る通信速度を実現するようになりました。 これに伴いHDDやプリンタ、スキャナなどの高速性が必要なインターフェースもシリアル通信へと切り替わり、USBも幾度かの規格改定を経て飛躍的な高速化を果たしたという経緯があります。
「ケーブル簡素化」とは、パラレル通信では一般に8本または16本などの多数の信号線を必要としたのに対して、 シリアル通信では送受信それぞれ1本ずつで済むため、ケーブルが細く扱いやすいものになったということです。
3番目のBus(バス)というのは1系統の信号線を複数の機器で共有する通信方式を言います。 図1の「USB以前」では周辺機器をPCに直結する形なのに対して、「USB以後」を見るとUSBハブからPCまでは1本のケーブルにまとまっています。 このように同じルートを通る配線を1本にまとめられるため全体として配線を簡略化できるのがバス型接続のメリットです。 また、USBではある程度の電力供給も可能なため、小電力機器については機器側の電源コードを省略できるのも配線簡略化に寄与しています。
このように多数のメリットがあるため広く普及したUSBですが、決して万能ではありません。 計測・制御用途にUSBを使う上では、いくつか注意しておくべきポイントがあります。
計測器とPCを接続するインターフェースにはGPIB, RS232C, LAN, PXI, LXI などさまざまなものがありますが、 主に小規模なシステムでの簡易な接続に用いられてきたのがGPIBとRS232C、大規模なあるいは計測条件の厳しいシステムで専用モジュールを使用したコンピュータ統合型の高度な計測システムを作るために使われるのがPXIやLXIです。 GPIBは計測器の外部インターフェースとして長年デファクト・スタンダードとなってきましたが、近年その代替となりつつあるのがUSBです。
(図2 USBとGIPBの比較)
古い規格であるGPIBよりもはるかに高速でコストも低く最大接続数も大きいのがUSBインターフェースのメリットです。 一方、レイテンシの大きさがデメリットになる場合があり、この問題は特に近年拡大しつつある「USB計測器」というカテゴリでは注意が必要です。
(図3 計測器とUSBの動作モデルイメージ)
図3は「USB インターフェースを持つ計測器」と「USB計測器」の動作モデルを比較したものです。 「USB インターフェース を持つ計測器」の「コントローラ」のブロックが「USB計測器」ではPC側に移動していることに注意してください。 計測器は細かく見ると「計測条件の設定を行うUI」「データを記録するロガー」「対象を制御する制御ロジック」などいくつかの機能を持っています。 その機能を実装したものが「コントローラ」ですが、「USB計測器」はこのコントローラをPC側のアプリケーションにしてしまい、計測器本体は信号のA/D・D/A変換とUSB インターフェースだけを担うように特化した構造です。 これによって計測器本体を非常にシンプルな構造で小型・低コストにできるだけでなく、PCの大画面を生かした使いやすいUIを組めるというメリットがあります。
一方で、USB計測器では計測対象で信号が変化してからコントローラがそれを検知するまでの間にUSB インターフェースを何段も通るためレイテンシが大きくなります。 単にデータを記録する場合には問題になりませんが、制御を同時に行う場合でタイミング条件が厳しいときにはこれがボトルネックになる場合があります。 一般にGPIBよりもUSBの方が、レイテンシが大きくかつ、USBハブを介して中継すると、その分レイテンシも増大するため注意しなければなりません。
また、USBでは一つのポートで最大127台の機器を同時接続可能ですが、通信帯域はその全てで共有します。 個々の機器は高速であったとしても、同時に使おうとしたときにはその分スループットが落ちることも考慮しておかなければなりません。
また、USBは2017年にも新規格 USB3.2がリリースされるなど、現在も更新が続いている規格であり、実装の細部の解釈の違いなどにより相性問題も出やすい傾向があります。 数年で買い換えられる民生用機器と違い、長く利用される業務用計測器では互換性・信頼性が重視されるため、性能向上をともなう規格更新であっても必ずしも歓迎されるとは限りません。
このような注意点はありますが、基本的にはUSBは便利な規格であり、今後も計測器に大きな進化をもたらすことでしょう。