
中国で半導体生産体制の強化が継続的に行われています。半導体の国産化政策を示した「中国製造2025」の発表から10年が経ち、中国の半導体製造はレガシー分野(成熟したプロセス技術で製造される自動車、家電、産業機器などで主に使用される汎用半導体)においては強固なサプライチェーンを築き上げました。特に半導体製造それ自体は2021年から2025年の5年間で生産能力が倍増しました。YMTCやCXMTなど国産メモリーの商業生産が始まり、SMIC(中芯国際集成電路制造)や華虹半導体などのファンドリーが中国ファブレスからの受託量を拡大したことが大きいです。これら中国企業だけでいえば、この5年間に生産能力は4倍に拡大しました。
2000年代に入ったころ、半導体製造はすでに世界では300mm製造にシフトしていました。一方、中国は1999年に200mmウエハーを用いた半導体の量産(NECと華虹集団の共同出資の華虹NEC)が始まったばかりで、300mmウエハーを用いた半導体製造は大きく出遅れました。
しかし、中国が2001年にWTOに加盟すると、世界は中国の生産力のポテンシャルを見出し、アパレル、機械、家電などのさまざまな工場が建設されました。そして、このころに半導体工場の投資もあり、現在の中国ファンドリー最大手のSMICが誕生しました。
SMICの量産が始まった2005年当時、中国の300mm工場の月産能力は1万枚しかありませんでした。2000年代はPCの隆盛期で、米インテルや台湾TSMCなどの大手ファンドリーが生産能力を急拡大していました。中国は2015年になっても月産能力が30万枚にとどまっていました。ちなみにTSMCは1社だけでもこれ以上の生産能力を保有していました。しかも、中国企業だけで集計すると、同10万枚しかありませんでした。この当時は中国にある半導体工場の生産能力の3分の2は、海外の半導体メーカーの中国現地工場に占められていました。
中国政府は2015年、ハイテク技術戦略をまとめた「中国製造2025」を発表し、中国は「世界の(下請け)工場」から脱却して世界水準の製品とサービスを生み出す「製造強国」への転換を加速しました。「中国製造2025」では、世界の頂点に立つべく重点的に成長させる10大分野が指定され、半導体や5G通信が含まれる情報・通信技術はその筆頭に挙げられました。中国政府は半導体工場の投資に対して優遇政策や補助金などを提供し、半導体工場の建設ラッシュが始まりました。
この大量補助金拠出時代に誕生したのが、3D-NAND製造のYMTC(湖北省武漢市)とDRAM製造のCXMT(安徽省合肥市)です。両プロジェクトが発表された当時、日本の半導体業界関係者はおそらく誰もこの2社が現在のようなメモリー市場の一角を担う存在になると確証を持っていませんでした。メモリー市場は世界大手数社に寡占化され、新規参入は困難だと思われていたからです。
2017年より以前にも中国で先端メモリーが製造されていましたが、それらはサムスン西安(NAND)やSKハイニックス無錫(DRAM)、当時のインテル大連(NAND、現在はSKハイニックスに売却)などの海外のメモリー企業が、巨大市場である中国で現地供給体制を構築していたのにすぎませんでした。
YMTCとCXMTは後発ながら2018年に工場を稼働し、3年もたたずに新工場を着工するペースで生産体制を増強していきました。2018年当時には中国のメモリー生産能力に占める中国企業の比率は2%しかありませんでしたが、2020年には一気に24%に急拡大し、2025年には43%と半分近くになりました。2020年以降に米中関係の悪化が際立つようになると、海外メモリー3社は中国工場の設備投資を縮小し、新棟建設や新ラインの構築をしなくなり、中国企業の投資ばかりが目立つようになりました。
中国のメモリー工場は2015~2025年に平均年率18%の成長を続けましたが、ロジックファンドリーはこれを超える同27%の成長を続けました。中国政府が進める「半導体の国産化」という錦の御旗を掲げれば、以前よりずっと地方政府や半導体ファンドから工場投資の資金を集めやすくなっていたからです。SMICや華虹集団のような大手が工場投資を行う一方で、数多くの新興ファンドリーが誕生しました。
そして2021年以降に300mmのロジック工場は20~30工場が立ち上げられました。中国では既存メーカーから技術集団がスピンアウトして新興プロジェクトを立ち上げることが多く、このことが新規参入や新工場投資を容易にしています。
しかも、米国が対中半導体装置の輸出規制をかけ始めたことにより、「買えるうちに装置を購入しなければ、次のチャンスがなくなるかもしれない」という警戒心から、実需以上の半導体生産ラインが誕生しました。2024年ごろからは装置を納入してもセットアップせずに木箱の中に入れたままという場合も見かけるようになりました。
いくら補助金頼みだったとはいえ、半導体工場は歩留まりと稼働率がかなり高くないと黒字化できない宿命にあります。使いもしない装置を過剰に抱えて、しかもファブレスからの生産受託案件が増えなければ、事業投資を続けることは極めて困難になります。そのため、投資を継続できる企業と停滞する企業の二極化も進んでいます。
結果的に成長路線を走り続けているのは、大手ファンドリーのSMICや華虹集団、ネックスチップ(晶合集成電路、合肥市)などとなりました。2023年から深圳エリアで300mmファンドリーやメモリー工場の投資が数多くありましたが、「当初計画どおりの量産や能力増強を続けられているのはほとんどない」のが実態です。
2024年の中国の半導体工場投資は、実需以上の装置が納入された「爆投資」の1年でした。その反動で25年は前年割れすると思われていましたが、「入れられるうちに装置を入れておかなければ…」という状況が続き、結果として2025年は前年割れすることはありませんでした。
2025年末に米中関係が好転して、対中輸出規制が1年延期されることが決まり、「2027年には入れられなくなるかもしれないから、2026年のうちに入れてしまおう」という状況に発展しています。2026年も中国の半導体装置市場は安泰とみられます。ただし、バブルを膨らませ続けているので、2027年により大きな反動が出ないか懸念されます。