測定器 Insight

方形波の性質と計測上の扱い

レンテックインサイト編集部

 電子回路の多くがデジタル化されたのに伴い、計測の対象となる信号も、方形波(矩形(くけい)波)やパルス状の波形である場合が多くなりました。 方形波の性質と扱いはエレクトロニクスの基本でもあり、多くの方が過去に教科書などで学ばれていると思いますが、ここでは、電子計測を意識しながら、それらを復習することにします。

正弦波と方形波

 方形波について考えるにしても正弦波の理解が基本となりますので、まずは正弦波のおさらいをしましょう。 図1は周期Tで繰り返される周波数fの正弦波の例です。正弦波はシグナルグラウンド(SG)の電位を基準に上下等しい振幅(+Vp,-Vp)で変動する交流として考えることができます。 Vp-pのp-pはpeak to peakの略で、波の上下端の差を表し、2Vpに等しくなります。

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図1:周波数f=1/Tの正弦波

正弦波は波の中で最もシンプルなものであり、ほかの複雑な波もこの正弦波の組み合わせによって合成することができます。 正弦波の合成を考える時に重要なのが、基本波に対して整数倍の周波数を持つ「高調波」という概念です。 例えば図2は基本波に対してその2倍、3倍の周波数を持つ高調波を例示したものです。 基本波が1周する間に高調波は2周3周していることがお分かりいただけるでしょう。「n倍の周波数の高調波」のことを「n次高調波」と呼びます。

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図2:基本波と高調波

一方、正弦波ではない波で代表的なのが、デジタル回路で使われる方形波です。 図3は周期T、パルス幅T/2の方形波を表しています。 方形波は通常、SGの電位をロー(L)、高電位をハイ(H)として、信号レベルがHまたはLのどちらかの値を取るように回路を設計します。 図のように波形が角張った形(方形、矩形)になるため方形波または矩形(くけい)波と呼ばれますが、本記事では方形波に統一します。 方形波では周期Tに対して信号がHレベルを取る区間の幅をτ(タウ)で表し、τ/Tをデューティ比と呼びます。

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図3:周波数f=1/T、デューティ比50%の方形波

方形波には高調波が含まれる

方形波を扱う際に極めて重要なのが、方形波とは基本波と高調波を重ね合わせたものであるということです。 図4で基本波に対して5次までの高調波を重ね合わせたものを例示しましたが、次数が高くなるほど矩形(くけい)波に近づくことがお分かりいただけるでしょう。

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図4:方形波は基本波+高調波の重ね合わせ

このように、方形波はnを整数として sin(nx)/n の高調波を重ね合わせることで得られます。 デューティ比50%の方形波を合成する式は下記のように奇数次の高調波のみを加算したものになります。 重ね合わせる高調波の次数を無限に高くしていった極限が完全な方形波です。

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図5:デューティ比50%の方形波の合成式

従って、方形波をスペクトラムアナライザーにかけると図6のように基本波の整数倍の高調波のみが立ったスペクトラムが得られます。

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図6:方形波のスペクトラム

そこで、回路設計や計測を行うにあたっては、方形波は高調波成分を含むということに注意しなければなりません。 しかも高調波は高次ほど小さくなるとは言っても、n次になっても1/nにしかならないためなかなか低減しません。 高調波成分が-20dB (1/10)を下回るのは第11次高調波以降であり、周波数が1000倍に達してやっと-60db (1/1000)になります。 ただし実際の回路上では完全な方形の信号は実現不可能で、波形の角が鈍る分だけ高次の高調波はこれより少ないのですが、理論上の基本としては知っておく必要があります。

では、このことが計測や回路設計にどのような影響を与えるのでしょうか?

方形波の高調波成分が回路/伝送路設計に与える影響

 第一に、方形波には非常に高次の高調波が含まれるため、それを扱うためには周波数帯域の広い回路や伝送路が必要になります。 当然それは計測器で方形波を扱う場合も同じで、計測器は十分に広い周波数帯域を持ったものでなければなりません。 大まかな目安として、方形波を誤差無く扱うには基本波周波数の10~20倍の帯域が必要とされています。 (ただし、最近の高速デジタル信号では回路の周波数帯域が追いつかず、基本波周波数の3~5倍程度と、方形波として扱える限界付近で動作しているものもあります。)

第二に、方形波がノイズとなって周囲の回路に影響を与える可能性がある、ということです。 前述のように方形波は高次の高調波を含むため、思いもよらぬ高い周波数までノイズをまき散らす可能性があります。 例えば、クロック周波数が10MHzのデジタル信号から発生したノイズがGHz帯の回路に影響を与えるといったことも珍しくありません。 従って、方形波を扱う際には、並行して十分なノイズ対策を施すよう心がけてください。

フィルターなどの位相が回る回路に注意

方形波は基本波と各高調波が合成された波形だと考えることができますが、その場合、各高調波の位相がそろっていなければ、たとえ各高調波成分の値が正しくても方形波にはなりません。 図7は方形波を構成する5次までの高調波の各成分の位相をそれぞれ異なる角度だけ進めた例で、方形波の形が崩れてしまうことが分かります。

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図7:位相がずれると方形波の形が崩れる。

フィルターのような回路では入力→出力の間で発生する時間差が周波数によって一定でないため、このような現象が発生します。 人間の耳は位相ずれには鈍感なためこれが起きても気が付きませんが、デジタル信号としては成り立たなくなるため位相が回転する回路に方形波を通す場合は細かな注意が必要になります。

デューティ比50%以外では偶数次高調波が現れる

ここまではデューティ比50%(1:1)の方形波を例示してきましたが、このような信号が出現するのはクロックなどに限られています。 実際のデジタル信号の多くはデューティ比が50%以外または刻々と変化していて、そのスペクトラムを取ると偶数次の高調波も現れます。 図8はデューティ比1/5弱の方形波のスペクトラムの例です。

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図8:デューティ比50%以下の方形波のスペクトラム

整数倍の高調波のみが現れることと、全体として高次になるほど低減するのは50%の場合と同じですが、包絡線を描くと1/τ、2/τの位置で0になっているのが目立ちます。 これが方形波スペクトラムの基本的な性質です。デューティ比が1:1の場合はこの1/τ、2/τ・・・の点がちょうど2f、4f・・・と偶数次の高調波に重なるため、奇数次のみが残る形になります。

デジタル信号の「周波数」は刻一刻と変わる?

周期Tのクロックに同期させて、1をH(ハイ)、0をL(ロー)とするデジタル信号を送るとしましょう。 信号1のデータが 10101010だとすると、電気的には周期2T、デューティ比50%の方形波が信号線上を流れます。 信号2のようにデータが10001000の場合はそれぞれ周期4T、デューティ比25%になります。

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図9:デジタル信号の周期・デューティ比は刻一刻変わる

 ノイズを考える場合、このようにデジタル信号の周期は送るデータによって刻一刻変わる可能性があることにも注意しなければなりません。 なお、マンチェスタ符号のようにどんなデータでもHまたはLが長く連続しないような方法で符号化するとこの現象は起きません。

単発のインパルスはあらゆる周波数を含有する

 ところで、繰り返し周波数を限りなく下げると同時に、デューティも限りなく小さくするとスペクトラムはどうなるでしょうか?
周波数を下げると図6や図8のfを左に寄せることになるため、スペクトラムは密集していきます。

同時にデューティ(τ)を小さくしていくとSin(nx)/nxが0になる1/τの周波数も高い側へとシフトしていきます。
両者が極限に達した状態を考えると、スペクトラムは周波数上で連続し、かつ無限の周波数まで一定で減衰しないことになります。
つまり、極限では、あらゆる周波数成分を等しく持つことになります。
これを時間軸で考えると、周波数を下げることは信号が孤立する方向、つまり単発現象に近くなることに相当し、デューティを小さくしていくことは方形波が細いパルスになることに相当します。

それらの極限は、孤立した幅の無いパルスであり、こうしたパルスはインパルス(impulse)と呼ばれます。
つまり、「インパルスは、あらゆる周波数成分を含有している信号である」という結論が導かれます。
この性質を利用してインパルスを計測用の信号源として利用する場合もあります。

例えば、比較的大型の構造物の振動特性(伝達関数)を計測する場合などには、計測対象をハンマー(インパルスハンマー)でたたいて発生する衝撃波(インパルス)を信号源として解析します。
なお、全周波数にスペクトラムが分布しているとすると、パルスのパワーを論議する際に矛盾を生じるため、単位インパルスという別の定義が必要になります。
ですが、方形波が孤立し、短い単発パルスとして存在するとスペクトラムが高い周波数まで一様に分布する方向へ向かうという性質に変わりはありません。
具体的な問題例を挙げれば、スイッチの切り替えなどで生じる鋭いパルス状の信号は、広い周波数にわたって一様にノイズを放射する危険性があります。

アナログ波形としての方形波の品位を評価するパラメータ

以下は、計測器で方形波を扱う際の実戦的な話題です。
デジタル信号をアナログの方形波として評価する場合の主要なパラメータとしては、 信号のレベル、繰り返し周期(周波数)、デューティ比、ジッタなどのほかに、立ち上がり時間やオーバーシュート、リンギングなど波形の品位に関する項目があります。

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図10:方形波の波形品質項目

オーバーシュートやリンギングは、波形の過渡的な変動量を表します。
また、波形の立ち上がり部分の変動をプリシュートと呼んで区別することもあります。
多くの場合、立ち上がりと立ち下がりでは上下対称の波形となりますが、立ち下がり部分の行き過ぎ量をアンダーシュートとして区別して扱うこともあります。
例えば、映像信号などではローレベルに落ちる部分の暴れが画質に大きな影響を与えるため、アンダーシュートの量が問題になります。
なお、信号が立ち上がってから許容される範囲内に落ち着くまでの時間を、セトリングタイム(settling time)として定義することもあります。

これらの、デジタル信号をアナログ波形として評価する場合の波形品位を総称して、シグナルインテグリティ(signal integrity)などと呼ぶことがあります。

図11は方形波の立ち上がり時間をオシロスコープで計測する様子を示したものです。
一般的に方形波の立ち上がり時間は全体の10%から90%に至る時間をもって定義されますが、最近の高速デジタル信号などでは20%から80%までの時間と定義している例もあります。

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図11:立ち上がり時間の計測

方形波の大きさを計測する場合の注意

 オシロスコープなどで波形を観測する場合は、ハイレベルとローレベルの差、すなわちpeak to peak voltage [VP-P]で表記するのが一般的です。

この場合、ハイとローの絶対値の情報は含まれないため、0Vと3Vでも±1.5Vでも同じVp-p値になってしまうことに注意してください。

必要があれば、0V-3Vや±1.5Vのように表記するのが適当でしょう。

方形波をAC結合で観測する場合の注意

 方形波をAC結合(コンデンサーを介した信号接続)で観測する場合はさらに注意が必要です。
まず、繰り返しの比較的遅い信号の場合は波形の水平部分が斜めに見える「サグ」に注意します。

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図12:AC結合によるサグの発生

高速の信号の場合は、計測器の周波数特性(前述)のほかに、波形の持つ直流分に対する注意も必要です。

方形波はハイとローのレベルが正負同じであっても、デューティ比が50%の時を除いて波形は直流分を持ちます。

直流分を含む方形波をAC結合で観測すると、波形は直流分を打ち消すように上または下にシフトします。(図13)

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図13:AC結合による波形の上下移動

図13でハッチングを入れた面積が等しくなるように移動するわけです。

従って、もしデューティ比が時間と共に変化する信号があったとすると、波形全体があたかもフラフラと上下に変動する信号のように見えます。

方形波を電圧計で測る場合の注意

 次は、方形波を電圧計で測る場合の指示についてです。
特に断りの無い場合、方形波を含む交流信号の大きさは「実効値」で表す約束になっています。
しかしながら、交流信号として最も一般的な正弦波の計測を想定した計測器では、正弦波の平均値を検出した後にその値(平均値)を実効値に換算(π/2√2 = 1.11倍)して表示する 「平均値応答・実効値指示」方式を採用しているものが多数存在します。
この平均値応答・実効値指示方式の計測器(電圧計など)に方形波を入力した場合、その指示は本来の方形波の実効値とは異なった値になります。

さらに、方形波は多くの場合直流分を含みますが、交流計測器の多くは入力がAC結合されているため、直流分を除いた値が表示されます。
直流分を含む値を求める場合は、直流分だけを取り出して別途計測し、両者の二乗の和の平方根から算出します。
以下にAC結合された方形波の実効値と平均値、そして平均値応答・実効値指示方式の計測器での指示の関係をまとめてみました。

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図14:方形波の実効値・平均値・平均値応答型測定器での指示 関係図

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図15:方形波に対する電圧計の応答

 平均値応答・実効値指示による誤差を解決するために、デジタルマルチメータなどでは、どのような波形でも実効値を指示する「実効値応答・実効値指示」方式を採用した機種も増えています。
このタイプの計測器は真の実効値指示(true rms responding)などと呼ばれ、方形波でも実効値が表示されるので便利です。
ただし、計測器の周波数特性が方形波の高調波周波数まで十分に伸びていることが条件であることは言うまでもありません。

また、多くの場合、クレストファクタ(波高率)に制限があります。
クレストファクタのクレスト(crest)とは、ニワトリのとさかや山の頂などを意味し、クレストファクタは、波形の「尖(とが)り具合」を表す指標として使われています。
波形の尖(とが)った信号では、実効値(計測器の指示値)が計測レンジの範囲内にあっても、ピーク値がレンジの最大値を超え飽和してしまうことがあり、大きな誤差が発生します。
クレストファクタは具体的には、信号の実効値とピーク値の比率として定義されます。
上の表と図からは、デューティ50%の方形波のクレストファクタは1になることが分かります。
さらに、デューティが30%の時のクレストファクタは約1.5に、10%では3に、2%で7になります。(AC結合)
ちなみに、正弦波のクレストファクタは1.4(=√2)、三角波では1.7(=√3)です。

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