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ビジネスに新たな価値を生み出すローカル5Gの魅力

レンテックインサイト編集部

次世代のモバイル通信規格である5Gは、次世代のICT基盤として期待されています。そして5G とは別に、限定したエリアでネットワークを構築する「ローカル5G」の活用が注目されています。ローカル5Gはどのような価値を生み出すのでしょうか。

脱ベストエフォート・5Gの現在地

携帯電話など、インターネットに接続されている端末の数は年々増加しています。スマートフォンで動画を見ることが当たり前となり、やり取りをする通信量も爆発的に増えています。今後は、IoTの活用が進み、家電やビル、自動車などあらゆるモノがつながる世界になっていくでしょう。指数関数的につながるモノが増え、通信量が増えるなかで、現在のモバイル通信やブロードバンドでは支えきれなくなります。そこで次世代を担うICT基盤として5Gが期待されています。
5Gは現在のモバイル通信規格である第4世代移動通信システム(LTE-Advanced、4G、以下LTE)の後継となるネットワークの規格です。 5Gの特徴は「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」の三つがあります。

超高速

例えば2時間の映画をダウンロードするのに、LTEでは5分かかりましたが、5Gでは3秒です。

超低遅延

LTEと比較して10倍の精度でリアルタイム性が保証されるため、遠隔で手術を行うなど、クリティカルな作業をリアルタイムで行うことができます。

多数同時接続

5Gは1キロ平方メートルあたり100万台の端末が接続されても耐えられる通信を提供します。今後は身の回りのあらゆるモノが接続され、一般的な家庭においても約100個の端末やセンサが接続されるようになると予測されています。

LTEも含めて一般的なネットワークは、すべてベストエフォート型です。そのため多数の端末が接続すると全体の通信速度が落ち、接続できないといったことが発生します。それに対し5Gは大容量の通信をやりとりしたいのか、遅延なくやりとりをしたいのか、多数の端末を接続させたいのかによって仮想化したネットワークを使い分ける「ネットワークスライシング」により、安定したネットワークを提供します。
現在すでに5G用のスマートフォンが発売されていますが、現時点ではLTEの基盤を使い、末端の端末と基地局との接続だけが5G化されています(非スタンドアローン方式、NSA)。そのため、この三つの特徴のうち「超高速」だけが実現されていることになります。近い将来、本格的な5Gの基盤(スタンドアローン方式、SA)に入れ替えられ、自動運転や救急ドローンなどが可能となり、身の回りのことが劇的に変わるかもしれません。

ローカル5Gは5Gと何が違うのか

5Gの本格化はもう少し先のことになりそうですが、先行して注目を集めているのが「ローカル5G」です。ローカル5Gは、携帯電話事業者による全国向けの5Gとは別に、地域の企業や自治体等が、周波数免許を取得して建物や敷地内に無線局を設置し、独自の無線ネットワークを構築するというものです。
2019年12月に一部の帯域でローカル5Gの利用が可能になりました。この帯域はNSAの運用しかできませんが、SAの運用が可能なその他の帯域(4.5GHz帯)も2020年末に制度化される予定です。
5Gがあるのに、なぜローカル5Gが必要とされているのでしょうか。ローカル5Gには、次のようなメリットがあります。

他の地域の影響を受けにくい

5Gは他の地域で通信障害や災害が発生すると、接続しにくくなる現象が発生しますが、ローカル5Gは独立したネットワークのため他の地域の影響を受けにくくなります。

セキュリティが強化される

ローカル5Gは独立したネットワークとなるため、サイバー攻撃を受けにくくなり、機密情報流出のリスクを抑えることができます。

5Gのエリア展開が遅れている地域に先行して展開できる

5Gの整備が進むのには2年以上かかるとされています。整備が進んだとしても山間部や過疎地などカバーしきれない地域が出てきます。こうした地域でも独自のネットワークを構築して、高度なサービスを提供することができます。

独自にネットワークを構築する以外にも、ソフトバンク社の「おでかけ5G」やNTTドコモ社の「キャリー5G」のように、5Gの通信機器を一時的に設置して、スタジアム内での試合のライブ配信や、工事現場での遠隔支援に使えるようなサービスもあります。

エンタープライズの分野でローカル5Gの取り組みが進む

5Gについては、自動運転やロボットを使った遠隔治療など、ユースケースが想定できてはいるものの、法制度や設備など環境が整っていないため、すぐに実現できるものではありません。
それに対してローカル5Gについては、エンタープライズ分野、特に製造業においては、ロボットを含めたIoT製品を意欲的に導入しており、「スマートファクトリーの実現」という明確な目標があるため、5G利用に向けて動きだしている企業も多く存在します。
現在ローカル5Gの取り組みにはどのようなものがあるのか、事例を紹介していきましょう。

自動走行型ロボットでワーク着脱・工程間搬送を遠隔操作

DMG森精機社において、ローカル5Gの基盤を使って工場の中で自立走行型ロボット(AGV)を遠隔操作する取り組みです。
AGVには人協働型ロボットを搭載しているため、空いているAGVを工場内で移動させ、ワークの着脱や工程間搬送などを行うことができます。また、大容量データを高速でやりとりすることができるため、AGV側の処理を軽量化することができるようになりました。
これはIoTの取り組みとして大きな意味があります。IoTに有線を使うという選択肢もありますが、工場内の設備の配置上、配線が難しいという事情があります。また、そもそもAGVやハンディターミナルは移動を想定しているため、ネットワークにケーブルでつなげることが困難です。そのため、現在、工場内でIoTを実現するには、構築が簡単なWi-Fiが採用されることが多くなっています。しかし、Wi-Fiの場合、元々は移動しながら使用することを想定していない規格であるため、大規模な工場や屋外をカバーする用途に向いておらず、常に移動するAGVに使うのは難しい場合があります。
また、通信の遅延も既存の無線ネットワークの大きな問題です。そのため処理をできるだけAGV側で行うようにしなければなりませんでしたが、AGV自体の処理能力には限界があり、高度な判断が難しくなります。5Gに置き換えることで、サーバーで高速に処理を行い、リアルタイムにAGV側に伝達することができます。DMG森精機社ではこうした実証実験を通じて、複数のAGVや設備をつなげて工場全体のデジタル監視を実現することを目指しています。

集合住宅向け次世代インターネット

 三菱地所社では、集合住宅向けのインターネット接続をローカル5Gにする実証実験を行っています。ローカル5Gはマンション内に新たな通信配線の敷設が必要ないため、既存のマンションにも活用できるという大きなメリットがあります。このサービスを商用化することで、エンターテイメントや遠隔治療などのサービスを提供し、資産価値を向上させる狙いがあります。
スマートフォンの普及により、光回線を敷設している賃貸マンションも減少しています。そんな中、昨今の新型コロナウイルスの影響で、授業や新人研修などがオンラインに切り替わり、スマートフォンしか持っていない人が自宅から利用できないという問題が発生しています。withコロナ時代に向けて、5Gの超高速、大容量通信の価値が高まってくるでしょう。

多彩なモバイル通信規格を組み合わせて価値を高める時代に

最近では多端末接続・10Gbpsの高速通信を実現するWi-Fi6も登場しています。ローカル5GはWi-Fi6と比較すると、超低遅延であること、帯域保証が可能なこと、といったメリットがありますが、逆にいえば、そのメリットが必要なければWi-Fiで十分、といったケースも出てくるでしょう。多彩な通信規格をニーズに合わせて選び、価値を高める時代になってきたのではないでしょうか。ローカル5Gでビジネスや暮らしがどのように変わるのか、今後も注目です。

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