実験では直流電源をよく使います。
自由に電圧を設定できる便利なツールですが、使用目的によっては電源の形式を選ばないとトラブルを起こす可能性があります。
機能的には複数の電源を使って容量を増やす、また電圧をダイナミックに変化できる、ノイズを乗せることができる製品もあります。
適切な製品を選べば費用を抑えながら効率的に実験を進めることができます。
理想の直流電源は図1のように内部抵抗がゼロ、つまりいくらでも電流を取り出せます。
図1 理想の直流電源
そしてノイズもゼロ、内部抵抗がゼロですから負荷が変動しても出力電圧は全く変わりません。
図2 理想電源の動作
もちろん、現実の電源はいろいろな制約があり、それぞれに長所・短所があります。
長所を活かせる製品選択が求められます。
理想に近い直流電源としては電池、特に大容量の電源があげられます。
ノイズはゼロではありませんが僅少です。
現実の電源を簡単に書くと図3のようになります。
電池であっても完全に大地から浮いているわけではなく、交流的には大地と浮遊容量で繋がっています。
(大地と人間の間には浮遊容量があります)
図3 実際の電源に含まれるノイズ
大地との間に生じるノイズ、電源に直列で生じるノイズ、内部抵抗などがあります。
内部抵抗も厳密に言えば容量成分があり、リチウムイオン電池の充放電テストでは図4のモデルがよく使われます。
図4 よく使われるリチウムイオン電池のモデル
電源の選択にあたり一番に注意すべきは電源の動作形式です。
多くの製品に採用されているスイッチング式では、図5のように商用電源を直接整流し直流を作ります。
この直流をトランジスタで高速スイッチングし、トランスで昇圧/降圧し2次側にパルス波を整流します。
トランジスタはオン/オフ動作なので内部で発生する損失は少なく、またトランスは周波数が高ければ小型化が可能になります。
結果として電源の小型軽量化ができます。
家庭で使われるACアダプタも現在ではほぼスイッチング式が主流となっています。
図5 スイッチング式直流電源の構造
もう一つの形式がシリーズレギュレータ式で、図6のように商用電源をトランスで昇圧/降圧後に整流します。この際、トランス・平滑用コンデンサが大きく、重くなります。
回路に直列にトランジスタが挿入され、出力電圧を制御、ノイズを減らす安定化を行います。
トランジスタはリニア領域で動作するため発熱し、損失が大きくなります。
図6 シリーズレギュレータ式直流電源の構造
表1で菊水電子工業のほぼ同クラスの製品を比較します。
スイッチング式は効率が高く、重量は1/10以下、価格も安くなります。
この点でスイッチング式は圧倒的に優位です。
一方のレギュレータ式は電気的性能が優れています。 特にノイズは圧倒的に少ないです。
表1 スイッチング式とレギュレータ式の比較
スイッチング式のノイズ(リップル)は5Hz~1MHzの周波数に制限して測定した場合、実効値で5mVrms、20MHzに制限ではピークピークで50mVpp。
一方のレギュレータ式のノイズは0.5mVrmsです。
イメージ図を描くと図7になります。
図7 電源に含まれるノイズの比較
スイッチングにより発生する高周波ノイズはフィルタで対策されているはずですが、高周波ノイズをさらに低減させることは困難と思われます。
また電源本体から空間に放出されるノイズもあります。
このようにノイズの点から、スイッチング式電源をアナログ回路に使用する場合は考慮が必要です。
アナログセンサーの周辺回路の実験では信号に不要なノイズが乗ってしまう懸念があり、その場合はレギュレータ式を選ぶ方が賢明でしょう。
一方、ロジック回路やインバータなどの電源としては大きな問題にはならないと思われます。
図8 スイッチング式電源はアナログ回路には不向きなことがある
計測器用の電源ではありませんが、身近なスイッチング式電源のノイズを、ノイズが確認しやすい周波数帯域400MHzのアナログ・オシロスコープで観測した例になります。
白いサイコロ状の充電器です。図9のようにスパイク状のスイッチング・ノイズが観測できますが10mVpp以下に収まっています。
図9 iPhoneの充電器
この充電器では商用電源周波数に由来する100Hzのノイズ成分が確認できます。さらにスイッチング由来のノイズも20mVpp程確認できます。
図10 ブランドAのノイズ
図11では300mVppものスイッチング・ノイズが確認できます。
図11 ブランドBのノイズ
いろいろな周波数成分が混在しているようで、USB測定器にてシングル取り込みを行った結果が図12です。
不規則な周期でスパイクが確認できます。スイッチング周波数を変化させ、ノイズが特定周波数にならないようにしていると思われます。
図12 シングル取り込みでの波形
このように直流電源の形式により動作、特にノイズは大きく変わります。
必要な電圧・電流出力だけでなく形式にも注意して製品を選ぶことが大切です。
次回はいろいろな機能の電源をご紹介します。