測定器 Insight

ネットワークアナライザとは

レンテックインサイト編集部

 高周波の回路では、周波数が高くなるほど電流は導体の中心より表皮に近い部分ばかり流れるようになり、交流抵抗が増大します(表皮効果)。19世紀ごろから研究が進み、いまでは工学の授業でも定番になっています。

実際の高周波デバイスや回路では反射や減衰が起きて当たり前なので、設計者はその度合いを計測し、パラメータ化してシステム設計にフィードバックします。

新たな電子部品の構成材料を製造し、その高周波特性に関する評価などを行う場合もセールスの基準として、何らかの計測が必要です。

一般にUHF(Ultra High Frequency)以上の周波数では、電圧や電流を低周波回路のように測定することがむずかしい(部品の大きさを無視できない)ため、ある特性インピーダンスと周波数における「Sパラメータ」として表現します。

測定は被測定対象(被試験対象:Device Under TEST,DUT)へテスト信号を入力し、反射と減衰に関して測定を行います。測定するためには反射波と進行波のエネルギーを分離しなくてはなりませんが、方向性結合器(Directional Coupler)という機器がそれを可能にします。

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写真:方向性結合器、カプラ【撮影:メディアスケッチ】

そのような計測を行う機器にネットワークアナライザがあります。ネットワークとは電気回路網のことで、通常、解析対象は2ポートモデルとよばれる4端子の入出力をそなえたブラックボックスとして表現されます。

Sパラメータの構成要素は2ポートモデルの場合、S11、S12、S21、S22の行列で示されます。

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図:2ポートのSパラメータ【作成:メディアスケッチ】

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写真:8515A  Sパラメータ・テストセット(旧HP(ヒューレット・パッカード)、現キーサイト社) 【撮影:メディアスケッチ】

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写真:8510Cのパラメータ操作パネル【撮影:メディアスケッチ】

 振幅の特性だけを解析するものはスカラ・ネットワークアナライザ(SNA)、位相特性まで同時に解析するものはベクトル・ネットワークアナライザ(VNA)と分類されます。現在ではネットワークアナライザといえばおおむねベクトル・ネットワークアナライザであることが多くなってきましたが、低周波の受動部品・回路の解析や、VSWR(Voltage Standing Wave Ratio)だけの解析で簡易なスカラ・ネットワークアナライザが用いられることがあります。

VSWRの解析に限れば、スペクトラムアナライザとトラッキングジェネレータの組み合わせで測定を行うことも可能です。

また可搬性を重視し、かなり高い周波数までVSWR測定を行う製品も存在します。

デバイスの高周波特性は単一の周波数だけでなく、一定の範囲でテスト信号を入力し、その範囲に対する測定結果としてプロットされます。多くの場合、スミスチャートという図が用いられます。広い周波数における特性を一目で確認できるため、特性評価には大変便利です。

入力する信号は時系列で周波数が変化する信号(スイープ信号、掃引)が用いられます。最近のネットワークアナライザでは一体化したものが多いのですが、HP社の8510シリーズのように外部にスイーパ(掃引信号発生器)を用意して同期制御・測定する方式もあります。

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写真:8510C ネットワーク・アナライザ【撮影:メディアスケッチ】

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写真:8341A シンセサイズド・スイーパ(10MHz – 20GHz)掃引発生器【撮影:メディアスケッチ】

80年代からある8510シリーズ(A/B/C)では、信号発生器(スイーパ)、テストセット、レシーバー(振幅・位相の測定)、プロセッサ・ディスプレイ(測定結果の処理と表示)はそれぞれ別個の機器になっており、測定対象によって構成を変更、アップグレードすることが可能でした。

世間では5G黎明(れいめい)期(サービスの視点から)が始まっていますが、従来の定番ともいえる無線機器に関する分野では、ネットワークアナライザの利用はすでに爛熟(らんじゅく)しています。サービスで主に使われる、28GHz以上の周波数帯域は今後の設計・製造でますます重要になってくるでしょう。

校正キットとコネクタに関する注意

特にVNAの計測では、基準測定面に対する校正を計測前に必ず行います。

手順の詳細は割愛しますが、校正に必要なOpen Short Loadなどの校正アダプタとトルクレンチなどを一式セットにした「メカニカル校正キット」と接続変更やケーブル固定の手間を軽減した「電子校正モジュール」(E-Calibration)があります。

校正にかかる手間や時間は電子校正モジュールで大幅に軽減されますが、校正作業の頻度だけではなく、さまざまな事情によってどちらも使う機会があるため、ネットワークアナライザを使うエンジニアは、暇を見てこれらに習熟しておく必要があります。

接続に使うコネクタは、比較的低い周波数帯域ではN型コネクタ(Type-N)、より高い周波数帯域では機器の製造年代やベンダにもよりますが、7mm, 3.5mm, 2.92mm(K), 2.4mm などのコネクタが用いられます。

それぞれ、コネクタ自体の対応する周波数の上限が異なりますので選定の際には重要なポイントです。

これらのコネクタは、校正モジュールだけではなくDUTと接続する測定用のポート・ケーブルやポート・アダプタ、方向性結合器やアッテネータの接続時にも意識する必要があります。

多くの場合、コネクタ形状は物理的に異なるので問題ありませんが「規格上、互換があってねじ込んでしまえる」3.5mmとSMAコネクタを接続する場合にはかなり神経質になる必要があります。

民生品がGHzオーバーした現在の世界ではSMAコネクタをもつ製品は大変多く、製品としての使われ方も豊富です。

また、コネクタには着脱回数の保証があり、所定の回数を過ぎたものについては所属する機関の取り扱い手順に従って取り扱う必要があります。

機械的に締め付け後の「ぶれ」の少ないコネクタの仕組みではHP社(現キーサイト社)のNMDコネクタなどもあります。

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写真:3.5㎜(F)コネクタ【撮影:メディアスケッチ】

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写真:8515A Sパラメータ・テスト・セットのテストポート【撮影:メディアスケッチ】(NMD、3.5mm オスコネクタ)

VNA本体のタイプNコネクタから7mmコネクタのテストフィクスチャへの接続に用います。

USB Type-Cなど、高速デジタル信号で用いるケーブルの特性測定

USB Type-Cが世に出るようになり、製造者、販売者は伝送品質を保証する場合、所定のコンプライアンス・テストを実施することになっています。

ケーブルの伝送効率をテストする場合、主にダイナミック・レンジの観点からベクトル・ネットワークアナライザを使う方法が推奨されています。テストではケーブル内の12チャネルを差動ペアごとに切り替え、または同時に計測します。

従来のような2ポートのネットワークアナライザを用いる場合、測定対象のケーブルをフィクスチャで接続し、次々とポートスイッチして全チャネルの差動対を順次測定します。

効率のため、全チャネルを同時に計測する場合はPXIなどの計測フレームに、モジュール化されたVNA計測モジュールを複数導入します。

いずれの方法でも、およそ20GHzまで計測可能なVNAが推奨されています。

USB Type-Cだけではなく、一般に超高速な差動ペアでは、数ps程度の波形スキューが品質に影響を与えます。

符号技術やデバイスの進化に伴い、従来のようなTDR(Time Domain Reflectmetry)による測定だけでは不十分であると考えられる用途(高速すぎる差動ペアで起きるISI(符号間干渉)の解析に加えて、複数ケーブル間の相対的な位相情報が必要な場合)に対して、多モジュールのVNAによる解析が要求されるシーンは今後一般的になると予測されます。

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