私たちの身の回りにはいろいろなケーブル、電線があります。
電気製品から生えている電源ケーブルには電力会社が供給する100Vの交流が流れています。
電力が大きいドライヤーや電子レンジはやや太いケーブルです。
一方イヤフォンの電力は小さくケーブルは細いもので十分です。
USBケーブルはやや太いですが、中には高速信号の伝送特性を考慮した細いケーブルが複数通っています。
計測器では同軸ケーブルが使われます。
この同軸ケーブル、実はオーディオ製品の接続で使うシールド線と構造は似ていますが、伝送インピーダンス、伝送ロス、寸法などがJISなどの公的な規格によって細かく定められています。
また同軸ケーブルは外見からは見分けにくい50Ωと75Ωの2種類が使われます。
これらの内容を含め電気を通すためのケーブルにインピーダンスがあるとはどういう意味なのかを考えてみます。
世間でも「マッチング」という言葉は使われていますが電気の世界では「マッチングをとる」とはインピーダンス・マッチング、日本語ではインピーダンス整合のことです。
ではインピーダンスとは何でしょうか?
「交流回路において電流が流れやすいか、流れにくいか」ということになります。
そしてインピーダンス・マッチングは出力側のインピーダンスと負荷側のインピーダンスを合わせることを意味します。
内部抵抗rの電池(E)に負荷抵抗(RL)を繋いだ時、消費される電力が最大になる条件を考えてみましょう。
電気工学では以下のように学びます。
図1のように接続すると流れる電流Iは
になります。これからRLで消費される電流Pは
になります。
図1 負荷抵抗で消費される電力を計算
消費電力PがRLによりどのように変化するか調べるためにPをRLで微分します。
これからr=RLの時に消費電力Pは最大になります。
負荷抵抗で消費される電力とバッテリー内部で消費される電力は同じなので効率は50%になります。
そのためパワー・エレクトロニクスの分野では効率100%を目指してスイッチング技術の性能向上が続いているのです。
インピーダンスが高い回路には
という傾向があります。
図2はオーディオ機器での電圧増幅の例です。
図2 インピーダンス整合を行わない回路
信号の送り出し側は出力インピーダンスが低く、受け取り側は高い。
これによ送り出し側の電力は小さくて済みます。
低周波回路ではよく使われる構成です。
後程解説するインピーダンス不整合による反射は起こってはいますが、低周波の場合、配線の長さは信号の波長より極めて短いので無視できます。
回路は集中定数として扱え、ノイズ対策用シールド線は容量を持ったコンデンサとみなせます。
インピーダンスが低い回路は高周波で有利です。
という傾向があります。
図3のように1kHzではほとんど位相遅れはありませんが、100MHzでは180°、つまり位相は反転します。
図3 高周波では信号の伝搬時間が顕著になる
部品と部品を繋ぐ線自体が信号を伝える部品と考えます。
図4は計測器で多用される50Ω系の接続です。
図4 反射がなく正確に波形を伝える接続
伝送路のインピーダンス(Z0)と負荷のインピーダンス(ZL)が同じならば反射は一切なく、信号は負荷に伝わります。
実際の計測器で考えると図5のようにジェネレーターの出力インピーダンスは50Ω、同軸ケーブルは50Ω、受信部の入力インピーダンスも50Ωということになります。
図5 50Ω系計測器の接続
負荷に加わる電圧は出力源の1/2になります。
ファンクション・ジェネレータなどでは最大出力電圧がオープン負荷だと20V、50Ω負荷だと10Vというのはこの意味になります。
シールド線と同軸ケーブルの構造はよく似ています。
シールド線は主に低周波でのノイズ防止のために使われます。
一方、同軸ケーブルは整合をとる高周波信号の接続に使われます。
写真1は1.5D-2Vという規格の50Ω同軸ケーブルです。
写真1 同軸ケーブル 1.5D-2V
写真1、図6のように内部導体(芯線)と絶縁体、網線のシールド、外被で構成されています。
図6 同軸ケーブルの構造
オーディオ信号などの低周波信号の接続に使われるシールド線と構造は似ていますが、同軸ケーブルでは絶縁体の材質、各部の寸法で伝送インピーダンスが決められています。
計測器で使われる同軸ケーブルは50Ωが多く、アンテナ系や映像信号系には75Ωのケーブルが使われますが、使い分けなければいけません。
ではテスターを使って50Ωの同軸ケーブルのインピーダンスを測ってみます。
芯線―芯線では・・・・・0Ω、導体なので当然です。
芯線―シールドでは・・・・・無限大、誘電体として使われているポリエチレンは絶縁体です。
では50Ωとは何か、結論は損失の無い場合、インピーダンスは以下の式になります。
写真2 LCRメータ 100kHzで測定
測定周波数は100kHzです。
L=0.385μH、C=116pF
計算すると
になりました。使用したLCRメータでは測定可能な最高周波数が最高100kHzでしたので、分布定数回路が適用されるより高い周波数では50Ωになると思われます。
今から90年程さかのぼった1930年代にレーダーなどの軍事技術が進み、高周波信号を伝える同軸線路を当時使われていたケーブルの外径寸法を維持したまま、そして空気絶縁(たぶん金属パイプ)では取り回しが悪いので曲げることができるポリエステルを使った場合に損失が最小になるインピーダンスを求めると約50Ωとなります、50Ωときりが良いということで決まったようです。
電気は波として伝わります。低周波では速度、波長を意識することはありませんが、波としての速度は線路の材料によりますが概ね光速の7割位です。
つまり信号が1mの同軸ケーブルを伝わるためには約5nsの時間がかかります。
これは波として伝わる速度で、電線の中の電子の動く速度は非常に遅く、毎秒数mmと言われています。
もし無限の長さの伝送路があったとしてテスターを接続してインピーダンス(抵抗値)を測るとすると図7のように測定電流が流れて50Ωになると想像できます。
図7 同軸ケーブルのインピーダンスをテスターで測る
また別の考え方で、無限の長さの伝送路にステップパルスを加えると、図8のように手前からどんどん充電されて電位が上がっていく、パルスが進行していく感じになります。
図8 ステップパルスで充電される様子
無限の同軸ケーブルはあり得ませんから有限長で考えます。
図9のように負荷抵抗が伝送路のインピーダンスと同じ場合、同軸ケーブル入口から見たインピーダンスはZ0になります。50Ω系なら直流でも交流でも常に50Ωです。
このため信号源の電圧は出力端で半分になります。
図9 インピーダンス整合と各ポイントの電圧
ところで電気の波はインピーダンスが変化すると反射が起きます。音は空気の圧力変化の波ですが、壁があると通過する波と反射する波があります。電気の場合も同じです。
また伝わるうちに波は減衰します。
この反射と減衰は高周波回路ではしっかりとコントロールしなければなりません。
後編で詳しく解説します。