
生成AIの急速な普及を背景に、世界的にAIサーバー/AIデータセンター(DC)の建設が加速する一方、電力消費量の増大も避けられない課題となっており、各国の重点課題に浮上しています。このような状況の中で、存在感を高めているのが「光」です。テラビット級の高速通信が目前に迫る中、銅配線による電気通信のみでは物理限界が確実視され、光ファイバーによる光配線との共存が始まっています。また、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが、自社イベントの基調講演で光電融合(CPO=Co-Packaged Optics)技術を採用したスイッチ製品が量産体制に入ったと明言したことも、「光」への注目度の高まりに拍車をかけています。
例えば、銅配線による電気通信に比べて光ファイバーによる光通信は、テラビット級の超高速通信が可能で、かつ長距離通信でも伝送損失が非常に少なく、また光ファイバーは絶縁体である石英ガラスで構成されているため、電磁ノイズによる通信エラーの心配もほぼありません。ケーブルも細径・軽量で、放熱リスクがなく、低消費電力である点も利点です。
そのため、DC間通信、DC内のラック間およびラック内通信、さらにはサーバー間へと光ファイバーによる光通信の活用が進んでおり、光に精通する業界関係者からは「AI DCでは依然、電気通信が主流だが、徐々に光通信が台頭しつつある」との声も聞かれます。

AIデータセンターで光通信の利用領域が広がるイメージ
従来は2030年以降と見据えられていたGPUやCPU搭載ボード内、チップ間、そしてチップ内にも「光化」の波が押し寄せており、各社で実用化を見据えた動きが急加速し始めています。サブストレートに直接光コネクターなどを引き込むCPOなどでは、「コネクターとOSAT」といった従来はあまりなかった異業種間のコラボレーションも見られるようになっています。
調査会社の株式会社富士キメラ総研も、光通信関連市場に関して、世界光トランシーバー市場は2025年の3.7兆円から2030年に10.7兆円へ、光ファイバーは2025年の5010億円から2030年に6870億円へ、CPO市場は2025年の1130億円から2030に年14.2兆円へ大幅に伸長すると予想しています(2026年1月公表)。
こうした予想を裏付けるように、光ファイバーケーブル最大手のフジクラは2026年3月、DC向け光ファイバー、光ケーブルの能力増強に日米あわせて最大3000億円を投じると公表しました。同社の岡田直樹社長も2026年2月の決算カンファレンスコールで、「米国のAIインフラ強化案件に対応するためには、まったくキャパシティーが足りない状況。引き続きハイパースケーラーからの受注が好調で、すべての需要に応えきれない状況が続いている」とし、AIサーバー向けの活況はしばらく続くとの見解を示しています。
光デバイスでもエヌビディアがコヒレント、ルメンタム、マーベルへそれぞれ20億ドル出資し、マーベルがセレスティアルAIを買収するなど積極姿勢を見せています。これに伴い、材料や装置分野でも連動した動きがみられ、装置では光通信用レーザー向けのMOCVD装置などで能力増強の動きが出てきています。また、電気信号を光に、光を電気信号に変換する受発光素子に不可欠なInP(インジウム燐)基板では、国内のJX金属、住友電工を筆頭に、国内外で積極投資が打ち出されています。
InPは、データ通信の高速化に不可欠な通信用半導体レーザーダイオード(LD)を生産するために不可欠な基板材料で、AI DCの高速化ニーズを追い風として、InPウエハー、LDともに需要が急激に拡大中です。さらに、近い将来、シリコンデバイスとInPのLDを融合し、演算処理や情報伝送にかかる消費電力を大幅に抑制する「光電融合」の取り組みにも需要増が見込めるとして、参入各社が積極的な増産投資に着手しています。InPの活況は、ITバブル絶頂期の1999~2000年にもみられましたが、現在の盛り上がりは当時を上回る“空前の活況”と言っていい状況です。日本企業が強い分野でもあり、さらなる活躍が期待されます。
InPウエハーは、日本のJX金属と住友電工、米国のAXTが世界3大メーカーとして知られています。JX金属は2026年2月、InPウエハーについて追加の増産を行うため、総額約200億円の投資を決定しました。磯原工場(茨城県北茨城市)でウエハー製造設備一式を増強するもので、2030年時点で2025年比約3倍まで生産能力を引き上げ、2027年度から段階的に稼働させる予定です。今後の需要増に加え、ウエハーの大型化ニーズにも対応する方針です。同社がInPウエハーの増産投資を発表するのは、2025年7月と2025年10月に続いて3度目です。
AXTは、InPウエハーを中国子会社のTongmeiで生産しています。旺盛な需要を受けて、2025年10月から年末にかけて、生産能力を約25%増強したことに続き、既存工場に約3000万ドルを投じて2026年末までに生産能力を倍増する計画で、これにより四半期あたりのInPウエハー生産能力を約2000万ドル規模から3500万ドル規模へ引き上げます。InPウエハーの受注残は2025年9月末の4900万ドルから2025年末に6000万ドル超へ増えているため、2027年に生産能力をさらに倍増させる可能性を検討しており、この場合は1億~1.5億ドルのグリーンフィールド投資が必要になるとみています。ちなみに、一連の増産では6インチウエハーの生産能力を大幅に増強する考えです。
ただし、AXTは「中国の輸出認可」というリスクを常に抱えています。米中摩擦の激化に伴い、中国は2025年2月にインジウムの輸出規制を即時発動させました。これにより、中国子会社でInPウエハーを生産しているAXTは認可取得に時間を要するようになり、実際に2025年2月~6月半ばまで中国国外へ出荷できず、その期間はInPウエハーの売り上げが急減しました。今後の国際情勢で認可取得にさらに時間を要するような事態に陥れば、当初スケジュールどおりに計画を進められない可能性もあります。
住友電工は、2028年のInPウエハー生産能力を2023年比で2.4倍に引き上げる方針を明らかにしています。生産は主に伊丹製作所が担当しており、社内のLD向けおよび外販向けの需要増に対応するのが狙いです。2/3/4インチをラインアップし、主力は3インチと4インチだが、すでに6インチの量産にも対応可能といいます。
インテリエピ(英特磊科技)は、米テキサス州に本社を置く台湾系企業で、MBE(分子線エピタキシー装置)を用いた化合物エピウエハーを米国で製造しています。テキサス州のリチャードソンとアレンに工場を持ち、GaAs、InP、GaSbのエピウエハーを製造。2025年はInPエピウエハーの需要が急拡大し、売上高に占める構成比は2024年の37%から50%に増えました。複数の大手メーカーから量産受注を獲得し、2026年は60%まで構成比が高まることが想定されるため、生産能力の増強とともに、ウエハーサプライヤーからの供給枠拡大に努めています。2024年11月にテキサス半導体イノベーション基金から412万ドルの助成金を獲得し、アレン工場の第2期拡張を推進中で、フル稼働すれば年産能力は約3倍に高まる見込みです。顧客の認定次第で2026年から業績への寄与が見込まれており、2026年は過去最高の業績を記録するとの予想も出ています。
三菱電機は、DCにおける通信のさらなる高速化に不可欠なEML(電界吸収型光変調器を集積したLD)の世界的サプライヤーです。高周波光デバイス製作所(兵庫県伊丹市)で2020~2024年度にかけてEMLの生産能力を5倍に引き上げましたが、2028年度にかけて2024年度比でさらに3倍に引き上げる計画です。さらに、2029年度の計画も上方修正し、2024年度比でさらに4倍に引き上げることを決めました。
これらによって、2029年度の生産能力は2020年度比で20倍に拡大します。設備増強とウエハー大口径化の両輪で増強していく考えで、EMLを生産する同製作所のNVL棟の既存スペースを最大限に活用するとともに、高周波デバイス生産棟であるU棟で一部生産していたパワーデバイス製造設備を2026年内に他拠点に移管し、2027年にEMLの製造設備を導入します。同時にウエハーを3インチから4インチに大口径化し、新規ラインはもとより既存ラインも順次4インチ化していく方針です。
古河電気工業は、光通信に利用されるDFB-LDを2000年から製造する世界的大手で、信号光源用の高出力DFB-LDチップの生産能力を2028年に2025年度比5倍以上に引き上げます。総額380億円を投じて、グループ会社の古河ファイテルオプティカルデバイスがジャパンセミコンダクター(JSC)岩手事業所(岩手県北上市)内の建屋を借用し、DFB-LDチップを製造する「岩手工場」を新設します。延べ床面積は約6000㎡で、2028年4月に稼働予定です。東芝グループとして半導体製造実績を持つJSCの協力を得て、高効率・安定的な供給体制を構築します。また、同じくグループ会社のFurukawa FITEL(ThAIland)で2026年2月に竣工した第2工場内にDFB-LDチップの検査・組立設備を導入します。
住友電工は、DC棟内用の光デバイスの生産能力を2028年に2023年比12倍に拡大する方針を打ち出しています。2024年に2023年比4倍へ増強しましたが、今後の需要に応じて2026年に2024年比2倍、2028年には2026年比1.4倍へ増やします。200G/1波長対応EMLや350mW級の高出力連続波(CW)LDなどを増産する見通しで、トランシーバーの設計に応じて双方を供給できるようにする方針です。半導体チップと光部品を同一パッケージに集約するCPOでは、現行比4倍以上の高出力CW-LDが必要になるため、高付加価値化でさらに差別化を図っていく考えです。
米ルメンタムは、RF半導体大手の米Qorvoから買収したノースカロライナ州グリーンズボロ工場を改修し、InPベースの光デバイスを製造する工場に衣替えします。DCに使用されるCW-LDや超高出力LDなどを製造する予定で、6インチInPウエハーを用いて生産能力を大幅に拡大し、2028年半ばに本格的な生産を開始する予定です。今後数年間で数億ドルを投資し、400人以上の雇用を維持・創出します。前述のようにルメンタムはエヌビディアと戦略的提携を結び、数十億ドル規模の購入契約を得るとともに、20億ドルの資金支援を受けており、生産能力の増強はこの契約を受けたものとみられます。