測定器 Insight

5G通信システム ~ 新世代のモバイル通信を支えるキーサイトのテクノロジー

測定器 Insight 5G通信システム ~ 新世代のモバイル通信を支えるキーサイトのテクノロジー

(キーサイト・テクノロジー株式会社 (左から)高橋氏、徳田氏

 「高速大容量」「低遅延」「多接続」などの特徴を持つ5G通信サービス(第5世代移動通信システム)が始まろうとしています。 「携帯電話」の枠を超えて自動運転やIoTなどの応用範囲を大きく広げると期待されている5Gの機器開発やシステム運用の現場で欠かせない計測器のトップベンダーである、キーサイト・テクノロジー株式会社を取材しました。

キーサイト・テクノロジー株式会社の歴史は、1963年に米国Hewlett-Packard(HP)が横河電機との合弁会社として、横河・ヒューレット・パッカード株式会社を設立したところから始まります。
その後、日本ヒューレット・パッカード株式会社、アジレント・テクノロジー株式会社を経て、2014年8月に電子計測器にフォーカスしたキーサイト・テクノロジー(以下、キーサイト)になりました。

ロボット Insight レジリエントな社会をつくる災害対応ロボットの現在地

(※日本とキーサイトの歴史 提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

目次

  • 着実に進みつつある5G導入がもたらすモバイル通信市場の拡大と激変
  • 新しい技術、不確定な規格、短いリードタイムという難敵
  • 高周波化・小型化・複雑化に対応できる新しい計測ソリューションが必要
  • 5G通信システムに大きく貢献するキーサイト

着実に進みつつある5G導入がもたらすモバイル通信市場の拡大と激変

--新しい無線通信技術である5Gを使用したサービスの導入はどのように進んでいるのでしょうか?

・徳田氏
「5G通信サービスは今年(2019)の4月にはアメリカと韓国で、9月には日本でもプレ商用としてサービスが始まりますが、いずれも限定的な地域や端末で提供されるもので、本格的な展開は2020年からとなります。 日本では東京オリンピック前の2020年3月以降に携帯4社が相次いで商用サービスを開始する予定です。

導入のペースとしては2024年には世界人口の40%が5Gを利用可能になり、41億個のIoTデバイスが5Gで接続され、5Gが全ての無線通信トラフィックの25%を担い、関連する市場規模は2035年には3.5兆ドル、つまり約400兆円に拡大すると見込まれています」

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(※5G will Change The World 提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

--5Gが携帯電話の枠を超えてモバイル通信のユースケースに変革をもたらすことが期待されていますが、具体的にはどのようなものが考えられるでしょうか?

・徳田氏
「携帯電話はもともと『人間の声を伝える』ために発展してきましたが、5Gは『モノとモノをつなぐ』用途を非常に重視しています。 例えば現行のLTEまでの規格に比べて5Gには『超低遅延』『多数同時接続』という特長があります。 『超低遅延』であることによって自動運転車や遠隔手術などの実現に近づきます。 『多数同時接続』はスマートフォンやパソコンだけでなく、人間の数をはるかに超える膨大な家電や物流タグをも同時接続可能にするものです。 これらの特長から5GはIoT(Internet of Things)やM2M(Machine to Machine)の発展を支える基盤技術になるといえます」。

--5Gは、機器開発や運用における計測器のニーズにどのような影響を与えると考えられますか?

・徳田氏
「IoTの展開を考えますと、携帯電話だけでなくあらゆる機器に無線通信機能が搭載されていくわけですから、 自動車、医療、家電、物流や防衛宇宙などでこれまで無線を扱っていなかったメーカーさまや運用の現場にもある程度の計測ニーズが生まれていくと考えられます」

新しい技術、不確定な規格、短いリードタイムという難敵

--5Gに対応する計測機器の開発・運用にあたって乗り越えなければならないハードルにはどのようなものがありましたか?

・徳田氏
「新しい技術体系であったために計測方法も1から考えなければなりませんでした。 5Gでは6GHz以下(Sub-6GHz、FR1)と24GHz以上(ミリ波、FR2)の二つの周波数帯を使いますが、いずれにしても今までの携帯電話で使用されていたよりも高い周波数帯であり、 電波の直進性の強さや空気中での減衰の大きさなどからこれまでは移動通信には不向きとされてきた周波数帯です。 それを克服するために大規模MIMOやビームフォーミングといった、いくつもの新しい技術が採用されていますが、その分技術的にも複雑さが増しており、それを計測する方法にもブレークスルーが求められました。 しかも、新しい技術であるだけにその規格がなかなか確定せず、一方でいち早く商用サービスを開始したい、 あるいはオリンピック前に商用サービスを開始したいなどビジネス上の事情により短いリードタイムでの開発を求められていることが大きなハードルでした」。

高周波化・小型化・複雑化に対応できる新しい計測ソリューションが必要

--そのハードルを乗り越えるためにどのようなソリューションが必要であったか、具体的な製品例がございましたらご紹介ください。

・徳田氏
「5Gではこれまでに例のない高周波を使用しますので、RF系の全ての計測器で新しい仕様への対応が必要になりました。 また、小型化に関わる技術的ハードルの中でも大きかったものがOTA(Over The Air)計測です。 LTEまでのシステムでは信号処理モジュールとアンテナが分離していたため、その間に端子をつなぐことで電波出力を測定できました。 しかし5Gでは1チップ内に信号処理モジュールとアンテナを内蔵してしまっているためその方法が使えず、実際に空中に放出される電波そのものを計測しなければなりません。 これがOTA計測で、この方法が確立していなかったため、日本のお客さまも含めて当社に非常に多くのご相談をいただきました。 そこでOTA計測を効率よく高精度で行う方法を当社で開発し、5Gの規格団体である3GPPに提案し採択されたという経緯があります」。

「実際にOTA計測を行うために開発したのがCATR(コンパクト・アンテナ・テスト・レンジ)です。 吸収材を貼った電波暗室の中に測定対象端末を設置するポジショナー、プローブアンテナなどの機器を一式備えており、コンパクトな設備で高精度なOTA計測が可能になります。 このような方法でOTA計測できるという方法自体を当社が規格団体3GPPに提案し採択されましたので、規格にのっとった計測が可能です」。

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(※CATR  提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

「また、PNA-XシリーズネットワークアナライザはSパラメータ、雑音指数、アンテナ放射パターンなどを計測するもので、部品系のお客さまに利用されています」

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(※PNA-Xシリーズ 提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

「信号発生器M9384Bは、ミリ波において業界初のデュアルチャンネル、つまり二つのチャンネルでの信号出力が可能です。 5Gで使用するMIMO技術は複数のアンテナを使用して電波を送出します。その計測を行うためには複数の信号を厳密に同期させなければなりません。 デュアル出力が可能なこの装置を使いますと、44GHzのミリ波帯域まで簡単に対応することができます。
N9041Bスペクトラムアナライザまたはシグナルアナライザと呼ばれる測定器は、実際に発生している電波をさまざまな面から解析する機器です。 2Hz~110GHzの周波数に対応しますので、5Gで使用するミリ波帯域を解析できます」

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(※M9384B信号発生器 提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

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(※N904スペクトラムアナライザ 提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

「E7515Bは基地局シミュレータで、端末を作られている端末メーカーさまや移動体通信事業者さまで主に利用されています。 これはソフトウエアを変えることによって、R&Dの初期の段階からRF、プロトコル、RRMなどのレイヤーおよび機能試験に対応します。 単体ではSub-6GHzですが、オプションのミリ波ヘッドをつけるとミリ波帯まで対応できます。 また、1台で複数の基地局を模試できますし、5Gスタンドアロン、LTEと併用するノンスタンドアロンなど、規格で規定されている多様な試験方法に対応しています」。

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(※E7515Bシグナリングテスタ 提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

・徳田氏
「Propsimはフェージングエミュレータです。5Gに限らず、無線システムは基地局が近かったり遠かったり、周辺にビルがあったり無かったり、あるいは徒歩で、自動車で、新幹線上でとさまざまな環境で使われます。 それらの環境条件の違いによって電波の飛び方に差が出ますので、そうした多様な条件で接続試験をしなければなりません。その試験を効率良く行うために試験室内でそのエミュレートをする機材です」。

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(※Propsimフェージングエミュレータ 提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

「M9410Aは5G NRデバイスと基地局の製造ライン向けのソリューションです。製造ラインでは短時間で多数の試験をこなすスループットとスペース効率の高さが求められますので、小型で高速に測定可能な仕様となっております」。

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(※M9410A 提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

「Nemoは基地局のカバレッジを可視化するためのソリューションです。街中で例えばビルの陰でも電波が届いているかどうかを確認するためには実際に現場に機器を持ち込んで測定しなければ試験になりませんので、このような機器が使われています」。

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(※Nemo 提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

5G通信システムに大きく貢献するキーサイト

--キーサイトさまは5G通信システムの規格制定と実用化にも大きく貢献されているそうですが、具体的にはどのようなものがありますか?

・徳田氏
「はい、当社は他のどの計測器ベンダーよりも3GPPの5G NR規格制定に大きく貢献しております。 先ほどご紹介したOTA計測での規格であるCATRもその一例です。 また、携帯電話端末とネットワーク間の相互接続試験を策定しているGCF/PTCRBへの認証テストケースの提供でもリードしています」。

・高橋氏
「もちろん5G通信にはOTAの他にも非常に多くの技術要素がありますし、通信システムというのは規格が決まっただけでは実用化はできません。 実際に効率良く精度の高いものを作るためには、設計・製造・検証・運用のあらゆる場面で規格にあったテストを行える計測器が必要です。 そして当社はその全てを一括して提供できます」。

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(※Keysight’s Total Solutions Drive Industry Acceleration 提供:キーサイト・テクノロジー株式会社)

「こちらの図は横軸がチップセットから端末、基地局といった『装置』視点、縦軸がレイヤー1から7のプロトコル視点で技術要素をマッピングしたものです。 赤色のKeysight Classic というのは当社がもともと持っていた技術ですが、2015年にAnite(グレー)、2017年にIxia(オレンジ)の両社を買収して、プロトコルスタックの全てをカバーできる体制を整えています。 通信システムのように異なるモジュールが高度に連携して動くシステムを開発・運用するためには計測器にも高度な連携、各社チップセットとの相互接続性が必要になります。 例えば携帯端末メーカーが5Gに対応するためには5G対応チップセットを使用しますが、そのチップセットにつながる計測器でなければ試験ができません。 その点当社は多くのチップセットベンダーさまとの協力体制を確立していて、真っ先に接続保証を得ておりますので、端末メーカーさまにとっては安心して使用できるわけです。
これらの理由、つまり規格の提案と実用的な計測ソリューションの提供という二つの側面で、当社は5G通信システムに貢献しております」。

--本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

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