地球環境改善に向けた取り組みとして、世界中でガソリン車からEV(電気自動車)への移行が加速しています。世界中の自動車関連メーカーが競って開発を進めていることから、EVの技術の進歩はめざましいものがあり、EVに関わる製造業従事者であれば、常に最新の情報をインプットしておくのが良いでしょう。
本記事では、2021年現在のEVの開発動向と、EVの評価に用いられる測定器の最新情報について紹介していきます。
地球温暖化による気候変動や、排気ガスによる大気汚染への対応策として、ガソリン車をEVに置き換えていくことは世界中でトレンドとなっています。
欧州はいち早くEVへの移行に取り組んでおり、EUでは2021年から車の排出ガス規制を強化します。欧州の主要国は2030年から2040年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針を表明しており、自動車メーカーはEVの開発を急いでいる状況です。
世界最大の市場である中国も、欧州と同じくいち早くEVへの移行に取り組んだ国です。2035年には新車販売に占める電気自動車などの新エネルギー車の比率を50%以上にし、残りはハイブリッド車として全て環境対応車に置き換える指針を公表しています。
アメリカは、トランプ政権下で環境政策がほとんど進みませんでした。しかし、2021年1月に大統領に就任したバイデン氏は環境政策への取り組みに前向きであり、電気自動車の普及に向けた政策を行う意向を表明しています。
そして日本では、2020年10月26日、菅義偉首相が2050年までの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする方針を表明しました。そのための重要分野としてEVの普及を掲げています。
このように、国によって進行度合いの差はあるものの、世界各国でEVの普及に向けた取り組みが進んでいます。自動車関連のメーカーは要請に応えるべく、EVの開発と評価に注力しているのが現状です。
ここでは、2021年現在のEVの開発動向を3つのトピックスから紹介します。EVの開発がどこまで進んでいるのか、どんな方向性で開発が行われているかをみてみましょう。
EVが普及するための課題となっているのが、ガソリン車と比較して航続距離が短いこと、バッテリーの充電に時間がかかることです。現在のEVで一般的に用いられているリチウムイオン電池は改良が進んでいるものの、上述した課題を根本的に解消するには至っていません。
これらの課題を解決する技術として期待されていた全固体電池の実用化への動きが本格化しています。日本では、トヨタ自動車が2020年代前半に全固体電池を搭載した自動車の実用化を目指すとしていましたが、中国のEVメーカーであるNIOや、アメリカのバッテリーメーカーであるクアンタムスケープは既に実用化の目処を立てたと発表しています。
全固体電池を搭載したEVが登場すれば、EVの普及がさらに進むと考えられており、今後の動向に注目が集まっています。
イーアクスルは、モーターやインバータなどの部品を一体化した電動駆動モジュールであり、ガソリン車のエンジンに相当するEVの基幹部品です。既存のEVやハイブリッド車に搭載されていますが、各メーカーはEVのさらなる普及に向けて量産化や高性能化のための開発を進めています。
EVの性能においてはバッテリーが重要視されがちですが、自動車として走行するためには電気エネルギーを機械エネルギーに変換するモーターが必要不可欠です。日本では、EV向けモーターに注力する日本電産や、ガソリン車の開発で培った技術やノウハウを持つアイシングループなどがイーアクスルの開発に注力しています。
EVの開発とともにトレンドとなっているのが、自動運転車の開発です。自動運転の技術はガソリン車とEVの両方で開発が進んでいますが、電気モーターで駆動するEVの方が制御しやすいため、自動運転に適していると言われています。
自動運転では、自動化の段階によってレベル1からレベル5まで分けられていますが、中国では「特定条件下における完全自動運転」に相当するレベル4が一部実用化されており、最先端を走っています。
アメリカの大手EVメーカーであるテスラのCEOイーロン・マスクは、「完全自動運転」に相当するレベル5が近く実現するだろうと語っており、自動運転の動向にも目が離せなくなっています。
自動車メーカー各社はEVの開発に注力していますが、EVの性能や安全性を評価するための測定器の需要もそれに伴って高まっています。EVの検査で用いられる測定器について、4つのトピックスから紹介します。
国土交通省は乗用車の2030年度燃費基準を策定しており、新たな規制対象としてEVも追加されることになっています。ガソリン車とは異なり、EVの燃費測定は電力が車両に供給されるよりも上流側のエネルギー消費効率を考慮した「Well-to-Wheel」の考え方によって評価されます。
燃費基準をクリアしているかを正確に計測するために、EVの燃費性能評価試験の需要は高まっていくでしょう。
燃費性能評価試験においては、車両システムの各バッテリーにおける充放電の電流積算と電力積算の正確な測定が必要であり、電力の流れを測定する高精度のパワーアナライザが活用されています。
EVでは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換するモーターの性能と、電力をロスなく高効率で変換するインバータの性能を評価することは重要です。
インバータ・モーターを含めた車両システム全体で電力の変換効率や損失評価を行う必要があり、バッテリーからインバータ、インバータからモーターの間のそれぞれの電圧と電力をパワーアナライザで測定します。また、モーターの出力を測定するトルクセンサも組み合わせて使用しています。
また、EVは従来のエンジン車と比較して高電圧化・大電流化が進んでいるため、高電圧・大電流でも正確に測定できる測定器が求められています。
バッテリーの性能と耐久性は、EV自体の性能に直結する重要な要素です。都度実走行で評価していてはスムーズな開発ができないことから、バッテリーに実走行と同等の負荷を与えることにより、バッテリーの性能や耐久性を図る試験システムが開発の現場では活用されています。
また、バッテリーと実機で使うモーターを組み合わせて、より実走行に近い試験を行える試験システムもあります。
研究・開発中の自動車の走行試験は、シャシダイナモメータ上で行うのが一般的ですが、過酷な条件の試験だとドライバーに負担がかかることと、操作ミスやばらつきが発生する可能性がある点が課題としてあります。
近年では、走行試験を人に代わって行う自動運転システムが活用されており、ドライバーの負担を無くすとともに、高精度で再現性の高い試験が実現しています
欧州や中国に比べるとやや遅れているものの、2021年以降は日本でもEVの普及に向けた取り組みが進むと考えられます。地球環境改善の観点から、ガソリン車がEVに置き換わっていくことは間違いないでしょう。
自動車業界の今後を知るためには、EVの開発動向に注目することが重要だと考えられます。本記事をきっかけとして、EVの開発動向や評価に用いられる測定器について学んでいただければ幸いです。