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ローカル5Gの盲点とシステム構築で気をつけるポイント

レンテックインサイト編集部

IT Insight ローカル5Gの盲点とシステム構築で気をつけるポイント

株式会社 構造計画研究所
情報通信営業部 担当部長 坂木 啓司 氏

次世代通信規格として盛り上がりを見せる5G。日本を含めた世界各国で商用サービスが始まり、期待は膨らむばかりです。さらに5Gでは、エリアを限定して電波を出せるローカル5GにIoTやDXを進めたい行政や産業界から大きな関心が寄せられています。そんなローカル5Gの現状と活用法、構築に向けたポイントなどについて、電波伝搬解析の面からローカル5G構築の支援やそのためのソフトウェア開発を行っている株式会社構造計画研究所にお話を伺いました。

ーーはじめに御社について教えて下さい。

 当社は1959年設立で、建築・防災、情報・通信、設計・製造、意思決定支援の領域に対して、シミュレーション技術を生かしたエンジニアリングとコンサルティング、パッケージソリューションを提供しています。企業理念に「大学、研究機関と実業界をブリッジするデザイン&エンジニアリング企業」を掲げ、工学的なアプローチを生かしてさまざまな社会課題を解決していくことを目指しています。
 具体的には、学術的知見で計算が可能なものをソフトウエアに落とし込み、実業界に展開しています。例えば、建物の構造設計にコンピュータを用いるのは今日では当たり前ですが、それを日本で初めて行ったのは当社となります。特に構造設計や電波伝搬のようなニッチ領域に強く、建築分野をきっかけに、情報通信、製造、自然環境、社会システムへと少しずつ領域を広げて今に至っています。そのため社内には多彩な人材が多く在籍しているのが強みです。
 情報・通信分野については、1960年代後半に通信ソフトウエアの受託開発からスタートし、携帯電話関連は1980年代半ばの第1世代(1G)から取り組み、2G、3G、4Gとこれまでの携帯電話の進化のすべてに関わってきました。こうした経歴と実績から、5Gへの移行が始まり引き合い・受注も増えている状況です。

ローカル5Gの基本とメリットとは?

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ーー5Gとローカル5Gについて、初めに押さえておくべき基本のポイントについて教えて下さい。

 5Gは、高速大容量、超低遅延、大量端末の同時接続を特長とした次世代高速無線通信だというのはよく知られています。4GLTEに続くものとして2020年3月から商用サービスが始まり、通信キャリア事業者などを中心に免許が交付されています。
 もう一つ5Gの大きなポイントとして「ローカル5G」が認められていることがあります。ローカル5Gとはエリアを限定して電波を発信できるもので、自治体や地域企業などでも事業者として免許を取得し、基地局を設置して5G電波を送信することが可能になりました。
 その最大のメリットは、事業者が自らに必要な性能を柔軟に設定して利用できることです。高速大容量、超低遅延、大量端末の同時接続といった特徴から、用途に応じてどの特徴を生かすか選択することができるなどカスタマイズが可能です。
 またローカル5Gを整備することで、自営の通信網を構築することができ、災害の影響を受けにくくできるというメリットもあります。無線局免許に基づくため、さまざまな電波が飛び交う中でも常時安定した通信環境を整備でき、その点でも高い関心が寄せられています。
 周波数帯は4.6〜4.8GHzのサブ6GHz帯と、28.2〜29.1GHzのミリ波帯が割り当てられており、先行して28.2〜28.3GHzが制度化されています。

ーーローカル5Gの用途と現在地点について教えて下さい。

 例えば製造業における工場や物流倉庫などの無人化・省人化や、自治体の防災、病院などの遠隔医療、エンターテインメント企業のユーザー体験の高度化などが想定されています。
 現時点で約50件のプロジェクトに対して免許が交付され、具体的にはセンサ・AIで工場の稼働を最適化する用途や、河川の水位のリアルタイムモニタリング、遠隔手術、画像伝送などで検証が進んでいます。ちょうど今はこれらのプロジェクトで実験局を新設して運用テストをしてみた結果の中間報告が出てきている段階です。ローカル5Gの本格展開はこれからでしょう。

 

ローカル5Gを構築する際に気をつけるべきポイント

ーーローカル5Gの本格展開にあたっての課題や、新たに整備しようとしている事業者にとって気をつけておくポイントはありますか?

 ローカル5Gは、自らが電波の送信者になることができますが、そのためには免許が必要です。そしてこの免許申請が手間のかかる作業で、かなりのノウハウを必要とすることが課題とされています。
 また現段階でローカル5Gの免許交付を受けるためには、4Gと5Gの基地局および4Gのコアネットワークを確保してNSA(ノンスタンドアローン)のシステム構成が必要となります。つまりは、4Gと5Gの二つの電波を同時に出すために、電波が届くエリア設計や設備がそれぞれに必要となります。5Gは始まったばかりのため機器・端末の選択肢が少ない上に価格が高く、初期コストが高額になるという点にも注意すべきでしょう。
 さらにローカル5Gでは、これまでの無線通信と異なり、自社はユーザーであり送信者にもなります。そのため通信品質の維持や機器・設備のメンテナンスなどの運用業務が必須となります。始めの構想設計からシステム構築まですべて外部業者にまかせてしまうと、後々運用ができなくなる恐れがあります。自らが主体的に考えていくことが大切です。

 そして、ローカル5Gを構築する上で最も難しく、時間と手間がかかるのが「干渉調整」です。新しい電波を出すには、周辺の事業者の電波と干渉しないようにしなければならず、干渉する可能性がある場合は当事者間で調整が必要となります。
 電波の到達範囲は電波法関係審査基準に記載された計算式によって算出するよう定められていますが、その結果は実際の到達範囲よりも広めに出ることもあります。そのため干渉調整が必要となる区域が大きく、調整がより難しくなることもあるという点は気を付けた方が良いでしょう。

解決策は実態に即したシミュレーション

ーー当事者間の調整は大変そうですね。それを解消または低減するにはどうしたら良いのでしょうか?

 重要なのは、エリア設計をする際の実態に即した電波伝搬シミュレーションです。シミュレーションによって電波の伝搬を実態により近い形で再現し、調整を重ねて目的に適した最適な電波の到達範囲を設計することだと思います。
 シミュレーションしたデータは、干渉調整だけではなく、免許を申請する際のカバーエリアの評価、電波を出した後に設計通りに出力されているかを調べる時や、その後の運用に至るまで、あらゆるプロセスで重要となります。そのためローカル5G導入には必須のシミュレーションと言っても過言ではないでしょう。
 当社でも電波伝搬を解析できるソフトウェアとして、Remcom社の「WirelessInSite」を取り扱っています。WirelessInSiteは、世界中で評価が高く、5Gに限らず様々な電波伝搬解析に利用されています。

実態に即したシミュレーションが可能なWireless InSite

ーーWireless InSiteについて詳しく教えて下さい。

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Wireless InSiteはレイトレース法をベースとして、実態に即したシミュレーションが可能な電波伝搬解析ソフトウェアです。
 通常、電波伝搬のシミュレーションには推定式が使われ、計算により簡単に求められますが、前述の通り電波の到達範囲が実態よりも広く出てしまうことがあります。干渉調整やチューニングを行うためにはより実態に即したシミュレーションが求められます。
 それに対してレイトレース法は、電磁界理論に基づき、電波を光に見立てて伝搬経路を求める手法で、電波の反射や回折、透過を考慮に入れて、その経路を幾何学的に計算して算出します。つまり、電波がどのような経路で受信点に到達するか、建物や障害物のどのような材質の面でどのくらい減衰するか、マルチパスによる到達時間の差はどれくらいかが分かり、伝搬経路、到来角度、受信電力、遅延プロファイルといったデータが取れるようになります。
 レイトレース法は電波伝搬をより実態に即した形で解析できる理論として以前から知られていましたが、高性能なコンピュータが安価に手に入るようになったこと、地形や建物の3Dデータが容易に手に入れられるようになったことでレイトレース法を用いた電波伝搬解析に注目が集まるようになってきました。
 WirelessInSiteはレイトレース法を使い、都市や屋内の3Dモデルを用いて、高速・高精度に、かつグラフィカルに電波伝搬を解析することができる電波伝搬解析ソフトウェアです。

ーーレイトレース法と推定式では結果がそんなに違うものでしょうか?

 WirelessInSiteのシミュレーション画面を見ると一目瞭然です。電波は送信点から何度も反射と回折、透過を繰り返して受信点に到達し、意外なところで反射が起こったりします。電波の到達範囲を画面で表すと、推定式で算出したものは距離に応じて広がり、レイトレース法ではまだら模様で、場所によって強弱がついているのが分かります。レイトレース法で算出した結果は推定式では届いていないところまで届いていたり、逆に推定式では届いていてもレイトレース法ではまったく届いていなかったりします。

 Wireless InSiteを使うことによって、カバーできていないところや飛びすぎているエリアの発見、パラメータ変更をした際の影響の変化、電波の到達経路の可視化などができ、推定式だけでは分からない実態に即した伝搬具合を見える化することができます。

手厚いテクニカルサポートと独自開発の便利ツール

ーーWireless InSiteを使うメリットを教えて下さい。

まずWireless InSiteは、レイトレース法の中でもイメージング法とレイランチング法の両方に対応しており豊富な伝搬モデルを備えています。また地図データ・CADデータをインポートして地形や建物データを容易に取り込むことができ、市販されている豊富な地図データを使いやすいというのも大きなメリットになります。カラーマップやグラフ、テキストなど豊富な出力結果と可視化機能も好評です。
 またWireless InSiteを利用するためにハイスペックで高額なワークステーションのようなPCは必要ありません。ゲーミングPC程度のスペックで十分に動作させることが可能で、GPUボードを追加すればさらなる高速化が期待できます。
 そして何より、当社は同じレイトレース法を使った別の電波伝搬解析ソフト「RapLab」の開発元であり、レイトレース法に対する多くの知見とノウハウを有しているという強みがあります。そのためテクニカルサポートのレベルが高く、特にローカル5Gという新しい技術に挑戦する企業にとっては安心してご利用いただけます。
 また、日本の法律や状況に合わせてより便利にWireless InSite を活用していただくため、当社が日本向けのWireless InSite 用ツールを作って無償で提供している点もユニークだと思います。5G・BWA解析エンジンやサービスエリア描画ツールなどを独自に開発・提供しており、お客さまから高い評価をいただいております。

ーー今後に向けて。

  5Gはまだサービス開始直後ということもあり、私たちの身の回りに実感できる恩恵として届いていません。しかし身近なところに関わりのあるユースケースが増えてきており、関心を持つ企業や自治体も増えてきています。10年先とかではない近い将来、確実にローカル5Gが広まり、私たちの生活に入ってくるでしょう。
 ローカル5G構築には電波伝搬シミュレーションが必要であり、そのためには高度な知見とノウハウが必要です。今後もツールの開発など機能追加を積極的に行い、Wireless InSiteをより使いやすくし、事業者のローカル5G構築を支援していこうと考えています。
 また電波は見えないものであり、実態が掴めないとよく言われます。Wireless InSite のようなソフトウェアを使って電波を見える化することで、「電波を理解すると面白い」ということをより多くの方が感じていただけたら嬉しいです。

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