
インドにおける半導体の国産化に向けた取り組みが新たなフェーズに入りました。前工程、後工程、化合物など幅広い半導体工場の整備が進む中、サプライチェーンの構築に向けて、設計、装置、材料などへの支援が2026年から本格的に始動する見通しで、先端プロセスの構築に対する検討も行っています。
インド政府は2021年12月、電子産業(半導体およびディスプレイ)の誘致・育成を図る包括的な政策プログラムを発表。インド電子情報技術省の傘下で、半導体政策の立案と実行を担う「インド半導体ミッション」(ISM)が創設されました。プログラムの予算総額は7600億ルピー(約1.3兆円)で、半導体工場などの整備に対して最大50%の財政支援を提供することなどが盛り込まれています。
その中で、マイクロンテクノロジーがグジャラート州サナンドで、メモリーの組立・テスト工程を手がける工場を2026年3月に開設しました。投資規模はインド政府の補助を含めて、総額27億5000万ドルで、第1期投資ではクリーンルームスペースを最終的に約4.6万㎡確保。開所式にはマイクロンのサンジェイ・メロートラCEOのほか、インドのモディ首相も参加しました。新拠点では商業生産をすでに開始しており、開所を記念してマイクロンは新拠点で生産したメモリーモジュールを、ノートパソコン向けとしてDell Technologiesへ提供しました。マイクロンは2026年内に新拠点で数千万チップの組立・テストを手がける計画で、2027年には数億チップ規模に拡大する予定です。
日本企業ではルネサス エレクトロニクスが、CGパワーなどと合弁で後工程工場のプロジェクトを進めているほか、2025年12月にはロームがインド大手財閥タタ・グループ傘下のエレクトロニクス製造会社、タタ・エレクトロニクスと半導体製造に関する戦略的パートナーシップを締結しました。
また2026年5月に、インド政府が新たに2件のプロジェクトを承認しました。投資額は合計で393.6億ルピー(約660億円)に上り、2,230人の熟練人材の雇用を見込んでいます。1件目は、ミニ/マイクロLEDディスプレイモジュールの製造を手がけるCML社(Crystal Matrix Limited)です。グジャラート州ドレラに化合物半導体の製造とATMP(組立・テスト・マーキング・パッケージング)の統合施設を建設し、6インチウエハーへのエピ成長を含むGaNファンドリーサービスも提供する予定です。
年間生産能力は、LEDディスプレイパネルが7万2000㎡、GaN LEDエピウエハーはRGBベースで2万4000セットを予定しています。製品は、テレビやサイネージといった商業向けの大型パネル、タブレットやスマートフォン、車載向けの中型ディスプレイ、さらにARグラスやスマートウオッチなどに応用されます。
2件目は、ディスクリートOSAT(後工程受託)のSuchi Semicon Private Limited(スチ・セミコン)です。グジャラート州スーラトにOSAT施設を整備し、年間で10億3320万チップの生産能力を確保する予定です。対象用途はパワーエレクトロニクス、アナログIC、産業システムなどで、自動車や産業オートメーション、家電製品などのエンドマーケットに供給します。
これら2件の承認で、ISMが承認したプロジェクト総数は12件となり、累積投資額は約1兆6400億ルピーに達しました。これまでに承認済みの10件はさまざまな実行段階にあり、2件がインドから商業出荷をすでに開始し、さらに2件が間もなく商業出荷を開始する予定といいます。

ISM2.0では、設計・装置・材料・人材など、半導体製造を支える基盤にも焦点が当てられている。
2026年2月にISM2.0が発表され、インドの半導体国産化プロジェクトは新たなフェーズに入りました。ISM2.0は、インド国内での半導体製造装置や半導体材料の生産、設計、人材育成、サプライチェーンの強化などに焦点が当てられており、インド政府は2026年度(2027年3月期)予算において、ISM2.0関連で100億ルピー(約170億円)を計上しています。 すでに複数の動きがあり、化学大手のメルクはタタ・エレクトロニクスと、インドにおける半導体製造で連携することを2025年9月に発表。タタ・エレクトロニクスが整備している半導体工場に、メルクが半導体材料、サブファブシステム、特殊化学品、ガス供給などの面で協力します。また、日本企業では、富士フイルムがタタ・エレクトロニクスとインドでの半導体材料の生産体制およびサプライチェーンの構築に向けた協力で2025年5月に合意しました。また、東京エレクトロンが同じくタタ・エレクトロニクスと協力することで2024年9月に合意しました。 インドの電子情報技術省の試算では、インドの半導体市場規模は現在450億~500億ドルとみられ、これが2030年までに1000億~1100億ドルまで拡大すると予想されています。こうした中、ISM2.0では2029年までに、インド政府はインド国内で使用する半導体の約70~75%に必要な設計・製造能力を獲得することを目指しています。そしてISM2.0の次として、3~2nmのプロセスを実現するための明確なロードマップを策定し、2035年までに世界トップクラスの半導体大国となることを目指しています。 このように幅広いプロジェクトが進むインドにおいて、懸念が生じているのが、タタ・エレクトロニクスによるグジャラート州ドレラでの前工程拠点プロジェクトの進捗です。タタ・エレクトロニクスは前述のようにさまざまな企業とすでに連携しており、インド半導体における中心的存在です。そして、それらの連携はドレラ工場の稼働が前提となっています。しかし、ドレラ工場は土壌が想定より軟質であることが2025年末に判明して基礎設計を見直したことに加え、現地報道などによると、タタ・エレクトロニクスの建設責任者が辞任したとされています。こうした点を含めてプロジェクトは遅延気味とされ、「現時点では半分が完成した状況」(業界関係者)とみられます。計画当初は2026年末の稼働が見込まれていましたが、現在は2027年年央の稼働が予想されています。 一方で、インド政府がドレラの敷地約66万㎡を、半導体専用の特別経済区に指定しました。これにより今後さまざまな認可がスムーズに進むことが予想されます。いずれにしても、ドレラ工場の存在感はインドの半導体プロジェクトの中で別格に大きいことから、今後の動きをこれまで以上に注視する必要があるでしょう。