実験用直流電源にはユニークで便利な機能を搭載した製品もあります。
適切な製品を選ぶことで費用を抑えながら効率的に実験を進めることができます。
同じ電力を供給できる電源でも、図1のように広い電圧・電流設定の組み合わせが可能な「3~4倍比」の電力型あります。これらはより汎用性が高い電源といえるでしょう。
図1 多様に使える電源
オペアンプやアンプのようにプラスマイナスの両方の電源が必要なケースがあります。
もちろん、それに対応した電源はありますが電源容量があまり大きくはありません。
そこで単電源のマイナス側端子はグラウンドから浮いていることを使って、2台の電源を図2のように接続することで電源容量の大きいプラスマイナスの電源が作れます。
リモート機能を持つ電源であれば一つをマスター、その他をスレーブに設定することで、トラッキングが可能になります。
図2 プラスマイナスの電源動作
電池を直列に接続する場合と同じく、図3のように単電源を直列に接続することで電圧を高めることができます
直列接続可能な台数は利用する製品毎に異なるので、マニュアル等で確認しましょう。
図3 電源の直列接続
もちろん図4のように3台以上の電源を並列接続することも可能です。直列接続と同様に並列接続が可能な台数も製品毎に決まっています。
図4 電源の並列接続
開発・設計現場ではさまざまな電圧・電流容量の電源が必要です。それぞれの用途専用に多くの種類の電源を揃えておくことは費用がかかります。
また大容量の電源はサイズも大きく、使用しない時は邪魔になるかもしれません。
大容量の電源は、直列/並列機能を活用し、足りない分はレンタルを活用することで解決することができます。
電負荷に供給する電流が大きくなると、配線の持つ直流抵抗(DCR)により負荷にかかる電圧が設定値より低下します。
これを防止するには、図5のように負荷に設定電圧をかけるためのセンス入力の設定が必要です。
場合により発振止めのコンデンサが必要になることがあるので製品マニュアル等に従いましょう。
ただし、DCRの影響を軽減できるからと言っても、電源と負荷を接続するケーブルを長くすることはお勧めできません。
ケーブルは長さに比例した寄生インダクタンスを持ちます。定常電流では悪さをしませんが、電流が大きく変化すると逆起電力を発生し、機器に影響を及ぼすことがあります。
図5 センシングを使い正確に電圧をかける(菊水電子工業 PASユーザマニュアルより作成)
回路が複数の直流電源を使う場合、電源が立ち上がる順番があります。
図6のように電源をリモートコントロールすることで、この順番と時間差を確認する事が出来ます。
図6 電源シーケンスのマージン試験
アナログ・ロジック混在回路の試験ではオペアンプなどのアナログ回路用にプラスマイナス電源、ロジック用に3.3V電源などが必要です。
何台もの電源を用意するのは面倒ですしスペースも必要です。
そこで1台で、オペアンプ用のプラスマイナス電源としてトラッキングのできるものなど、多くの種類の電源機能を持ち、用途にあわせた利用ができる電源もあります。
図7の電源はプラスマイナス18Vまでのトラッキングの可能な電源、0~+8Vまでの電源、0~-6Vまでの電源がワンセットになっています。
図7 便利な多出力直流電源
電源にはプラス方向を出力するだけでなく、図8のようにマイナス方向を出力できる製品もあります。
図8 プラスマイナス方向に出力できる電源
電源は負荷に電流を供給するだけではありません。負荷からの逆起電力を吸収する役目が必要なケースもあります。
図9は2象限の電源です。電流の出力、吸い込みが可能です。電源と電子負荷が組み合わさったような動作です。
図9 電流を吸い込める2象限の電源
また負荷が容量負荷、誘導負荷では電圧・電流の位相が大きく変わることがあります。このため図10のようにすべての象限に対応した電源も市販されています。商品名はいろいろありますがバイポーラ電源とも呼ばれます。
図10 電流・電圧の位相差に関係なく扱えるバイポーラ電源
バイポーラ電源は直流から周波数帯域まで増幅、吸収ができる増幅器とも考えることができます。
これによりファンクション・ジェネレータなどの信号発生器の出力が足りない場合のアンプとしても使われます。
ファンクション・ジェネレータは基本的に電圧出力であり、大きな電力は取り出せませんが、バイポーラ電源と組み合わせることで用途が広がります。
耐圧の高いコンデンサや電流容量の大きなコイル、大容量トランスなどの特性試験には欠かせない存在です。
図11に代表的な製品のポジションを示します。
扱える周波数と最大出力はトレードオフになります。
周波数により最大電圧/電流は変化することがありますので、詳しくは製品のデータシートで確認します。
図11 代表的なバイポーラ電源
一般に電源は理想電源に近い方がベターですが、時には汚い、それも任意に汚い電源が欲しいことがあります。
例えばバッテリーが弱った状態、外部からノイズが飛び込んだ場合など。
そのため「再現性のある汚い電源」と言えるようなテスト用電源が市販されています。
図12のように複数の電源モジュールを持ち、それぞれは独立稼働も連携稼働も可能です。
各電源はステップ、パルス波、サイン波などで変調することが可能、さらに任意の波形、たとえば事前にオシロスコープで取り込んだノイズの波形で変調することができます。
複数の電源の立ち上りをコントロールして電源シーケンスの試験も可能です。
図12 電源アナライザのイメージ
供給する電圧・電流はモニタされているので、周波数範囲は制限されますが、他の計測器を併用せずに動作を検証することも可能です。
このように直流電源といっても容量だけでなく方式が多数あり、それぞれできる事は多岐にわたっています。
常に使用する機器でない場合もあると思いますので、レンタルを有効利用し、適切な電源を選ぶことで費用を抑えながら実験効率を上げることが見込めます。
特に大容量の電源は組み合わせて使うことを視野に購入とレンタルを活用することで予算を有効に使えます。