
生成系AIが牽引した2025年は、半導体業界の軸足がハイエンドGPUとHBMメモリに集中した。しかし、2026年に入り、市場ではロジック・パワー・アナログ・パッケージといった幅広い技術領域に分散投資を図る動きが加速している。TechInsightsのデータによると、2026年2月20日週の半導体販売は前年比で増加したものの、DRAMとNANDが牽引役となり、ロジックやアナログ/パワーICは比較的緩やかな伸びにとどまった。AI特需に依存した偏った投資は、供給制約や価格変動の影響を受けやすい。そこで本稿では、先端ロジック、パワー半導体、アナログIC、そして先進パッケージングの4分野に焦点を当て、技術ポートフォリオをどう組み替えるべきかを考察する。
NVIDIAとAMDが主導するAIアクセラレーター競争は、Blackwell/RubinやMI350シリーズといった超大型GPUの登場でさらに激しさを増している。一方で、今後は単一ダイの性能向上だけでなく、複数ダイを統合するパッケージング技術が競争の主戦場となる。TSMCは2026年末までにCoWoS(チップ・オン・ウエハー・オン・サブストレート)月産能力を13万枚に増強する計画を発表し、AIモデルの複雑化に伴うパッケージングボトルネックの解消を目指す。同社はCoWoS‐L(局所シリコンインターポーザ)によって2枚の巨大なGPUダイを高速リンクで接続し、BlackwellやRubinといったアーキテクチャに必要な統合を実現している。
さらに大胆な取り組みとして、TSMCはCoPoS(Chip‑on‑Panel‑on‑Substrate)を導入し、300mm円形ウエハーから310mm角形パネルへの移行を進めている。従来のCoWoSは円形ウエハーの曲率のためエッジ部に無駄が発生していたが、CoPoSでは面積利用率が57%から87%へ大幅に向上する。これにより、3nmクラスの計算ダイ2枚とHBM4スタック12〜16個を同一基板上に配置できるため、Rubin世代やその先の超大型AIチップに対応する。AMDやBroadcomもこの技術に関心を示しており、TSMCはCoPoSによってサプライチェーン上の競争優位を拡大しようとしている。
パワー半導体市場では、onsemiが大胆な事業転換により注目を浴びている。同社はかつて汎用デバイスのサプライヤーだったが、2026年2月時点では車載電動化、産業オートメーション、AIデータセンターといったメガトレンドに集中する「インテリジェント・パワー&センシング企業」に変貌した。200mm SiCウエハーの量産体制を確立し、SiCサプライチェーンを内部保有することでコストと品質の両面で優位に立つ。同社はまた、HyperluxイメージセンサーやAIデータセンター向けの縦型電源供給モジュールなど、多面的な製品ポートフォリオを展開している。
なお、300mm(12インチ)SiCウエハーについてはCoherentやWolfspeedなど一部企業がAIデータセンターやAR/VR向けに研究開発を進めているものの、現状は試作段階にあり量産や商用化には至っておらず、車載・産業用途では当面200mmウエハーが主流であることにも留意したい。
業界トレンドとしては、EVのバッテリー電圧が400Vから800Vへシフトし、SiCデバイスへの需要が急増している点が重要である。さらに、AIデータセンターが2030年には世界の電力消費の10%を占めると予測される中、電力効率を1〜2%改善するだけでも大きなコスト削減につながるため、高効率パワー半導体の重要性は増す。
独Infineonは、AIデータセンターとEV市場からの需要増に対応するため、2026年4月から特定のパワースイッチやICの価格を改定すると顧客に通知した。これは原材料費や設備投資の上昇を吸収するためであり、半導体サプライチェーン全体で価格転嫁が広がっている。アナリストは、AIサーバーやEVの需要が供給制約を招き、パワー半導体が最もタイトな分野の一つになっていると指摘している。
STMicroelectronicsやWolfspeedもSiC事業への投資を増やしており、米国のCHIPS法や欧州のEU Chips Actなどの助成金を活用して生産拡大を図っている。競争は激化しているものの、onsemiが200mm SiC量産で先行し、Infineonが価格統制で収益性を維持するなど、各社の戦略は多様だ。
アナログICの世界では、テキサス・インスツルメンツ(TI)が2026年を「収穫年」と位置付けている。TIの売上の約75%はアナログチップで構成され、電力管理ICや信号チェーン製品が電気自動車や産業機器に不可欠である。同社は自社ファブを持つ垂直統合モデルを推進し、300mmウエハーを活用して生産コストを下げることで競合他社を価格面で追い落とす戦略を取っている。最新の報告によれば、2025年通期売上高は176.8億ドルで、フリーキャッシュフローがほぼ倍増した。2026年第1四半期に連続増収を見込むことは、景気後退局面からの回復を示唆する。
TIはまた、電力密度向上を目指した組み込みプロセッシングやGaNパワー半導体に投資し、300mm工場の立ち上げによる稼働率向上を図っている。競争環境ではAnalog Devicesがファブライト戦略で高い利益率を維持する一方、TIは自社製造能力を武器に価格競争力を強化している。さらに、TIが2026年2月に無線接続IC大手Silicon Labsを約75億ドルで買収すると報じられ、エッジAIや産業IoT向けの接続技術を補完する狙いが読み取れる。この買収により、アナログ+電力+無線接続という総合プラットフォームを構築し、長寿命かつ高信頼性が求められる産業用途で優位を築こうとしている。
アナログチップは成熟ノードで製造されるため競合が激しい。2026年には中国企業が低価格帯のアナログ部品で台頭し、TIやAnalog Devicesはハイエンド用途へのシフトと価格競争に直面している。しかし、AIや自動化が拡大するにつれ、物理世界とデジタル世界をつなぐアナログ信号処理の需要は着実に増えている。特にEdge AI端末では、センサーや電源管理が性能と省エネを左右するため、アナログ半導体の技術革新が不可欠となる。
半導体業界では、ロジックやメモリの微細化競争だけではなく、異種チップを組み合わせるパッケージング技術がボトルネックとなっている。TSMCは、CoWoSの月産能力を2024年比4倍の13万枚に増やすことで、AIハードウエアの供給制約を解消しようとしている。CoWoSでは複数のダイとHBMをシリコンインタポーザー上で接続し、高帯域かつ低消費電力のデータ転送を実現する。Blackwellアーキテクチャでは、二つの巨大GPUダイをCoWoS‐Lで連結し、一体のプロセッサとして動作させる。
CoPoSはCoWoSを進化させ、円形ウエハーではなく四角いパネルにチップレットを配置する新しいアーキテクチャである。310×310mmのパネルにより面積効率を大幅に高め、複数の計算ダイと大量のHBM4を一つのパッケージに統合できる。この技術は、2027〜2028年に登場予定のNVIDIA「Rubin」シリーズが採用する見通しで、AIモデルのさらなる巨大化に対応する。ただし、技術的には熱ひずみや戦略的集中によるリスクも指摘されており、AP7工場が集中する台湾への地政学的依存が高まる。将来的には米国アリゾナ拠点への導入やガラスコア基板への移行も検討されている。
AIブームは半導体需要を爆発的に拡大させたが、その恩恵はロジック、メモリ、パワー、アナログ、パッケージングといった多様な分野に分散している。本稿で取り上げたポイントをまとめると、以下のようなポートフォリオ再編の指針が見えてくる。
| 観点 | 主な動向 | 戦略的インプリケーション |
|---|---|---|
| 先端ロジック | TSMCがCoWoS能力を4倍に拡大し、NVIDIAやAMDが複数ダイ統合を前提としたRubin世代に進む。CoPoSによるパネルレベルパッケージングが、巨大AIチップ実現の鍵となる。 | パフォーマンス向上にはパッケージングの革新が不可欠。設計部門はパネルレベル集積を前提にアーキテクチャを再考する必要がある。 |
| パワー半導体 | onsemiが200mm SiC製造と垂直統合でEV・AI用電源市場をリード。InfineonはAIデータセンター需要を背景にパワーICの価格を引き上げ、供給制約が顕在化。 | EVの800V化やAIデータセンターの電力消費増大に対応するため、SiCやGaNを中心としたパワーデバイスへの投資を拡大する。サプライチェーンの垂直統合も重要。 |
| アナログ半導体 | TIがアナログIC比率75%の成熟ノードビジネスを基盤に、300mmファブによる低コスト生産と無線接続強化のためのSilicon Labs買収を進める。 | 長寿命市場を狙うアナログ企業は、製造能力を自社に持つことで価格競争力を高める必要がある。無線接続や組み込みプロセッシングとの統合でシステム提案力を強化する。 |
| パッケージング | CoWoS・CoPoSによるシステムオンパッケージへのシフト。パッケージング能力不足がAIインフラのボトルネックとなっており、TSMCが台湾に新工場を建設して能力を拡大。 | 先端パッケージングはサプライチェーンの地政学的リスクを高める一方、価値創出の中心となる。企業は複数地域での能力確保やOSATパートナーとの連携を強化すべき。 |
半導体産業は依然としてAI主導の高成長が続くが、単一の技術領域に偏った投資はリスクを孕む。先端ロジックで性能を追求しながらも、電力効率を高めるパワー半導体や信号処理を担うアナログIC、そしてこれらを統合するパッケージング技術へのバランスの取れた投資が求められる。2026年はまさに「モア・ザン・ムーア」時代の入口であり、システム全体の最適化が企業価値の源泉となる。今後の技術ポートフォリオ再編においては、分散投資と垂直統合、そして地政学リスクを見据えたサプライチェーン戦略が鍵となるだろう。