IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の浸透により、先進のICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)をものづくりへ活用する取り組みが世界中で進められています。こうしたIoT活用の取り組みは、センシング技術の進歩や普及によるところが大きいと考えられます。
そこで今回は、製造現場に利用されるセンシング技術を取り上げ、ご説明したいと思います。
まず、センシング技術とは何かについて、ご説明します。
「センシング技術」とは、装置や機器を使用してさまざまなデータを取得し、これらを分析して情報を取り出す技術をいいます。
センシング技術には、大きく分けて、「スマートセンシング」と「リモートセンシング」があります。
スマートセンシングは、最近では、センシング技術と同義で使われることが多くなっています。スマートセンシングによって取得可能なデータの種類は幅広く、基本的には、定量可能であれば、物理的、化学的、生物学的なものであるかは問いません。
一方、リモートセンシングとは、遠く離れた場所にある物を測定または計測する技術であり、特に、人工衛星や航空機などにより地表からの各種波長の電磁波エネルギーを測定し、そのデータや画像を伝送させて観測する技術をいいます。
製造現場で利用されるセンシング技術は、主にスマートセンシングです。このため、記事では、スマートセンシングを中心にご説明していきます。
センシング技術を実行するには、「センシングシステム」と呼ばれる装置が必要です。このセンシングシステムのうち、データ取得対象の最も近くに位置するデバイスが、「センサー」です。センサーは、対象の特徴となる量を検出し、それを読み取り可能な信号に変換して機器に表示します。
一口にセンサーと言っても、その範囲は多岐にわたり、機能、目的、用途、測定手法などに応じて多くの種類のものが存在します。年々、新たな性能や目的を持ったセンサーが開発され続けています。
以下に、製造現場で使用されるセンサーの例を、目的別にまとめました。
目的 | センサー(センサーデバイス) |
---|---|
稼働状況の把握 | 振動センサー、加速度センサー、電流センサー |
環境の状態の可視化 | 温度センサー、湿度センサー、気圧センサー、照度センサー、騒音センサー、 粉じんセンサー、二酸化炭素濃度センサー、磁界センサー |
モノや素材の量の検知 | 重量センサー、流量センサー |
モノや人の状態の検知 | 赤外線センサー、レーザーセンサー、近接(近接覚)センサー |
センシング技術は、製造現場において、どのような用途で利用されているのでしょうか。
工場内の生産プロセスの状態を監視するのに、センシング技術が利用されます。この生産プロセス監視向けのセンシング技術では、各生産プロセスに配置されたセンサーが、プロセスの状態を連続的に検出し、これをデータ(プロセスデータ)に変換して制御ユニットに送信します。制御ユニットは、送信されたデータを、あらかじめ設定していた目標値と比較し、その差を制御変数に変換して出力し、検出されたプロセスの状態を補正・調整します。これを繰り返すことにより、フィードバック制御が実行され、生産プロセスが目標値から外れることなく、安定した制御状態で維持されます。
製造現場においてセンシング技術は、工場内の生産設備の状態を把握または管理する上でも、重要な役割を果たします。
各生産設備にセンサーを設置することにより、設備の稼働状況などがデータとして収集されます。このデータを分析して、設備が正常に機能しているかどうかを診断します。
さらに、工場の作業者に、加速度センサーや温度センサーなどのセンサーを保持してもらうことで、作業者の位置や動き、バイタル情報(心拍数や体温など)をモニタリングし、作業者の転倒や危険領域への立ち入り、体調不良などを即時に検知・把握します。
次に、センシング技術を製造現場に導入する主なメリットをご説明します。
センシング技術を導入することによって、作業の進行状況、生産設備の稼働状況、生産プロセスにおける部品や製品の位置、検査や計測の結果などを、高い精度と信頼性により、リアルタイムに把握することができます。こうしてリアルタイムに可視化された、現場の状況に関するデータを、生産計画と比較することで、プロセスの遅れといった問題点が明らかになります。そこから得られた情報は、製造現場で共有することにより、プロセス間の調整・改善などに活用することができます。
センシング技術はまた、生産設備の稼働データから、故障や不具合につながる特徴量を検出し、その傾向に基づいて故障・不具合のリスクを読み取ります。設備の故障・不具合の予兆を事前に把握することが可能となり、設備の状態に合わせてメンテナンスを適切かつ計画的に行うことで、設備の突発的な停止を防ぎ、稼働率を向上させることができます。同時に、従来型の保守(故障時の修理、規定耐用期間ごとの部品交換など)と比べて、作業を効率化することができ、保守コストの削減にもつながります。
センサーを用いて生産プロセスや設備から収集されたデータを活用し、エネルギー消費を予測することにより、エネルギー効率を改善し、工場の総所有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)を削減することができます。これらのメリットを享受することで、企業は生産性を向上させることができます。
製造現場では今後、さらなる生産性改善のために、工場内のセンサーをネットワークで接続し、データの収集・分析によって生産設備の効率的な運用を実現する「産業用IoT(Industrial IoT)」の導入が進みます。その実現には、工場全体をデジタル化し、その運用を最適化することが有効とされています。
デジタル化されていない設備やネットワークに接続されていない設備などにも設置可能なセンサーが開発されており、工場全体にセンシングシステムを構築し、デジタル化を実現することが可能となります。
デジタル化されたデータとそれから得られた知見は、一つの製造現場にとどまることなく、複数の工場間、企業全体へ共有範囲を広げることにより、生産業務のプロセス全体の改善、トレーサビリティの管理などに活用することができます。
産業用IoTでは、センシング技術をAI(人工知能)や機械学習と連携させて、新たな価値を創造する動きが活発になると予想されます。
センサーが取得したデータをAIや機械学習技術により解析して、工作機械などの製造設備の異常の兆候を検出し、寿命を予測します。設備の状態をより精密に可視化することが可能となります。
これらの技術は、製造設備だけでなく、自動検査装置にも導入が進み、故障モデルの逐次更新により、これまでよりも多くの種類の製造不良を効率よく検出できるようになります。
工場内の生産従事者の技能伝承のシーンでも、センシング技術の活用が期待されています。
センサーが計測した、熟練作業者と訓練者の、動線や姿勢、手や腕の角度や動き、注視点の軌跡などのデータを比較分析することで、両者の行動の違いを明らかにします。
言葉による説明や文書化・形式化の困難なノウハウ(技能面の暗黙知)などが伝えやすくなり、生産品質の向上や作業効率の改善をサポートします。
製造現場では、多様化、複雑化する社会的・経済的要請にいち早く対応することが求められています。
今後は、センシング技術を、IoT、ビッグデータ、AI、機械学習などと高度に融合させることにより、工場のスマート化の実現に向けた動きが加速していくものと思われます。