本記事では、製造業を支えている非破壊検査技術について解説します。
世の中では、さまざまな非破壊検査技術が活用されています。元々はインフラ関係で活用されることが多かった技術ですが、品質要求が高まり続けている製造業での活用も効果的です。製品開発や改善だけでなく、インラインでの全数検査にも応用すれば、品質保証のレベルを高められます。
非破壊検査とは、検査対象物を壊したり傷つけたりせずに検査する技術です。表面の傷はもちろん、内部の傷や劣化状況、材料の組成を調べられる技術もあり、さまざまな場面で活用されています。
非破壊検査の最大のメリットは、検査対象物をそのまま使用できることです。切断やそれに準ずる方法で検査する破壊検査では、一度検査を実施すると対象物を再度使用できません。そのため、貴重なサンプルを失ってしまったり、検査用のサンプルを余分に用意したりする必要があります。
一方、非破壊検査では検査対象物を傷つけることがありません。そのため、同じサンプルを繰り返し検査したり、検査したものを製品として出荷したりできるのが特長です。
製造業で非破壊検査を行う主な目的としては、次の4つが挙げられます。
非破壊検査は、製品の信頼性を担保したり、高品質な製品を開発したりするうえで欠かせない技術であるといえるでしょう。
非破壊検査にはさまざまな方法があります。ここでは、主要な非破壊検査として6つの方法をご紹介します。
表面しか検査できないもの、内部まで検査できるものなど、一口に非破壊検査といってもさまざまです。検査対象物や検査する目的に合った方法を選択しなければならないため、各非破壊検査の仕組みやメリット・デメリットなどを正しく理解しておきましょう。
放射線透過は、エックス線などの放射線を検査対象物に照射し、透過させた結果をフィルムに記録する非破壊検査の方法です。放射線が物質を透過する性質を利用して、検査対象物の内部の傷の状態や、内部構造を調べられます。レントゲン写真をイメージすると分かりやすいでしょう。
検査対象物の材質を問わずに検査できるのが特長であり、内部の傷以外にも溶接不良などによる空洞(欠陥形状)も検査できます。しかし、表面の傷を検査するのは苦手なほか、人体に有害な放射線による検査であるため、取り扱いには十分な注意が必要です。
超音波探傷では、センサーから発信した超音波が、検査対象物の内部にある傷や反対面に反射して戻ってくるまでの時間と強さを測定します。
超音波探傷は、上述した放射線透過と比較されることが多い検査方法です。放射線透過に比べると、超音波探傷は傷の深さや高さまで検査できることや、安全性が高いことなどが優れています。一方で、溶接不良などによる空洞(欠陥形状)の検査が苦手なこと、ステンレスなどの一部材料は超音波が減退してしまうため検査できないことなどがデメリットとして挙げられます。
浸透探傷は、検査対象物の表面に浸透性の高い液体を塗り、浸透してから余分な液体を取り除くことで、表面にある傷を見えやすくする検査方法です。複雑な形状の検査対象物であっても、形状全体を一度に検査できるという特長があります。
しかし、浸透探傷の性質上、表面か表面に近い部分の傷しか検査できません。また、木材や多孔質な素材、検査で使う液体の影響で腐食や変色の起こる素材では使用できないことはデメリットです。
磁粉探傷(磁気探傷)は、磁気を用いた非破壊検査の方法です。磁化させた検査対象物に磁粉を振りかけると、磁粉が傷の周辺に集まって傷より大きな模様が発生します。その模様を見ることで、検査対象物の表面にある傷を検出するという仕組みになっています。
磁粉探傷は非常に小さな傷であっても検出できますが、先ほどの浸透探傷と同じく検査対象物の表面か表面に近い部分の傷しか検査できません。また、磁気を用いた検査のため、非磁性の素材では使用できず、鉄のような強磁性体の検査に適しています。
赤外線検査では、赤外線を利用して検査対象物の内部の傷などを検出します。赤外線には物体に吸収される性質があり、その吸収率は検査対象物の組成によって異なります。検査対象物の内部に欠陥があればその部分だけ吸収率が変化するため、その変化を捉えるという仕組みです。
赤外線検査は比較的短時間で実施でき、検査対象物の内部構造も検出できる点が特長です。また、複合材料の検査にも適しており、製造業では異種材料の接合部の不良検出といった用途で使用されています。
過電流探傷は、電磁誘導の現象を応用した非破壊検査の方法です。導体の検査対象物に過電流を流すと、組成や状態によって電流の流れ方が変化します。その変化を測定することで、検査対象物の状態を検査するという仕組みです。
過電流探傷では、表面の傷だけでなく、内部の傷や組成の状態まで検査できます。また、電気を用いているため数値制御がしやすく、自動化に適しているのが特長です。実際に、自動車業界などの全数検査では、過電流探傷を用いた自動検査装置が多く導入されています。
検査対象物を破壊することなく検査できる非破壊検査技術は、製造業の品質管理で役立ちます。製品開発や全数検査による品質保証など、非破壊検査が活躍する場面はさまざまです。自社の目的に合った非破壊検査を導入して品質レベルを高めることが、これからの製造業が成長する上での必須条件になることでしょう。