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メモリとアドバンストパッケージング ――「バイトをどう運ぶか」が決める次の競争軸【半導体Insight|有識者コラム】

合同会社アミコ・コンサルティング 友安 昌幸

測定器 Insight メモリとアドバンストパッケージング ――「バイトをどう運ぶか」が決める次の競争軸【半導体Insight|有識者コラム】

はじめに

2025年ごろから約5年間にわたって、半導体の競争軸は「演算能力」から「メモリ容量とデータ搬送効率」へとシフトしていくと考えられています。生成AIやエージェント型AIの普及によってメモリ需要はかつてないほど逼迫し、HBM(高帯域幅メモリ)やDDR5/DDR6への移行が加速しています。モノリシックSoCの微細化も限界に近付きつつあり、2.5D/3Dパッケージングやチップレットといったアドバンスドパッケージング技術がボトルネック解消の鍵となっています。

本稿では、このメモリ・パッケージングの潮流を俯瞰し、競争の主戦場が「バイトをいかに効率的に、どう運ぶか」に移っている理由と、その中期的なビジネス機会を探ります。

HBMとチップレットを近接配置してデータ搬送距離を短縮する先端パッケージの概念図

演算チップとメモリを近接させ、データ搬送効率を高める先端パッケージの考え方

1 AI需要が引き起こすメモリ産業の構造変化

1.1 メモリ市場の「スーパーサイクル」

長期的な供給逼迫と価格高騰:2026年初頭、半導体業界ではメモリ市場が長期的な上昇局面に入ったと指摘され、DRAMとNANDが2028年まで不足する見通しが語られています。MicronはHBM市場のTAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模 )が2025年の約350億ドルから2028年に1,000億ドルまで拡大すると予想し、Bloomsbury Intelligence and Security Institute (BISI)は「メーカーが一般DRAMをHBM向けに再割り当てしたことでDRAM価格が前年比171%、DDR5スポット価格が4倍に跳ね上がった」と分析しています。

AIデータセンターが需要を独占:2026年メモリ市場では、スマートフォンやPC向けよりもAIデータセンターが主役となっています。市場調査会社のTrendForceは、AIデータセンターが2026年のハイエンドメモリ生産能力の約70%を消費すると推計しました。同社のリサーチによると、グローバルメモリ市場は2026年に5,516億ドル、2027年には8,427億ドルに達し、年率53%で成長するとされています。DRAM売上高は2025年に1,657億ドル(前年比73%増)となり、NANDの697億ドルを大きく上回っています。

価格急騰と容量シフト:2026年第1四半期の標準DRAM契約価格は、当初予想の55~60%増から90~95%増へ上方修正され、2026年通年では150~200%の値上がりが予測されています。これは、Samsung、SK hynix、Micronが既存DRAM/NANDの生産能力をHBMやサーバー向けDDR5へ転換したことが原因です。HBMは多数のDRAMダイを垂直に積層するため、単位容量あたりのウエハー面積が増え、供給が逼迫しています。DRAM需要の66%がAIおよびサーバー用途に向かい、DellのCEOがは一部のシナリオではメモリ需要が625倍に跳ね上がったと述べました。NANDについても2026年第1四半期の契約価格上昇率が33~38%から55~60%に引き上げられ、第2四半期には70~75%にまで上昇し、Kioxiaでは2026年のNAND生産能力がすでに完売しています。

HBM需要と寡占化:HBMはAIアクセラレータ向けとして不可欠なものとなり、市場規模は2026年に546億ドル、2028年には1,000億ドルに達すると見込まれています。SK hynixが50〜60%のシェアでトップを維持し、SamsungもHBM3EやHBM4の投入で追い上げ、Micronも積極的な設備投資を行っています。SK hynix、Samsung、Micronの三社ともとも2026年までのHBM生産能力を売り切ったと報告されています。HBM4は2026年に量産開始予定で、主流は12層スタックとされていますが、将来的には16層などさらなる高層化も検討されています。

中長期的な成長予測:グローバルメモリ市場は2026年に2,030億ドルと予測され、2033年には4,032億ドルまで倍増し、2026~2033年のCAGRは10.3%に達するとされています。データセンター向けメモリ需要は2030年まで年率33%で増え、HBM出荷は2024年に200%以上増加、2025年にはさらに70%増加すると予測されます。こうしたAIシフトにより、メモリ市場の成長は少なくとも今後5年以上続くと見込まれています。

HBM市場の拡大と供給制約:HBM市場は2025年95億ドルから2030年約304億ドル(CAGR 26.2%)とする強気予測がある一方、別の調査では2030年前後で100億ドル規模(CAGR約25.5〜26.8%)にとどまるとの見方もあり、予測の差は主に先端2.5D/3Dパッケージ能力の供給制約に起因すると考えられます。市場は大手3社の寡占状態で、AI/ML用途がHBMビット消費の78%を占め、SK hynixが53〜55%のシェアを維持しています。

構造的な供給制約と地政学:メモリファブの建設には24〜36カ月を要しと50〜100億ドルの投資が必要で、急激な供給拡大は困難です。メーカーは高付加価値のHBMや高性能DRAMに注力しており、従来製品の供給減少により数年にわたる供給不足が続きます。世界のDRAM生産の約70.5%とNANDの52.6%が韓国に集中しているため、米中間の輸出規制や地政学的緊張がサプライチェーンの分断を招いています。政府はCHIPS法や欧州チップス法などで地産化を促していますが、施設の稼働には数年を要します。

1.2 AIメモリブームが生んだ影響

AI用メモリ需要の爆発は消費者市場にも波及しています。スマートフォンでは高容量化と価格上昇が進み、128GBモデルがほぼ消え、256 GBが新たな標準となりました。PCもメモリ価格上昇や供給制約によって価格転嫁を迫られています。クラウド事業者は供給の不確実性に備え、メモリメーカーと長期契約を結んでおり、メモリがスポット取引ではなくサプライチェーン戦略の対象へと変化しています。

加えて、次世代アプリケーションの需要拡大も顕著です。自動車のメモリ搭載量は2025年の約90GBから2026年には278GBへ増加し、完全自動運転車では2TBに達する可能性があります。スマートフォンのフラッグシップ機は1TBのストレージを標準搭載し、IoTデバイスは2024年時点で18.5億台を超えています。こうした消費者・車載・産業用の広範な需要が中長期的なメモリ市場の成長を支えています。

また、大手クラウドやAIベンダーはHBMの供給確保に向けた長期契約を相次いで締結しています。例えば、OpenAIは2029年までに月間90万個のHBMチップを調達する計画を示しています。この需給ギャップは少なくとも2027年まで続くと予想されており、メメモリが単なる部材ではなく重要な戦略資源へと変化しつつあることを示しています。

2 ポスト微細化時代の主戦場:アドバンストパッケージング

2.1 市場規模と成長ドライバー

急拡大するパッケージ市場:Global Market Insightsによると、アドバンスドパッケージング市場は2025年に335億ドル、2026年には374億ドルへ成長します。その後も拡大が続き、2031年には620億ドル、2035年には953億ドルに達する見通しで、2026~2035年のCAGRは11%です。市場を牽引するのはAIアクセラレータ向けHBM統合、2.5D/3D IC採用、チップレット化、5G基地局向け高密度RFパッケージング、そして微細化コスト上昇による付加価値のパッケージ側への移行です。

主要プレーヤーと集中度:2025年にはASE Technology Holdingが26.5%のシェアでトップとなり、Amkor、TSMC、JCET、Intelを含む5社で74.9%の市場シェアを占めました。特にOSAT最大手のASEやAmkorが積極的に投資を拡大しており、米国・欧州・日本でも先端パッケージングへの公的支援が進んでいます。

設備市場の躍進:2.5D/3D ICパッケージング装置市場も拡大しており、2025年の市場規模87億ドルから2034年には224億ドルに達し、CAGR11.1%で成長すると見込まれています。アジア太平洋地域が52.6%の収益シェアを占め、TSMCのCoWoSやSoICなどの需要に応えるため設備投資が加速しています。データセンター大手4社は2025~2026年に合計2,200億ドル超のCAPEXを発表し、その多くがCoWoSやSoICパッケージングを採用するカスタムAIアクセラレータに向けられています。SK hynixやSamsungのHBMロードマップが12層・16層スタックを視野に入れることで、TSV形成やハイブリッドボンディング装置の需要が高まり、設備単価が上昇しています。

2.2 2.5D/3Dパッケージングの技術動向

2.5Dパッケージング:大面積のシリコンまたは有機インターポーザ上に複数のチップを配置し、配線密度と帯域幅を飛躍的に高めます。TSMCのCoWoS、IntelのEMIB、SamsungのI‑Cubeが代表例で、H100やB200などAIアクセラレータに採用されています。CoWoSの月産能力は2023年の15,000枚から2024年末には45,000~50,000枚へ増強され、2025年末には5万枚に達する見通しです。2.5Dは2025年時点でパッケージ市場の主力であり、高価なシリコンインターポーザを使用しますが、先端AIチップには欠かせないものです。

3Dパッケージング:複数のチップを垂直に積層する3Dパッケージングは、短い配線と高密度を実現できることから注目されています。市場全体ではCAGR14.9%で成長し、ハイブリッドボンディングや熱管理などの課題を乗り越えつつあります。HBM4では主に12層スタックが採用される見込みですが、さらなる高層化に向けた研究も進められており、そのためさらなる高層化のためにはビア形成とTSV接続技術の進化が不可欠です。

ガラスコアインターポーザ:従来のシリコンインターポーザに代わり、低損失で微細な配線が可能なガラス基板への関心が高まっています。ガラスインターポーザ市場は2025年に18億ドルと評価され、年率13.4%で成長し、2034年には56億ドルへ拡大すると予測されています。ガラスは電気絶縁性が高く熱膨張係数が基板と近いため、高密度なTGV(Through‑Glass Via)により高帯域幅接続を実現できることから、AI・HPC・5G用途で採用が進みます。同市場ではアジア太平洋が中心で、IntelやRapidusなどがパネルレベル技術への大型投資を進めています。日本ではRapidusがガラス基板の600mm角パネル上に有機絶縁膜を形成したRDLインターポーザを試作し、2027年の量産化を目指しています。

2.3 光インターポーザとコパッケージド・オプティクス(CPO)

AIデータセンターでは電気配線の遅延と消費電力が課題となり、光インターポーズとCPOがこれを解決する次世代インターコネクトとして注目されています。Yole Group(市場調査会社)とLam Researchが2026年4月に開催した会議では、CPO市場が将来44億ドル規模に成長するとされ、2D/2.5D/3Dパッケージングが必須技術になると報告されました。また、NVIDIAが2025年にSpectrum‑Xフォトニクススイッチを発表し、BroadcomもTomahawk 5 CPOスイッチの試験をMetaと実施するなど、主要ベンダーが相次いでCPO対応製品を投入しています。

光集積回路とパッケージングでは、光ファイバーとフォトニックICのアライメントや封止が重要です。2D CPOではインターポーザ上に光と電気のチップレットを並べ、3D CPOでは光チップと電子チップを垂直に積層する構造が検討されています。Lam Researchはシリコンフォトニクス用の波導形成、ハイブリッドボンディング、光ファイバー結合など複数の工程をサポートする装置群を提供し、CPOの実現に取り組んでいます。

2.4 チップレット化とOSATの役割

Rapidusの2nmプロジェクト:日本のRapidusは2026年4月、NEDOの承認を受けて2nm世代のチップレット・パッケージ設計・製造技術開発プロジェクトを推進しています。2025年度には、ガラス基板の600mm角パネル上に有機絶縁膜を形成したRDLインターポーザを試作し、2027年の量産を目標に2.xD/3Dパッケージング技術の検証を進めています。日本政府の後押しのもと、国内材料・装置メーカーとの連携によるチップレットエコシステムの構築が進んでいます。

OSATの大型投資:Amkorは2025年10月に米アリゾナ州で70億ドル規模の先端パッケージング・テストキャンパスの起工式を行い、第1期工場を2027年中頃に完成、2028年初頭に稼働する計画を示しました。このキャンパスはAppleやNVIDIAなど主要顧客に向けた米国内初の高量産OSAT拠点となり、CHIPS法や州政府の支援を受けて米国に供給網を構築します。2026年5月にはさらに67エーカーの土地を取得し、拠点拡大を発表しており、AI/HPC、車載、通信市場の需要増に対応する姿勢を強調しました。

北米・欧州への波及:アドバンスドパッケージング設備需要は、米国のCHIPS法、欧州チップス法、日本のRapidus計画、インド半導体ミッションなど、政府主導の投資によって地域的に分散しています。米国ではAmkorやIntel、TSMCがアリゾナで先端パッケージング工場を建設し、欧州では自動車向け高信頼パッケージへの投資が進んでいます。

3 中期的なビジネス機会:パッケージ/基板/材料/OSAT

3.1 パッケージ・基板メーカー

アドバンスドパッケージングの主戦場では、パッケージメーカーと基板メーカーの重要性が急速に高まっています。TSMCやIntelなどファウンドリは前工程とチップ統合を担当する一方、OSATは後工程でインターポーザ実装やテストを担います。PCB基板メーカーは有機インターポーザやガラスコア基板の開発によって競争力が左右され、Rapidusのようにガラス基板の600mmパネルを使った試作が業界標準になる可能性があります。ガラスインターポーザは低損失・高平坦性という特長からAI/HPC向けに採用が進む見通しで、コスト低減や生産歩留まり向上によって10倍以上の収率改善が期待されています。

3.2 材料・装置メーカー

2.5D/3Dパッケージングの実現には高精度な装置と材料が不可欠です。TSV形成やハイブリッドボンディングには銅ピラーや絶縁膜材料が必要であり、日本企業(DISCO、芝浦メカトロニクス、東京エレクトロンなど)はこの領域で強みを持ちます。ガラス基板向けには特殊なコーティングや加工技術が求められ、旭硝子や日本電気硝子が有望です。さらに、材料面ではフォトニクス用のSiNx波導材料、モジュレータ用の新材料(LiNiBO₃、2D材料など)の研究が進んでおり、装置メーカーはPECVDやパルスレーザー堆積など多様なプロセスを提供しています。

3.3 OSATと地域分散

HBMやチップレット採用の急拡大に伴い、OSAT企業の役割が前工程に近付き、ファウンドリとの協業が深まっています。Amkorのアリゾナキャンパスのような取り組みに見られるように、OSATが先端パッケージングを国内で担うことでサプライチェーンのレジリエンスが高まります。また、TSMCはCoWoSやSoICの月産能力を2024年末に5万枚、2025年末にさらに増強する計画であり、台湾を中心としたパッケージ供給が継続します。加えて、韓国(Samsung、SK hynix)、中国(JCET、Tongfu)、アメリカ(Intel、Amkor)、日本(Rapidus)などが地域別で生産能力を拡大し、供給の地政学的リスクが分散されつつあります。

4 おわりに:新しい競争軸は「バイトをどう運ぶか」

メモリ需要の爆発とメモリ価格の高騰は、半導体産業に大きな構造変化をもたらしています。AIデータセンターが従来のコンシューマ市場を凌駕する需要を示し、HBM不足のためメーカーはDRAMやNANDの生産能力を高帯域メモリへ振り向けました。その結果、汎用DRAMやNANDは希少資源となり、価格が急騰しています。こうした状況は短期的なものに留まらず、2025~2030年でHBM市場が約3倍に拡大する予測や、メモリ市場全体が2033年に向けて倍増するという展望が示すように、今後も続く見通しです。AI処理のボトルネックは計算能力ではなくメモリ帯域に移りつつあり、HBMとチップレットを統合するアドバンスドパッケージングが不可欠となりました。

今後の競争は「バイトをどう運ぶか」の効率で決まります。2.5D/3Dパッケージング、ガラスインターポーザ、CPOといった技術は、データを短距離で高速に伝送し、電力消費を抑えられるかが鍵となります。日本は材料・装置分野で強みを持ち、Rapidusを中心とした官民連携でチップレット技術の開発を加速しています。OSAT各社や基板メーカーにとっては、パッケージング技術が差別化の源泉となり、中期的に大きな成長機会が広がるでしょう。

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