レーザー顕微鏡は対象物に特定波長の光線を照射し、反射光を測定することで像を得る顕微鏡システムです。
レーザー光は波長がそろっており、また共焦点(コンフォーカル)で光学系を構成した場合には、散乱光を比較的容易に除去できるため、単に光源としてみた場合、通常光を用いた顕微鏡よりも高いコントラストで像を得ることが可能です。
観察対象をスキャンする機構は、従来は試料を固定したステージをX-Y方向に移動させる方式が主でしたが、最近ではレーザーヘッドと光学系を制御して高速に像を得ることができる機種も存在しています。これらのレーザー顕微鏡は対象物を走査して像を得る仕組みですから、走査型顕微鏡の一種として分類されます。
また、共焦点の場合には合焦した状態で最も輝度が高くなるため、対象物の高さを得ることができます。
試料の微細な形状を常温大気中でイメージングする仕組みとしては、レーザー顕微鏡は大変便利です。選定の際には分解能やイメージングの速度、さまざまな付加機能、そして導入・運用の価格、設置条件に合致するかどうか、を考慮します。
照射した光線の反射測定だけではなく、
などを行う機器もあります。
従来の顕微鏡における光学系の仕組みから考えると、顕微鏡内の散乱光は像のぼやけを生じさせる要因です。共焦点の場合、散乱光は光軸と同軸上にあるピンホール形状のフィルタで除去できます。
逆に、この散乱光を分析することで単純な像だけではなく、別の要素も観測できます。
散乱光には、おおまかに分けると
があります。
ラマン散乱光のスペクトル分布を得ることで、対象の結晶構造、分子結合構造などを得ることができます(ラマン分光の仕組み)。 これにより、例えば試料上に浅く埋没、あるいは付着した異物を同定することが可能なため(既知のスペクトルの場合)、異物の発生原因の特定などにも役立ちます。 複雑な高分子の有機化合物などでも信頼性の高い精度で同定が可能ですが、蛍光を放つ試料は苦手ですので、その試料が蛍光を放ちにくい波長の光源で励起してみるか、あるいは近赤外領域の光源を用いた他の解析法と併用することもあります。
さらにラマン散乱光には、元の励起光源の波長よりも長くなるストークス散乱光、短くなる反(アンチ)ストークス散乱光がありますが、一般的なラマン分光解析の場合では、ストークス散乱光を用います。
ラマン散乱光は他の反射光に比べて、とても微弱なため、
が重要になります。微弱光を検出する素子としては、単一チャネルであればPMT(光電子増倍管)やAPD(アバランシェ・フォト・ダイオード)が用いられますが、ラマン分光でスペクトル分布を得る場合には、CCDやCMOSなどのマルチチャネル素子がディテクタとして選ばれます。
図:APD(Excelitas Technologies)【メディアスケッチ撮影】
図:PMT(浜松ホトニクス)【メディアスケッチ撮影】
複合型のレーザー顕微鏡の場合、簡易的に膜厚の測定を行う機能が備わっている場合もありますし、局所的な高さの計測や、突起形状の体積算出、白色光源を使った、広い視野での撮像を可能にする機能もあります。
膜厚計は半導体やフィルム材など、あらゆる材料サンプルの膜厚を計測するために用いられます。単体の膜厚計も用いられますが、レーザー顕微鏡の追加機能として実装されている場合もあります。
膜面で反射した光(Ra)と基材との界面で反射した光(Rb)の位相差、干渉を測定します。この干渉からスペクトルや屈折率を得て、膜厚を算出できます(光干渉法)。
図:膜圧測定の仕組み (メディアスケッチ)
計測結果は分光計の精度に依存します。
膜厚だけではなく表面の粗さ情報が必要な場合は、先ほどのHYBRIDのような複合型レーザー顕微鏡の粗さ測定機能を使えばよいのですが、それでも分解能が足りない場合にはAFM(原子間力顕微鏡)を使います。
片方を固定した超微細な探針(カンチレバー)で対象をなぞり(走査)、上下への変位を正確に計測することで試料の表面形状を得る「顕微鏡」です。
カンチレバーからの変位情報を得る方法にはいくつか例がありますが、カンチレバー上の反射エレメントに照射したレーザー光の反射を調べる方法(光てこ方式、コンタクトモード)や、あらかじめ低周波で上下振動させたカンチレバーを試料に近づけ、振動が原子間力によって変化する度合いを維持しながらステージを動かし、形状を測定する方法(非コンタクトモード)などがあります。振動に用いる低周波信号は、高圧でひずみの少ない信号であることが求められます。