構造ヘルスモニタリングが、道路やビルといった構造物の老朽化対策として注目を集めています。点検作業やメンテナンス作業の効率化に役立つ構造ヘルスモニタリングを実現しているのは、さまざまなセンシング技術です。
本記事では、構造ヘルスモニタリングの概要やメリットを紹介した上で、構造ヘルスモニタリングで活用されているセンシング技術について解説します。
構造ヘルスモニタリングとは、構造物に各種センサーを取り付けて振動などの物理量を測定し、その結果をデータ処理することで、構造物の状態を診断・予測する技術です。ここでいう構造物の具体例としては、道路・ビル・ダム・堤防・橋などが挙げられます。
従来、構造物の点検作業は人の手で行われていました。それに対して、構造ヘルスモニタリングには次のようなメリットがあります。
今後の日本では、高度経済成長期に整備された構造物が一斉に老朽化していくことが課題となっています。また、経年変化だけではなく、地震や台風といった自然災害による構造物へのダメージも深刻化している状況です。
構造物の安全性を確保して長く使い続けるためには、適切なタイミングで点検やメンテナンスをしなければなりません。しかし、少子高齢化に伴って人手不足が深刻化している状況下では、人の手による作業には限界があります。そこで、構造ヘルスモニタリングの導入による自動化・効率化が図られているのです。
高精度な構造ヘルスモニタリングを実現するためには、構造物への損傷の存在を検知した上で、損傷の位置や大きさ、種類を正確に特定しなければなりません。そのために、振動や応力、歪みを検知するセンサーが必要とされています。
構造ヘルスモニタリングでよく使われるセンサーは、次の二つです。
これらのセンサーは、使用環境に応じて使い分けられています。
例えば、光ファイバーセンサーには、1本の光ファイバーで複数箇所のセンシングができるという特長があります。また、センサー部分が電気を使わないため、電源工事が不要で厳しい環境下でも設置できるという特長もあります。これらの特長を生かして、道路や橋のような屋外でかつ長距離にわたってモニタリングをしたい場合には、光ファイバーセンサーがよく採用されています。
一方、加速度センサーは精密な電子部品であるため、基本的には屋外での設置には適しません。屋外への設置も想定した防水・防塵タイプの加速度センサーも存在しますが、通常はビルなどの建物内に設置されることが多くなっています。
構造ヘルスモニタリングを実現するためには、上述したセンシング技術だけでは不十分です。センシング技術以外にも、三つの要素技術が必要になります。
一つ目は、センサーから情報を取得するための通信技術です。構造ヘルスモニタリングは常時稼働が前提であることから、常に安定した通信環境が求められます。従来は、通信の安定性を保つために有線通信がよく使われていましたが、無線通信技術の発達と低コスト化によって、最近では無線通信を採用する事例が増えています。
二つ目は、センサーが取得した情報を蓄積・保管しておくデータベース技術です。多くの構造物をモニタリングする場合、センサーから得られるデータ量も膨大なものになりますが、そういったビッグデータを完全な状態で保管しておける環境を構築しなければなりません。また、データを活用しやすくするために、必要に応じて加工する技術も必要になります。
三つ目は、データを診断したり、見える化したりするためのアプリケーション技術です。構造物の状態を正確に診断するための解析方法や、将来の予測を正確に行う方法にはまだまだ改善の余地があります。実証実験によってノウハウが蓄積されたり、AI技術などが発達したりすることで、診断・予測の精度はこれから向上していくと期待されています。
センシング技術の発達やセンサーの小型化・低コスト化によって、構造ヘルスモニタリングは本格的な普及段階に移りつつあります。現時点では実際の運用例がまだ少なく、センサーの耐久性をはじめとする課題も残っていますが、徐々に解消されていくことでしょう。
また、構造ヘルスモニタリングは発電所や鉄道といった構造物以外の各種インフラや、製造業における設備保全・予知保全などにも幅広く応用できる技術でもあります。今後の技術開発に期待していきたいところです。