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自動車・産機・エネルギーを支える半導体―― パワー&アナログの中期成長ストーリー【半導体Insight|有識者コラム】

合同会社アミコ・コンサルティング 友安 昌幸

測定器 Insight 自動車・産機・エネルギーを支える半導体―― パワー&アナログの中期成長ストーリー【半導体Insight|有識者コラム】

生成AIの急成長は半導体市場の注目テーマとなっています。米国を中心にデータセンター向けGPUやHBMの需要が急拡大し、株式市場でもAI関連銘柄への評価が高まっています。ただし、AI需要は単なる短期ブームではなく、中長期的に拡大する構造的な需要です。IEA(International Energy Agency /国際エネルギー機関)が2026年4月にまとめた報告書によると、世界のデータセンターの電力需要は2025年に前年より17%増加し、特にAI向けデータセンターはそれを上回る伸びを示しています。

また、2025年4月の報告書によると、2030年までに世界のデータセンター全体の電力消費は2024年比で約2倍、AI向けデータセンターでは約3倍に増加すると推定されています。2024年時点の世界のデータセンターの電力消費量は約415TWhであり、これは世界全体の電力消費の1.5%に相当し、IEAは2030年にはこれが約945TWhまで増える可能性があるものの、それでも世界全体で見ると約3%にとどまると見ています。

一方、自動車・産業機械・エネルギーといった実体経済の分野では、パワー半導体とアナログ/センサーの役割が着実に拡大しています。本稿では、パワー&アナログを支える中期成長ストーリーを、AI需要との関係も踏まえて整理します。

パワー半導体とアナログ/センサーの役割

パワー半導体は、電力を効率よく変換・制御するための素子であり、その材料としてSiCやGaNなどのワイドバンドギャップ(WBG)材料が注目されています。米国エネルギー省(DOE)は、SiCやGaNが従来のシリコンに比べて高電圧・高温環境に適し、スイッチング損失の低減を通じてシステム全体の小型化と高効率化に寄与すると整理しています。EVのトラクションインバーター、再エネ向けパワーコンディショナ、産業用モータードライブなどでは、WBGパワー半導体の採用が進んでいます。

アナログ半導体とセンサーは、現実世界の物理量を測定し、制御系へ入力する役割を担います。電流、電圧、温度、圧力、振動などを正確に計測し、システム制御や安全設計を支えることで、産業インフラの安定稼働に貢献します。Texas Instrumentsは、自社のアナログ製品について、現実世界の信号をセンシングし、調整し、測定して、制御のためのデータに変換するものと説明しています。この領域では信頼性と長期供給が重視されるため、設計採用後に長期的な売上が見込めるビジネスモデルになりやすい点も特徴です。

成長ドライバー: EV・再エネ・産業機械

電動化する自動車

電動車の普及は、パワー半導体とアナログICの需要を押し上げています。IEAの「Global EV Outlook 2025」によれば、2024年の世界のEV販売台数は1,700万台を超え、新車販売に占める比率は20%を上回りました。電動化が進むほど、1台当たりの半導体搭載量は増加します。特に高耐圧・高効率を実現するSiCパワーデバイスはインバーターやオンボードチャージャーで採用が進み、バッテリーマネジメント向けのアナログICやセンサーの重要性も高まっています。電動化は、規制と技術革新に支えられた中長期の構造変化といえます。

再生可能エネルギーと電力インフラ

再エネの拡大も、パワー半導体需要を押し上げる要因です。IEAの「Renewables 2024」では、世界の再エネ発電容量が2030年までに2022年比で2.7倍となり、累計で約5,500GWの新規容量が追加されると見込んでいます。一方で、送電網や変圧器、蓄電設備の整備は需要に追いついておらず、多くの国で系統接続が課題となっています。このため、送配電設備や蓄電池向けパワーコンディショナー、絶縁監視、保護リレーなどに用いられるパワー半導体やアナログICの需要は、再エネ拡大と密接に結び付いています。さらに、AIデータセンターの増加も電力網への投資を促しており、再エネとデータセンターの双方が電力インフラ関連市場を押し上げています。

産業機械とロボティクス

産業用途では、止まらないこと自体が価値になります。国際ロボット連盟(IFR)によれば、2023年に工場で稼働する産業用ロボットは約428万台に達し、年間導入台数も50万台超を3年連続で維持しました。ロボット密度(製造業の就業者数に対する産業用ロボットの稼働台数(通常、従業員1万人あたり)を示す指標)も2016年の74台から2023年には162台へ上昇しています。協働ロボットや物流ロボット、工作機械の分野でも、サーボ制御やモータードライブの精度が競争力を左右するため、異常検知や予知保全向けのアナログセンサーが不可欠です。EVやデータセンターほど注目を集めにくい分野ですが、工場やインフラの自動化は半導体メーカーにとって長期的な安定需要を生み出します。

AI需要とパワー需要: 競合ではなく相互依存

AIデータセンターの拡大は、半導体需要を計算資源の側面から押し上げる一方で、電力需要も大きく増加させています。前述のとおりIEAは、世界のデータセンター電力消費が2024年の約415TWhから2030年には約945TWhへ増加すると見込んでいます。これは送配電設備や蓄電池、電源変換機器への投資を促す要因でもあります。つまり、AIは計算需要を生み出すだけでなく、結果としてパワー半導体とアナログ/センサーの需要拡大にもつながる構造にあります。

中期成長市場としてのパワー&アナログ

AI向けの先端ロジック半導体は高い成長率と大きな投資を呼び込みますが、投資と需要が同時に膨らみやすく、バリュエーションや供給能力の過熱が起こりやすい領域でもあります。一方、パワー半導体とアナログ/センサーは、EV、再エネ、産業機械、データセンター電源などの実物投資と密接に連動しています。これらの分野では、採用までに品質認証や長期供給の確認が必要であり、一度設計に組み込まれると数年単位で継続的な売上が見込まれるため、収益変動が比較的小さい傾向があります。実際、Texas Instrumentsはアナログと組み込み処理を中核事業とし、産業、自動車、データセンターなど幅広い用途に展開しています。NXPも、自動車およびIndustrial & IoTを主要市場としています。こうした収益構造は、AI関連の話題に隠れがちな長期安定収益源として評価できます。

日本企業への示唆

日本企業は、先端ロジック分野では米国や台湾の大手に比べて見劣りする面がある一方、パワー半導体やアナログ分野では材料、製造装置、品質管理などに強みを持っています。SEMIによれば、世界の200mmファブ容量は2023年から2026年にかけて14%増加し、このうち自動車・パワー半導体向け容量は34%拡大する見通しです。国内でも、SiC基板からデバイス、モジュール、検査装置までを含むサプライチェーン強化の動きが進んでいます。日本企業にとってEV、再エネ、データセンター電源の各市場で日本製品の採用を広げることは大きな事業機会です。一方で、中国勢の台頭やSiCコスト、供給制約といったリスクにも目を向ける必要があります。止まらない需要を捉えつつ、品質と長期供給力で差別化を図ることが重要です。

おわりに

半導体産業は、計算能力を追求する先端ロジックと、電力や制御を担うパワー&アナログという二つの軸で進化しています。AI需要の拡大はデータセンター向け半導体市場を大きく押し上げる一方で、電力インフラへの投資も促し、パワー半導体とアナログ/センサーの重要性を高めています。また、電動車の普及、再エネの拡大、産業機械の自動化といった実体経済のトレンドが続く限り、パワー&アナログ市場は中期的に着実な成長が期待できます。AIの熱狂だけに目を奪われず、長期的な視点でこれらの半導体の価値を捉えることが重要です。

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