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測定器 Insight

汎用機と専用機は何が違うのか?

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 汎用機と専用機は何が違うのか?

あるテーマを測定しようとするときに、デジタル・マルチメータやオシロスコープなどの汎用測定器を使うのか、専用測定器を使った方が良いのか迷うことがあるでしょう。
求める測定内容や必要な確度によりどちらを選ぶのか判断しなければなりません。
汎用機と専用機、その差と使い分けのヒントを解説します。

直流電力を測るには

直流電力は図1のように
電力=電圧×電流= V×I
です。
変化しない直流電圧&電流の直流電力を求めるには、負荷に加わる電圧と電流をデジタル・マルチメータなどで測定、掛け算すればよいわけです。

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図1 直流の電力

図2は定常負荷で回転するインバータ&モータのシステムの消費電力を測る方法です。
電圧値、電流値を同時にPCに取り込み、掛け算により電力は求まります。

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図2 デジタル・マルチメータを使った電力測定

上級のデジタル・マルチメータでは桁数とのトレードオフになりますが、1秒間に数100回のデータの更新が可能、ゆっくりした変化であれば電力変化の記録も可能になります。

デジタル・マルチメータは精度が高い?

桁数が多く、高い確度のデジタル・マルチメータですが、一概にそうとはいえない場合もあります。
確かにデジタル・マルチメータに加わる電圧や流れ込む電流は高い確度で測れます。
しかしデジタル・マルチメータが回路に与える影響、つまり入力抵抗には注意が必要です。
デジタル・マルチメータで電圧を測定する際の入力抵抗は一般には十分に高いのですが、インピーダンスの高い回路の場合に電圧分割が発生、また電流の測定では内部のシャント抵抗が直列に入ることで電流が挿入前より大きく減少する恐れがあります。

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図3 デジタル・マルチメータでは入力抵抗を考慮する

測定に当たってはデジタル・マルチメータのマニュアルで入力抵抗を確認する必要があります。特に低い電流測定での内部抵抗(シャント抵抗)は意外に大きくなります。
製品によっては負担電圧と記載されています。
負担電圧を使用する電流レンジで割れば抵抗は求まります。

交流電力を測るには

デジタル・マルチメータでは交流電圧、交流電流を測定できますが、測定できる周波数上限は高くありません。上級機でも可聴周波数程度です。
また、中級機以下では歪波の実効値測定ができない機種もあります(平均値になる)。

交流では負荷が抵抗負荷でない限り図4のように電圧と電流の間には位相差(θ)が生じ、実際に消費される電力は電圧、電流を掛け算した値(皮相電力)にCOSθを掛けた値になります。
別々にデジタル・マルチメータで測定しても位相差は分からないので電圧・電流を波形として扱う電力測定専用機が必要です。

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図4 交流電力は電圧・電流の位相差が関係する

アナログの時代の針式電力計は電圧、電流それぞれに巻線を持っていたそうですが、今ではデジタル式電力計になりました。

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図5 電力計の構造

電力計の中身は図5のように2チャンネル・オシロスコープと似ています。
負荷の両端電圧と流れる電流をシャント抵抗を使って同時に測定します。
グラウンドから浮いた負荷にも接続できるように絶縁入力です。
取り込んだ電圧・電流波形を掛け算し電力波形を求め、1周期、ないし数周期を切り出して時間に正規化した電力値を記録します。
もちろん直流/交流に対応しており、電力変化も記録されます。

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写真1 横河計測の電力計

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写真2 日置電機の電力計

パワー・エレクトロニクスのモータなどで使われる三相電力の測定、理論的には対称の三相では二相を測れば良いのですが、現実の製品では完全に対称とは言えません。
厳密な測定を行うには三つの電圧、電流を同時に測定します。
さらにモーターを駆動するインバータへの入力電力を同時に記録する必要があります。
そのため同時に複数個所の電力を測定できる電力計が使われます。

この測定、オシロスコープでもできそうですが、やはりいくつかのデメリットがあります。

オシロスコープは

  • 電圧確度が低い
  • ほとんどのオシロスコープは絶縁入力ではないため、高電圧差動プローブが必要
  • 電流測定には電流プローブ、ないしはシャント抵抗と高電圧差動プローブが必要
  • 一つの電力測定で電圧・電流のために2チャンネルが必要、三相電力測定では6チャンネル必要になる

また電力を求める計算、その記録も必要です。
やはり専用機の優位は揺るぎません。

ただしモータ起動時や急激な負荷変動時の挙動にはスピード的に対応が困難なために、オシロスコープをベースとした電力解析システムも製品化されています。

電源インピーダンスを測る

装置の動作の確認、特に安定度については、電源回路が正しく動いているかどうかの確認が大切です。

同じ電源回路をいくつかの製品で使用した時、特定の製品だけ動作が不安定になることがあります。
この時に注目するポイントが電源インピーダンスです。

図6のように電源と負荷の関係を考えると、電源回路には出力インピーダンスがあり、負荷の電源ライン、グラウンドラインにもインピーダンスがあります。

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図6 電源と負荷の間に存在する目に見えないインピーダンス

この二つは分けて考えねばなりませんが、一般に電源側は低周波で、回路側は高周波で対策します。

電源のインピーダンスは、直流でも交流でもゼロではありません。

直流インピーダンスは主に供給できる電流、つまり電源容量で決まりますが、交流インピーダンスは平滑用コンデンサと回路の両方に依存します。
電源は直流だけでなく交流電流も供給するため交流インピーダンスも考慮しなければなりません。

電源の出力インピーダンスを「周波数vsインピーダンス」で求めるには図7の手法を用います。
交流電流を流す代わりに信号発生器を使います。
信号発生器の発振周波数を変えながら、変化する交流電流を電流検出用抵抗Riで検出、さらに出力電圧の変化分Vxを測ります。
ここで問題になるのが、Vmの測定と信号発生器による注入をグラウンドから浮かさないといけない点です。
VmとVxからその周波数でのインピーダンスが求まります。

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図7 電源インピーダンスの測定原理(NF回路設計ブロックの資料を参考に作成)

専用機として周波数特性分析器(FRA Frequency Response Analyzer)と呼ばれる測定器があります。
絶縁入出力を備えており、また高い分解能のA/D変換器でデータ取り込みができます。

汎用機であるオシロスコープにはファンクション・ジェネレータを内蔵する製品があり、これを使って同様の測定を行うオプションがあります。
オシロスコープのグラウンド、信号発生器のグラウンドは絶縁ではないため、信号発生器の出力にトランスを装着して絶縁します。
Riの両端電圧Vmは2本のプローブを使い引き算を行う疑似差動で対応します。

原理的には可能な測定ですが、確度については懸念がないわけではありません。
一つ目は絶縁のためのトランスには周波数特性があり、特に低周波では減衰する点です。
二つ目は疑似差動で得られる電圧差が小さいため、電圧分解能があまり得られないからです。
この点は小電圧向けの差動プローブを使う方法がありますが、差動プローブには耐圧の制限があります。

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写真3 NF回路設計ブロックのFRA

専用機のFRAでは入出力が絶縁構成のため上記の制限がなくなり高確度の測定が行えます。
FRAはオシロスコープより高価格かもしれません。
使用頻度が高くない場合はレンタルの利用もご検討ください。

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