測定器 Insight

フィルタの周波数特性と波形応答

 電子計測では、測定の精度を上げたりダイナミックレンジを広げたりするために、特定の信号の選択的な抽出やノイズ除去の機能を持つ「フィルタ」がよく使われます。代表的なのが、低い周波数のみを通すローパスフィルタ、高い周波数のみを通すハイパスフィルタ、その両者を組み合わせたバンドパスフィルタの3種類です。いずれも周波数によって通す/通さないを制御しますが、「ある周波数帯は完全に通し、それ以外は完全に遮断する」という理想的なフィルタは存在せず、実際にはそれぞれの減衰特性をよく知って使い分けなければなりません。

ここでは、ローパスフィルタの方形波に対する時間応答(ステップ応答)を中心に、フィルタの特性による違いを見ていくことにします。

ローパスフィルタの動作イメージ

 電子計測で扱う信号は多くが周期的に変動する波であり、オーディオのアナログ信号のような複雑な波形もあれば、デジタル信号で使われる方形波のような単純な波形もあります。アナログにせよデジタルにせよ周期関数は全て正弦波の組み合わせで表現できるため、フィルタの特性についても正弦波に対する応答を考えるのが基本です。

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図1:正弦波はすべての周期関数の基本

例えば図2のように、sin(x)を基本とする6次までの高調波(振幅は全て1)を例に取ると、これらの信号をローパスフィルタに通した後の波形は図3のようなイメージになります。

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図2:振動1の正弦波

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図3:ローパスフィルタ修理後

振幅周波数特性と群遅延特性の理想形と影響

要点は以下の通り、

  1. カットオフ周波数以下の周波数(通過帯域)では振幅が維持され、カットオフ周波数以上の周波数(阻止帯域)については次第に減衰する
  2. 遅延が発生し、遅延幅は周波数により異なる

となり、この2点はフィルタの性能を表す重要な指標で、それぞれ振幅周波数特性、群遅延特性と呼びます。振幅周波数特性は「通過帯域では平たん/阻止帯域では急激に減衰」することが望ましく、この特性が悪いとリップルの発生や、高周波を十分に除去できないなどの現象が起きます。群遅延特性は周波数にかかわらず一定の遅延時間となることが望ましく、この特性が悪いと方形波の波形が乱れやすくなります。

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図4:振幅周波数特性と群遅延特性のまとめ

ローパスフィルタの中でも代表的な方式にバタワース(butter worth)フィルタとベッセル(bessel)フィルタの2種類がありますが、バタワースフィルタは振幅周波数特性が良好で特に通過帯域の平たん性が優れているのに対して、ベッセルフィルタは群遅延特性が良好な特長があります。そこで、バタワースフィルタはスペクトルを重視する用途に、ベッセルフィルタは波形を重視する用途に向いているといえます。

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図5:パタワースフィルタとベッセルフィルタの比較

手短な結論としては以上ですが、より理解を深めるため、ここから先はそれぞれのフィルタが具体的にどのような特性を示すのか詳細に見ていきましょう。

バタワースフィルタ:通過帯域が平たんなフィルタ

 バタワースフィルタは「通過帯域が可能な限り平たん」となるような応答特性を指す用語であり、最大平たん型(max flat)と呼ぶ場合もあります。図6はローパス型バタワースフィルタの振幅周波数特性の例で、通過帯域(図6では低周波側)にリップルが無く平たんなのが特徴です。阻止帯域では次数によって異なる減衰傾度を示し、高次のものほど急激に減衰します。減衰傾度は1次につき-6dB/octであり、8次なら-48dB/octとなります。

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図6:バタワースフィルタの振幅周波数特性

バタワースフィルタでは方形波が乱れやすい

振幅周波数特性では滑らかな形をしているバタワースフィルタですが、方形波を入力した場合の出力波形(ステップ応答)では、次数が高くなるにつれて立ち上がりに大きなオーバーシュートやリンギングという振動的な波形が発生してしまいます(図7)。

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図7:バタワースフィルタのステップ応答

ローパスフィルタを通すと波形の角が丸くなって立ち上がりの傾斜が緩くなるため、「波形の暴れ」を減らす目的でローパスフィルタが使われることもありますが、上記はかえって暴れが悪化している例です。これは予測しにくいことかもしれません。

これがローパスフィルタではなくバンドパスフィルタであれば、共振回路としての要素を多く含んでいることから、出力に振動的な波形が現れることも感覚的にある程度予測できます。あるいはローパスフィルタの振幅周波数特性がピークを持つ場合もステップ応答は振動的になります。図8、9、10にその一例を示しました。

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図8:周波数特性にピークがあるローパスフィルタ

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図9:上記のステップ応答

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図10:上記の特性を持ったLCR回路

ちなみに、このような例は、計測器に接続するケーブルのインダクタンスと計測器の入力インピーダンスなどで不用意に形成される回路で起こりがちな現象です。このため、オシロスコープなどで図7のような応答波形を見た場合に、「フィルタがローパスではなく、バンドパスに近くなっている」と判断してしまうことがあります。

ところが、図7のオーバーシュートやリンギングは、振動を生じるような特定の周波数成分を強調する働きが無いばかりか、遮断周波数を超える周波数成分は確実に減衰するバタワースフィルタの応答です。それにもかかわらずこのような現象があるのは、フィルタを通ることで「位相の回転」が起こるためです。

 

信号がフィルタを通過するときに発生する「位相の回転」とは?

位相の回転は、信号がアンプやフィルタなどの電子回路を通過する際に必ず起こります。

図11は、信号がアンプやフィルタなどの電子回路を通過する際には、少なからず時間遅れが生じることを示したものです。この遅れによって正弦波信号の位相がズレる、つまり「位相が回る」現象が起きます。あるいは正弦波が時間的に後ろへ移動することを意味することから「移相:phase shift」と表現される場合もあります。

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図11:入出力間の時間遅れ

次に、同じ時間遅れで周波数が変わった場合を考えます。(図12)

時間遅れが同じ場合は、位相の回転量と周波数は比例します。例えば、周波数がFの信号と2×Fの信号がフィルタに入力され、ある時間後に入力と同じ波形の信号が出力に現れたとします。このときのFの位相回転(移相量)がφだったとすると、2×Fでは2×φだけ位相がシフトして出力に現れていることになります。

Fと2×Fの出力側信号の波形は、時間が遅れただけで入力側信号と全く同じ形が出力側に現れていることに注意してください。このように、周波数が違っても遅れ時間が同じであれば問題は起きません。

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図12:入出力間の位相関係

周波数によって遅れ時間に差があると波形が変わってしまう

 ところが、周波数によって遅れ時間に差があると困った現象が起きます。

図13の黄色の線は周波数がF(Hz)の正弦波sin (ωt) [青色:ア] と周波数が3倍(3F)で振幅が1/3の信号 1/3 sin(3ω) [赤色:イ] とを合成した波形を示しています。

この信号がフィルタを通ったときに、Fで移相がφ回転したとすれば、3Fの成分で位相が3φ回れば、出力には入力と同じ[黄色:ア+イ]の形をした信号が現れます。つまり、遅れ時間が一定の場合は

  • 周波数Fの正弦波 → 位相がφ回転
  • 周波数3Fの正弦波 → 位相が3φ回転

ということで、周波数と位相の間に F→3F、φ→3φ というリニアな関係が成り立ちます。

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図13:正弦波の合成1

これに対して図14は、3Fの信号だけがさらに180度(π)回転してしまったときの波形を示しています。つまり、

  • 周波数Fの正弦波 → 位相がφ回転
  • 周波数3Fの正弦波 → 位相が3φ+π回転

ということであり、周波数と位相にリニアな関係が成り立ちません。これは、Fよりも3Fの方が時間遅れが大きい回路を通した場合の出力波形に相当します。

図14を見ると、アとイは周波数も振幅も図13と変わっていないにもかかわらず、両者を合成した波形 [黄色] は大きく異なっています。

合成された波形は図13と比べて、振幅が大きくなり、振動的要素が強まったように見えることに注目してください。

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図14:正弦波の合成2

つまり、アンプやフィルタでは、振幅の周波数特性が平たんだとしても、周波数と位相の間にリニアな関係が成り立たない(周波数によって遅れ時間に差がある)と、波形が大きく変わってしまうのです。

バタワースフィルタの位相特性はリニアではない

 ここで、話をバタワースフィルタに戻しましょう。

実は、バタワースフィルタのステップ応答でオーバーシュートやリンギングが生じるのは、周波数対位相の特性(位相特性)がリニアではないことに起因しています。

図15にバタワースフィルタの位相特性を示しました。

オーバーシュートやリンギングは、遮断周波数付近の位相特性が特に大きく影響します。図15でも遷移域でカーブが曲がっているのが分かります。

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図15:バタワースフィルタの位相特性

さらに図16では曲がりの様子をよりハッキリさせるため、位相回転を周波数について微分しています。

図16の表現法はフィルタの「群遅延特性」と呼ばれます。
位相特性はステップ応答などを検討する際に直感的で分かりやすい表現です。
一方、群遅延特性は周波数に対する位相回転の非直線性が顕著に表れます。

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図16:バタワースフィルタの群遅延特性

群遅延特性はバースト信号や変調信号などに対する影響を検討する際などにも重要な評価項目です。

そして、バタワースフィルタを群遅延で見ると、次数が高くなるにつれ、遮断周波数を中心とする周波数範囲でカーブが大きくうねっている様子がよく分かります。

ベッセルフィルタはリニアな位相特性を持つ

 そこで、位相回転が周波数に対して比例関係を保つようにして、オーバーシュートやリンギングなど波形の変形をできるだけ抑えるように考えられたのが「ベッセル(bessel)特性」のフィルタです。

このため、ベッセルフィルタを位相直線型などと呼ぶことがあります。

図17、18にベッセル型ローパスフィルタの位相特性と群遅延特性を示します。

位相特性で見るとバタワースとの違いが分かりにくいかもしれませんが、群遅延特性で見ると、うねりの無い特性をしており、バタワースとの違いがよく分かります。

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図17:ベッセルフィルタの位相特性

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図18:ベッセルフィルタの群遅延特性

そして、図19はベッセルフィルタのステップ応答です。

ベッセル特性のフィルタにはバタワースで生じたオーバーシュートやリンギングがありません。

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図19:ベッセルフィルタのステップ応答

それならば、フィルタは全てベッセルにしてしまえばよいように思えます。

ところが、そうはいかない理由があります。
図20はベッセルフィルタの振幅周波数特性です。

また図21は比較のために同じ8次系でバタワース特性のフィルタと重ね合わせたものです。

両者を比べると、ベッセルはバタワースに比べて遮断周波数付近の減衰が緩やかであることが分かります。
つまり、フィルタとしての切れ具合ではバタワースに軍配が上がります。

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図20:ベッセルフィルタの振幅周波数特性

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図21:ベッセル(赤)とバタワース(青)の振幅周波数特性比較

結論としては、A/D変換前のアナログ信号処理のような波形を重視する用途ではベッセルが適し、オーディオ信号のようなスペクトルを重視する用途ではバタワースが優れていることになります。

なお、ベッセルとバタワースはフィルタの代表的な特性ですが、フィルタにはこの二つ以外にも多くの特性があります。

特に最近では、アナログ信号をデジタルで処理する際に用いるアンチエイリアシングフィルタ用に急峻(きゅうしゅん)な特性を持つさまざまなフィルタが用いられています。

計測においてもデジタル処理が多くなっていることから、アンチエイリアシングフィルタを理解しておくことは測定したデータを解析する上で極めて重要なことです。

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