
空調設備の省エネ対策を進める際、設定温度の変更や設備更新だけを検討しても、十分な省エネ効果を得られるとは限りません。
設備ごとの消費電力や冷温水の流量、冷温水の往還温度差や室内の温度・湿度などを確認せずに運転条件を変更すると、快適性を損なったり、別の設備に負荷をかけたりする可能性があります。
本記事では、空調設備の省エネ診断で確認すべき測定項目と、計測データから分かる省エネポイント、診断に使用される計測器について解説します。
空調設備は、オフィスビルや工場、商業施設などにおいて、建物全体のエネルギー使用量に大きく関わります。そのため、空調の運転を改善できれば、大きな省エネ効果につながる可能性があります。
一方で、空調設備の運転に生じている無駄を、目視だけで把握することは困難です。
例えば、室内が十分に冷えていても、冷水ポンプが必要以上の流量で運転していたり、利用者のいない時間帯に空調機が稼働していたりする場合があります。
こうした無駄を発見するためには、設備の消費電力、冷温水の流量や温度、室内の温度・湿度などを測定し、運転状態を数値として見える化することが求められます。
空調設備の省エネ診断では、一つの測定値だけで判断するのではなく、複数の項目を組み合わせて確認することが大切です。
ここでは、省エネ診断で確認すべき主な測定項目を整理します。
消費電力を測定することで、空調設備がどの時間帯に、どの程度の電力を使用しているかを確認できます。
空調設備には、冷凍機やヒートポンプなどの熱源機だけでなく、冷温水ポンプや冷却水ポンプ、送風機、冷却塔など、さまざまな機器があります。
設備ごとの消費電力を測定すれば、電力使用量の大きい機器や、長時間稼働している機器を把握できます。
中央熱源方式の空調設備では、冷凍機やボイラー、ヒートポンプでつくられた冷水・温水を建物内に循環させています。
省エネ診断では、冷温水の流量および、往き温度と還り温度を確認することが重要です。
例えば、流量が多いにもかかわらず往還温度差が小さい場合は、実際の空調負荷に対して流量が過剰になっている可能性があります。ただし、温度差が小さくなる原因は、制御弁やバイパス、空調機側の運転状態などにもあるため、関連する測定値を併せて確認する必要があります。冷温水ポンプが必要以上の流量で運転している場合は、搬送に使用する電力が増加します。
反対に、流量が不足している場合は、末端の空調機で必要な熱量を確保できず、室内温度が安定しない可能性があります。
冷温水の流量と温度差を併せて確認することで、熱源機やポンプ、空調機の運転状態をより適切に評価できます。
省エネ対策を行う際は、室内の温度と湿度も確認する必要があります。過冷房・過暖房などの無駄がないかを調べるとともに、対策前後の快適性を比較するためです。
空調設備の運転を抑えて消費電力が下がったとしても、室内環境が悪化し、利用者の快適性や作業効率を損なっては適切な対策とは言えません。
室内温度を複数の場所で測定すると、窓際や建物中央部など、エリアごとの温度差を確認できます。
一部の場所だけが暑い、あるいは寒い場合は、空調機の設定だけでなく、吹き出し口の向きや風量、日射、室内の発熱なども確認する必要があります。
湿度は、夏季の蒸し暑さや冬季の乾燥に関わります。温度と湿度を同時に測定することで、設定温度だけでは分からない室内の快適性を把握できます。

測定データを取得すると、空調設備がどのように運転され、どこで無駄が発生しているのかを確認しやすくなります。
ここでは、測定データから確認できる代表的な改善ポイントをご紹介します。
電力データを時系列で確認すると、建物を使用していない時間帯にも空調設備が稼働していることを把握できます。
例えば、始業時刻より数時間早く空調を起動している場合でも、実際にはそれほど長い予冷・予熱時間が必要ないことがあります。また、終業後も空調機やポンプが停止せず、電力を消費し続けている場合もあります。
外気温や室内温度の変化と電力データを併せて確認し、適切な起動時刻や停止時刻を見極めることが重要です。
冷温水の流量や設定温度が実際の空調負荷に合っていないと、熱源機やポンプが必要以上に稼働することがあります。
例えば、中間期や負荷の小さい時間帯にも、夏季や冬季の最大負荷時と同じ条件で運転している場合、余分なエネルギーを消費する可能性があります。
この場合、流量や往還温度差、室内温度を確認しながら、ポンプの運転周波数やバルブの開度、冷温水の設定温度を調整することで、搬送動力や熱源機の消費エネルギーを抑えられる可能性があります。
室内の温度・湿度を測定すると、設定温度だけでは分からない過冷房・過暖房や、場所ごとの偏りを確認できます。室内環境と利用状況を照らし合わせることで、設定や運転を見直す手がかりになります。
対策では、快適性を保てる範囲で設定温度や風量を調整し、調整後も室内の温度・湿度と消費電力を確認することが重要です。
例えば、室内の一部が過度に冷えている場合は、空調機全体の設定温度を変更する前に、吹き出し風量やエリアごとの設定を見直すことで、快適性を保ちながら消費電力を抑えられる場合があります。
空調設備の省エネ診断では、測定する項目に応じて計測器を使い分けます。ここでは、省エネ診断に使用される主な計測器をご紹介します。
電力計は、熱源機、ポンプ、送風機などの消費電力を測定するために使用します。
設備ごとの電力使用量を確認することで、どの機器が多くの電力を消費しているのか、運転条件の変更によってどの程度電力が減少したのかを把握できます。
クランプメーターは、電線を挟み込んで電流を測定する機器です。配線を切断せずに測定できるため、現場で電流を簡易的に確認する場合に適しています。
ただし、電流値だけでは正確な消費電力を把握できない場合があります。詳細な省エネ診断を行う場合は、電圧、電流、力率などを測定できる電力計を使用することが重要です。
流量計と温度センサーは、冷温水がどの程度循環し、どの程度の熱を運んでいるかを確認するために使用します。
流量計は、単位時間あたりに流れる流体の量を測定する機器です。配管内に設置するタイプのほか、配管の外側にセンサーを取り付けるクランプオン式があります。
クランプオン式は、配管を切断せずに測定できるため、短期間の省エネ診断にも利用しやすい方式です。ただし、配管や流体の条件によって適用できる機種が異なるため、事前に仕様を確認する必要があります。
温度センサーを冷温水の往き配管と還り配管に設置すれば、温度差を確認できます。流量と温度差を併せて測定することで、冷温水によって搬送される熱量を把握するための手がかりになります。
データロガーは、温度や湿度、電力などの測定値を一定間隔で記録する機器です。
空調設備の負荷は、時間帯、外気温、建物の利用状況によって変化します。そのため、一時点の測定だけでは、運転実態を十分に把握できないことがあります。
データロガーを使用すれば、数日から数週間にわたって測定値を記録し、空調の起動時間、ピーク電力、室内温度の変化などを確認できます。
空調設備の省エネ診断では、常時監視が必要とは限らず、数日から数週間の測定によって運転傾向を把握できることもあります。
短期間だけ電力計、流量計、データロガーなどが必要な場合は、購入に代えてレンタルを活用する方法があります。
レンタルであれば、使用頻度の低い計測器や高性能な機器を、必要な期間だけ用意できます。夏季や冬季など、空調負荷が大きくなる時期に限定して測定したい場合にも適しています。
また、将来の常設監視を検討している場合は、診断内容に応じて複数の計測器を使用し、今後の常設監視に適した機器を検討することも可能です。
空調設備の省エネ診断では、消費電力や冷温水の流量、冷温水の往還温度差や室内の温度・湿度などを測定し、現在の運転状態やエネルギー使用状況を見える化することが重要です。
消費電力を測定すれば、電力使用量の多い機器や、不要な時間帯の運転を把握できます。冷温水の流量と往還温度差を確認すれば、熱源機やポンプが実際の負荷に合った状態で運転されているかを判断する手がかりを得られます。
室内温度や湿度の測定は、過冷房・過暖房を見つけ、快適性を維持しながら運転条件を調整するために欠かせません。
測定結果に基づいて、運転時間や冷温水の設定温度・流量、室内の設定温度などを見直し、調整後に再測定して効果を確認することが、継続的な省エネにつながります。