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時間軸計測器と周波数軸計測器(前編)

レンテックインサイト編集部

計測器にはデジタル・マルチメータや周波数カウンタなど、変化のない「値」を測るもの、もしくは変化はあってもゆっくりと変化する「値」を測るものがあります。
インピーダンス・アナライザのように周波数を変化させながら回路や部品の特性を測定するものもあります。
また、データ・レコーダやオシロスコープのように時間とともに変化する電圧や電流をはかるなどの時間軸計測器、そしてスペクトラム・アナライザやFFTアナライザなど周波数軸で測るものがあります。
時間軸計測器と周波数軸計測器(前編)では、時間軸と周波数軸の関係、そして電気の世界で使われるデシベルについてお話します。

人間にはいろいろな視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といったような、さまざまなセンサーがあります。そのうちの聴覚で感じ取られる「音」とは何でしょうか。

音(音波)は空気の圧力の波です。図1のように圧力の高低が波として耳の中の鼓膜に伝わり、奥にある蝸牛というカタツムリのような形をした器官にある有毛細胞を振動させます。有毛細胞は約12,000個あり、50Hzから20kHzまでの範囲で周波数を分担して電気信号に置き換えられます。

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図1 音が聞こえる仕組み

過去には、図2のように耳と同様の構造の周波数解析器がありました。リアルタイムで信号を解析して分解能の高い周波数スペクトラムを得るためには膨大な数のバンドパスフィルタが必要です。また周波数範囲を自由に変えられないので一般的ではないでしょう。何らかの軍事用解析器か昔の声紋モニタとして使われたかもしれません。

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図2 信号を直接周波数成分に分類する仕組み

時間波形と周波数成分の関係

データ・レコーダやオシロスコープは時間とともに変化する電圧などの確認、記録ができる計測器です。図3の上図はオシロスコープ等で見たサイン波です。ではサイン波を周波数軸で表現するとグラフはどうなるでしょう?図3下図のようにレベルに応じた縦線になります。これはサイン波にはその周波数成分しかないためです。

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図3 サイン波の波形表示と周波数軸での表示

ではパルス波ではどうなるでしょうか?デューティ比50%の方形波はフーリエ級数を思い出すと・・・

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基本周波数、振幅1/3で3倍の周波数、振幅1/5で5倍の周波数・・・と無限に分解できます。これをグラフにすると図4になります。こうすると方形波の別の顔が見えてきますね。

基本周波数成分を基本波、3倍の周波数成分を第3高調波、5倍を第5高調波と呼びます。現実のパルス波の立ち上り/立ち下り時間はゼロではなく有限なので、次数の高い高調波成分は減衰し、事実上なくなります。

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図4 方形波の周波数成分

パルスの周波数成分を観測してみる

ではオシロスコープを使って確認しましょう。
ここでは周波数帯域500MHzのオシロスコープを使って周波数10MHz、立ち上り時間4nsのパルスを取込み、オシロスコープのFFT(高速フーリエ変換)を使って周波数解析を行いました。FFTを使うと時間軸波形を周波数に展開してくれます。

500MHzのオシロスコープは、立ち上り時間3ns程度までのパルスをほぼ正確に再現できるため、4nsなら問題なく解析できます。

図5下側が周波数に展開した結果です。内蔵されているFFT(高速フーリエ変換)機能を使います。

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図5 立上り時間4nsの方形波の周波数成分

左端が0Hz(DC:直流)、中心周波数が250MHz、右端が500MHzになり、赤の破線でオシロスコープの周波数特性を書いてあります。左側1番目のピークが10MHzの基本波成分です。順に右側に第3高調波、第5高調波と続き、辛うじて第19高調波まで確認できます。

高調波成分の振幅が1/3、1/5より大きいと感じるとおもいます。
下のFFT表示の縦軸は対数表示、dBVです。1目盛が20dBなので1目盛り違うと10倍ないし1/10になります。通常のdB(デシベル)はご存知のように比であるため単位はありませんが、dBVは1Vを0dBとしています。

立ち上り時間が10nsのパルスでは図6のようになり、次数の高い高調波成分は大幅に低下していることが解りますね。

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図6 立上り時間10nsの方形波の周波数成分

このように信号の形状と周波数成分の間には密接な関係があります。
図7で時間軸と周波数軸の表現を3次元でイメージしてみました。

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図7 時間軸と周波数軸の関係

オシロスコープのFFTも活用できる

詳しくは後編で取り上げますが、周波数軸で測定する計測器には主に高周波アプリケーションで使うスペクトラム・アナライザと音声・振動領域で使われるFFTアナライザがあります。

オシロスコープは特定のアプリケーションに特化した計測器ではないため、周波数解析性能に限りがあるのは否めません。しかし周波数帯域が広いという特長により大雑把ですが広い範囲の周波数解析ができます。動作を不安定にするノイズの周波数成分を解析し原因を追究するなど、使い方次第で役に立ちます。プローブを使って回路の信号をピックアップすることが簡単なのもメリットの一つです。

スマホで体験できる周波数解析

ここで息抜きに、身近な事例をご紹介します。
スマートフォンにも「計測アプリ」もあります。このアプリはマイクで拾った音声の波形と周波数成分(FFT)を表示してくれます。このアプリはスマホのハードを使っていますから周波数範囲は音声信号になります。図8は音楽を取り込んだ例です。

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図8 スマホによる音声の解析

周波数分布を見ると何か気づきませんか?
周波数でレベルが高く、高い周波数では大きくレベルが下がっていることです。1kHzを基準とすると周波数が高くなるに従って周波数が2倍になると約1/4(-12dB)の割合でレベルが低下しています。逆に低音域(ベース)はレベルが大きく、瞬間的にはもっと高いレベルになります。実は音楽に限らず、自然の環境音も同じ傾向があります。

CD規格が踏襲され音をデジタル記録する規格は16ビットが主流で、1ビットあたり2倍(6dB)の分解能なので2×16=96dBが理論的ダイナミックレンジです。

人間が聞こえる最大の音量(戦闘機の離陸音)~最小の音量まで120dBと言われていますので、96dBあれば音楽録音では問題ないでしょう。

ところで最近はハイレゾが出てきました。規格はいろいろありますが、主流は24ビットです。

ハイレゾの理由・・・
信号振幅が極めて小さい10kHz以上では16ビット分解能では足りないのではないか?実際の分解能は数ビット、場合に依っては1、2ビットしかないのでは?

世間ではCDのサンプリング周波数が44.1kHz、再生周波数限度が20kHzだからダメという事がまかり通っていますが本当でしょうか?最近アナログであるLPレコードが盛り返しているそうです。

LPレコードではイコライザといって1kHzを基準に低音域を1/10に小さく、高音域では10倍に大きくして記録、再生時には逆の補正で元に戻しています。低音域から高音域まで、なるべく録音レベルを一定に保つ、賢い方法です。昔のエンジニアは記録する対象=音の特性を解っていたようです。

なお最新技術である高速シリアル信号の伝送では伝送による波形劣化に対応するために、パルス波形形状を変化させて伝送レートを向上させるイコライザの手法が使われています。それでは話を本題に戻しましょう。

いまさら聞けない基礎知識・・・デシベル(dB)

デシベルという言葉を使いましたが、デシベルは図9のように増幅器なり減衰器なり、またオシロスコープの入出力でも同じで、二つの比率を対数で表します。

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図9 広い比率を対数で表す

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と定義されています。

なぜ対数を使うのか、その理由は
● 広い比率の範囲を表現できる
● 掛け算を足し算で、割り算を引き算で行える

デシベルは図10のように表現されます。

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図10 電圧・電流と電力のデシベル定義

また図11のように複数の系が直列の時、全体のゲインは足し算、引き算で簡単に計算できるメリットがあります。

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図11 計算が楽なデシベル

また比率だけでなく図12のように正規化された値を示すこともできます。

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図12 実際の値を表すデシベル

FFTアナライザではdBVやdBμV、スペクトラム・アナライザではdBmがデフォルト表示になっています。どちらもオシロスコープなどに比べて広い入力レンジをもつ計測器のためデシベル表示の方が便利です。

図13は周波数1kHz、実効値1V(振幅では1.414V)のサイン波に周波数100kHz、振幅1/100の信号を合わせた信号をオシロスコープで表示したものとFFTで表示した例です。上側がオシロスコープ表示で縦軸(電圧軸)はリニアです。そのためレベルの小さい100kHzはそのままでは見えません。ズームしてやっと確認できます。

下側がFFT表示例です。1kHzの成分が0dBV(実効値1V)、100kHzの成分が-40dBV(1/100)と表示されています。このようにレベル差がある場合、デシベル表示は便利です。

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図13 同じ信号のオシロ表示とFFT表示

A/D変換器のダイナミックレンジ

アナログ信号を扱う計測器には間違いなくA/D変換器がキーデバイスとして使われています。オシロスコープでは8~12ビット、FFTアナライザでは24ビットが多いようです。1ビットは2倍の階段になるので、2倍は6dB、NビットA/D変換器の分解能は6×N(dB)になります。

図14に比率とdBのグラフを示しますが、24ビットのA/D変換器のダイナミックレンジがいかに広いか理解できますね。

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図14 比率とデシベル A/D変換器のビット数の関係

なぜオシロスコープではもっとビット数のあるA/D変換器を使わないのかという疑問がわきます。それは二つの理由があります。

1.サンプル・レートとビット数はトレードオフ時間方向の分解能がサンプル・レートですが、変換する時間が短いと電圧を細かく分解できない
2.オシロスコープは周波数帯域が広い熱雑音は周波数帯域が広い程多くなる

引き続き後編では時間軸で測る計測器と周波数軸で測る計測器の特徴をお話します。

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