電気信号を伝える時、音声信号や低周波数信号の場合と高周波信号の場合では回路のインピーダンスへの配慮は全然違います。これは電気波形の反射の影響が信号の周波数(成分)と配線の長さに関係するためです。
測定で信号をピックアップ・分岐したいとき、高周波測定のための配慮が必要になります。
ファンクション・ジェネレータなどのデータシートを見ると終端の形で出力電圧が決まっています。
例えば横河計測の製品では
とあります。
開放というのは高インピーダンスの機器や負荷を接続するケースの事です。
図1のように同軸ケーブル入口から見たインピーダンスが50Ωなので抵抗分割の考え方では信号振幅は1/2になります。
波としての考え方では信号が進み出力端まで達するとそこが開放、インピーダンス無限大なので全反射します。それが自身の進行波に重なるため振幅は「進行波+反射波」で2倍、結局元に戻ります。
信号源に戻った反射波は同軸ケーブルと出力インピーダンス間で整合がとれているので反射することなく、インピーダンスがゼロの電圧源に吸収されます。
これがバック・ターミネーションです。
ということで見かけ上、信号源の電圧振幅そのままが出力に現れます。
反射を無視して集中定数で考えても開放負荷なので信号振幅はそのままになると考えることもできます。
しかし実際には理想通りには行かず、周波数を上げていくと多少波形形状は劣化します。
ファンクション・ジェネレータから高い周波数の信号を出力する場合、エンド・ターミネーションが波形品質では有利です。
バック・ターミネーションは負荷インピーダンスが高いので電力消費は少なくなります。
良い例がCMOSです。
CMOSは入力インピーダンスが極めて高いため反射を抑えるバック・ターミネーションの調整を行います。
繰り返しになりますが、低周波のアプリケーションでは配線長があっても波長が長いため時間差は問題になりません。伝送路としては考えずに集中定数として扱えます。
終端でもインピーダンス整合を取る方法をエンド・ターミネーションと言います。
全て整合がとれているため反射は全く起こりません。波形品質は保たれるため高速シリアルラインで使われます。その一方で消費電流は大きくなります。
例えばノートPCのヒンジなどで使われるLVDSなどの高速ラインではいくつもの終端方法が使われています。
図2 完全に整合をとる方法
信号発生器とオシロスコープを使って伝搬遅延と反射の観測をしてみます。
本来であれば立上り時間の速いジェネレータと周波数帯域の広いオシロスコープを使うのが最適ですが、今回の実験ではワンボード計測器を使用しました。使用したワンボード計測器の周波数帯域が30MHzと低いため、反射波が確認できるよう伝送路には17mの同軸ケーブルを使用しました。
この実験を立上り時間1ns程度のパルス・ジェネレータと2.5GHz帯域クラスのオシロスコープを使えば10cmの伝送路でも反射波を確認できるはずです。
図3のように同軸ケーブルを伝わる信号の途中にオシロスコープ(ハイ・インピーダンス:1MΩ入力)を挿入し、進行波と反射波を観測します。ハイ・インピーダンスなのでそのポイントの状態を確認できます。
負荷抵抗を変えると反射波が変わり、同軸ケーブルを往復する時間だけ遅れてオシロスコープに到達します。
図3 進行波と反射波をオシロスコープで観測する実験
図4が実験接続です。
図4 実験に使用したワンボード計測器の設定
終端抵抗が50Ωの場合(図5)
反射は起こらないので、進行波だけが確認できます。
終端には歪みのない波形が伝わります。
図5 50Ωで終端
終端を開放した場合(図6)
全反射した反射波が戻って来たのを確認できます。
二つのパルス間の時間が往復時間になります。
図6 終端部を開放
終端をショートした場合(図7)
ショートしたので信号は消えるように思いますが、逆反射して来る反射波が確認できます。
図7 終端部をショート
12Ωで終端した場合(図8)
終端抵抗が50Ω>12Ωなので逆反射したレベルの下がった反射波が確認できます。
図8 12Ω(<50Ω)で終端
100Ωで終端した場合(図9)
終端抵抗が50Ω<100Ωなのでプラスに反射したレベルの下がった反射波が確認できます。
図9 100Ω(>50Ω)で終端
この手法で伝送路のインピーダンスの状態、例えば伝送ケーブル⇒コネクタ⇒プリント基板上のパターンのインピーダンスの連続性を測る計測器があります。
それはTDR(Time Domain Reflectometry)と呼ばれる計測器で、超高速のパルス・ジェネレータが内蔵された数10GHzの周波数帯域を実現できるサンプリング・オシロスコープです。
最近では周波数軸で測る計測器であるネットワーク・アナライザと逆FFTの手法を使って反射を確認できるオプションも用意されています。
写真1 TDR測定の可能な計測器の例
なお光ファイバーの試験でも反射を利用したOTDRという計測器が使われます。
写真2 OTDR計測器の例
電子機器では消費電力を抑えることが重要です。そのためCMOSが多用されるのはご存知の通りです。
CMOSは入力インピーダンスが極めて高いため信号電流が小さく、結果として消費電力を抑えることができます。
しかし信号伝送の観点からすると問題があります。
受信部の入力インピーダンスが高いために全反射が起こり送信部に戻ります。
CMOSデバイスの出力インピーダンスは低いのでここで逆反射を起こし、再び受信部に進み、結果として受信波形が大きく歪みます。
図10を見てもインピーダンスによる反射の問題がありそうだなという気がすると思います。
図10 低出力インピーダンス/高入力インピーダンスのCMOS
CMOSをドライバ/レシーバとして使用するなど、線路長がある場合の影響を解説します。
図11のように送信部(ドライバ)の出力インピーダンスは低く、受信部(レシーバ)の入力インピーダンスは非常に高くなります。
プリント基板のパターンのインピーダンスはパターンの幅、基板の厚さなどに依存しますが、概ね伝送インピーダンスは50Ω前後になることが多いようです。
またケーブルを使用する場合は50Ωを用いると思います。
図11のように受信部でプラス方向の反射が、送信部ではマイナス方向の反射が起こります。
図11 CMOSドライバ/レシーバで起こる問題
LTSpiceにてシミュレーションしてみました。
クロック 10MHz 立上り/立下り時間 0.1ns
ドライバ 出力抵抗 11Ω 出力容量 5pF
伝送路の伝搬遅延 1ns
レシーバ 入力抵抗 5MΩ 入力容量 50pF
を想定しバック・ターミネーション抵抗を0.1Ω(無しに相当)、10Ω、22Ω、47Ωと変えた場合のレシーバの入力波形を調べました。
図12のように波形は大きく変化します。
抵抗が無い場合(0.1Ω)ドライバの出力抵抗11Ωでは大きなリンギングが生じます。
下に振れた部分ではロジック的なエラーを起こす懸念があります。
逆に47Ωでは立上りが鈍ってしまいます。
最適な抵抗はデバイス、パターン設計で変化するので十分に検討する必要があるでしょう。
図12 CMOSにおける反射の検証
なおオシロスコープで波形を観測する場合はプローブの入力容量も考慮しなければいけません。
このように高周波領域では信号の伝送には配慮が必要です。
さらに信号の配分や分配を行う時には、安易にTコネクタなどを使うことは問題がでてきます。