測定器 Insight

大容量時系列データを自在に編集・解析できるソフトウエアOscopeとは?

計測器各社のデータを取り込み、簡単な操作で解析可能

Excelで扱いにくい大容量データもユーザーを待たせず高速処理

レンテックインサイト編集部

測定器 Insight 大容量時系列データを自在に編集・解析できるソフトウエアOscopeとは?

株式会社小野測器
営業本部 商品統括ブロック SVグループ マネージャー 小林基秀 氏
営業本部 商品統括ブロック セミナーグループ 係長 樋口エミ 氏

設計業務のデジタル化が進んでも、実機の計測が不要になるわけではありません。むしろシミュレーションの精度向上やさまざまな現象の把握のために、計測およびそのデータ解析へのニーズはより強まっています。そこで今回は多様な計測データを関連づけた高度な解析機能を豊富に搭載する大容量時系列データ解析ソフトウエア、Oscopeについて、開発元の株式会社小野測器を取材しました。

自動車関連と音響・振動関連の計測・制御に関するプラットフォームを開発

-- 株式会社小野測器さまの沿革を簡単にご紹介いただけますか。

大容量時系列データを自在に編集・解析できるソフトウエアOscopeとは?

小林基秀 氏

・小林氏
「当社は1954年の創業以来、各種動力の計測・制御・シミュレーションや解析、音響・振動の計測・コンサルティングを中心とした分野で計測制御機器や関連サービスを提供しております。大きな事業分野としては自動車関連事業と音響・振動関連事業があります。例えば自動車では回転速度・圧力・温度・電圧・振動・騒音など多様な計測を同時に行う必要がありますし、計測したい条件を整える『制御』も求められます。そのような複雑な計測・制御をリアルタイムで行えるプラットフォームを開発し、それを用いてお客さまの問題解決に寄与することが当社のミッションです」

複数の物理量を計測した大容量時系列データを自由自在に編集・解析

-- 今回ご紹介いただく大容量時系列データ解析ソフトウエア、Oscopeはどのような場面で活用することを想定されていますか。

・小林氏
「計測器は音・振動、電圧、圧力などさまざまな物理量をデータに変える機材ですから、物理量ごとに専用に作られています。Oscopeは種類の異なる計測データを取り込んで、それらをグラフ化し時間軸を合わせて比較したり、より高度なアルゴリズムで解析を行ったりという操作が容易にできます。それが『大容量時系列データの自由自在な編集・解析が可能に』ということです。計測をする対象物には自動車、エアコン、自動販売機などさまざまな機器がありますが、それらはいずれも複雑な要素で組み上げられたシステムですので、そのシステム全体を計測しての問題発見・解決を楽にするのが、Oscopeの役割ですね」

測定器 Insight 大容量時系列データを自在に編集・解析できるソフトウエアOscopeとは?

Oscopeシステム概要図

-- Oscopeを開発するに至ったきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

・小林氏
「二つありまして、一つは自動車関連の計測事業の中から、異なる計測器の複数のデータを重ね合わせて見たいというニーズが出てきました。それまでは印刷した紙を光に透かして見たり、Excelに取り込んで軸を合わせたりなどいろいろ面倒で手間がかかっていたので、簡単にできるようにしたいというわけです。それがもとで現在のOscope2の前身であるOscope OS-1000シリーズという製品を開発しました。
もう一つは音響・振動解析の分野で新しい解析ニーズが出てきたことであり、その機能を搭載して開発したのがOscope OS-2000シリーズです。その両者を統合したのが現在のOscope2になります」

Oscopeのデータ表示機能の例

測定器 Insight 大容量時系列データを自在に編集・解析できるソフトウエアOscopeとは?

左:異なるサンプリング周波数波形の表示が可能

中央:波形の分割・移動も自由自在

右波形の拡大・縮小も思いのまま

-- Oscopeが行う「解析」と「計測」の関連性について教えてください。

・小林氏
「例えば音響を計測して直接得られるのは音の波形ですが、人間にとって必要なのは波形ではなく周波数成分であるような場合があります。そこで求められるのが『周波数成分の解析』です。つまり物理量をデータ化するのが『計測』器の役割で、そのデータから人間の判断に役立つ情報を抽出するのが『解析』の役割です。具体的な解析ニーズは産業分野によってまた製品によって非常に多様なものがありますので、Oscopeのミッションはその多様なニーズに対応していくことです。Oscopeを発表したのは2005年ですが、それ以来こまめなバージョンアップを重ねて現場のニーズに合った解析機能を開発強化し続けているのが、お客さまに支持される理由の一つだと考えております」

多様な解析ニーズが新しく生まれ続ける理由とは?

-- 解析ニーズが非常に多様であるという例をいくつか教えてください。

・小林氏
「例えば自動車業界特有のニーズの一つにエンジンの燃焼解析というものがあり、この分野ではクランク角度と合わせて他のデータを解析する必要があります。他の分野ではほとんどの場合時間軸を基準に解析するのですが、エンジンの場合は違うわけですね。圧力、温度といった物理量の種類は同じでも、それを解析するアルゴリズムは製品の基本構成によって変わりますので、新しい製品分野には新しい解析ニーズが生まれるわけです。その他、環境保全や騒音対策など、社会的に要求が強まっている分野で近年注目されているものに変動音解析や音質評価などがあります」

-- 変動音解析や音質評価というのはどのような機能なのでしょうか?

・小林氏
「自動車、あるいはエアコンやプリンターなどの身近な機器が故障するような場面をイメージしてください。故障する前後に例えばカラカラ、コロコロといった、いつもと違う音がしませんか? 変動音とはその種の音のことで、音量自体は小さくてもなんらかの異常の発生や兆候を示す重要な音です。音の中からそうした周期的な変動成分を解析して、問題発見・解決に生かすのが変動音解析です。
一方、音質評価というのは官能評価の一種で、例えば騒音を評価する際、騒音計が示す数値と人間が『うるさい』と感じる感覚は合わないことがあります。人間の聴覚には鈍感な面があって、例えば周波数が近い二つの音が同時に鳴っていた場合、人間には片方しか分かりませんが騒音計はその両方を計測します。すると、人間の感覚では騒音計の数字よりも小さな音と感じてしまいます。逆に、変動音に対しては定常的な音よりも敏感です。騒音を効果的に減らすためには、物理現象としての音の大きさではなく、こうした人間の感覚に合わせて音質を評価する必要があります。それをするのが音質評価です」

-- 「変動音に対しては定常的な音よりも敏感」というのはどんなことでしょうか?

・小林氏
「例えばエアコンが動いているときは「ザーーー」というような音がしますが、こういう一定の大きさで平坦に続くのが定常的な音で、これに対して人間は慣れて気にならなくなります。しかし、ガタガタ、ゴトゴト、カタッカタッ、というような繰り返し音、つまり先ほども出てきた変動音には慣れていないので騒音と認識されやすいです。機器の騒音低減を図るには、こうした人間の感覚特性を反映した官能評価を数字で出せる必要があります」

-- 官能評価というのは本来、人間の感覚ですよね。それを数字で出せることが重要なのはなぜでしょうか?

・小林氏
「人間の感覚は個人差もありますし、同じ人でも体調や気分でばらつくことがありますが、ソフトウエアによる解析で数値化できれば基準を一定にできるので、製品の継続的な改善を図る上で有利です。人間は同時に複数の音源を評価することもできませんし、5分の音を評価するには5分以上かかりますが、解析ならば多数の測定点で長時間録音した音源も手間をかけずに短時間で評価できます。」

計測器各社のデータフォーマットに対応、1000チャンネルのリアルタイム解析に対応

-- 長時間のリアルタイム解析というのは、各種の計測器をフロントエンドにしてデータを取り込みながら解析をするという形でしょうか?

・小林氏
「はい、そこが当社とOscopeの強みで、HIOKI、TEACなど計測器の各社独自のバイナリ形式のデータファイルをマルチチャンネルデータとして取り込んで、自由にグラフ化や解析の処理ができます。もちろん、ASCIIテキストやCSVファイル、のデータファイルを取り込んでの処理も可能です」

-- 「マルチチャンネル」の部分をもう少し詳しくお願いします。

・小林氏
「例えば自動車の開発中には何種類ものデータを同時に計測する場合があり、圧力・温度・回転速度・振動といった、異なる計測器のデータを同じ画面で重ねて見たいときもあります。それに対応できるのがマルチチャンネルということです。これを例えばExcelのようなソフトでグラフ化しようとすると、ファイルフォーマットが分からない、データが大きすぎて扱いにくい、サンプリング周期が合っていないなどと、細かいところで余計な手間がかかります。その手間をなくして簡単に大容量時系列データを自由自在に編集・解析できるというのが、Oscopeのマルチチャンネル対応機能です。これは自動車関連事業での経験から計測器各社に交渉してデータフォーマットの開示などのご協力をいただきながら開発してきた当社の強みです」

問題解決のノウハウと使いやすいソフトウエアでトータルにお客さまを支援

-- 今後の事業展開の構想についてお願いします。

測定器 Insight 大容量時系列データを自在に編集・解析できるソフトウエアOscopeとは?

樋口エミ 氏

・樋口氏
「お客さまの『問題解決』をサポートしていくことが今後も課題です。解析ソフトウエアを活用していくためには、その前に正しい計測環境のセッティングが必要です。得られたデータを解析するにも、そこで分かった情報から問題の原因を読み取って解決策を発見するにもさまざまなノウハウがあります。セミナーやトレーニングを通じてそうしたノウハウを提供していくこと、またソフトウエア自体にそのノウハウを組み込んでいくことも含めて、解析にとどまらずお客さまの『問題解決』を支援していくのが当社の役割と考えています」

・小林氏
「現在はデジタル化の影響もあり、新しい分野が次々生まれつつあります。そこで浮上する新しい解析アルゴリズムのニーズへ対応するのは当然として、より総合的にお客さまを支援できる仕組みづくりを目指しています。例えば、モノを作るメーカーや研究機関の裾野が広がったことで、ソフトウエアを短期間だけ使いたいというニーズが増えましたので、レンタル向けのパッケージを充実させつつあります。同じような作業の繰り返しを効率化できるマクロ機能の搭載など、計測・解析に伴う周辺作業の効率化も図っています」

--本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

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